平成資本主義にみるハゲタカの始まり!


あなたは何者?ウォール街からの一本の電話が私の人生を変える

15年以上前のあの日のことは、今でも鮮明な記憶として私の脳裏に焼き付いている。

楽天によるTBSへの買収提案、ライブドアによるニッポン放送株式の買付、村上ファンドによる阪神電鉄株取得等、敵対的買収と呼ばれる一連の事件が一世を風靡する数年前のことだ。

私は当時、大手外資系監査法人にて事業再生コンサルティングに従事していた。ある日、クライアントの一つであるとあるウォール街の名門投資銀行から突然連絡が入り、北海道・東北地方一帯でスーパーチェーンの事業再生に協力してくれないかとの要請を受けた。勿論地方再生にお役に立てるのならということで、二つ返事でそのスーパーチェーンの調査及び再生プラン作りに着手することとした。

クリスマス前の北海道、サンタは訪れるのか?

電話を受けて2日後のクリスマス前夜の札幌空港、大雪のあおりで飛行機が遅延する中、はじめて北海道に降り立った(まるで映画ダイハード2のようなタイミング)。そこから渋滞の中、車で1時間ほど、本社ビルを訪れた。ビル自体は決して新しいものではなかったが、清掃が行き届いており、従業員からも礼儀正しい挨拶で迎え入れられた。私の経験からすると、事業再生が必要な企業はヘタっていることが多くどこかどんよりとした空気が漂っているものだが、その本社は何だか雰囲気が違うというのが第一印象。むしろ著名スポンサーから支援を受けることで前向きな投資ができるようになることに期待しているかのような高揚感すら漂っていた。

その創業者に話を伺うと、北海道・東北地方でもコンビニが徐々にシェアを広げつつあり、従来型のロードサイドを得意とする同スーパーチェーンへ向かう客足は年々減少傾向にあるとのこと。加えて、イオングループやセブングループ等の大手チェーンやショッピングモール型複合施設の攻勢も激しくなっていた。中長期的な成長を考えるならば、まだ何とかキャッシュがあるこのタイミングで業態転換することが不可欠であるが、それには多額の資金が必要となること、創業者は既に高齢であり、今後の事業承継のことも考えると、優良企業にスポンサーに入って貰うのが得策との結論に至ったとのことであった。

ホワイトナイト、それともハゲタカ?衝撃の結末!

私は、現状を把握すべく、徹底してビジネス・デューデリジェンスや財務デューデリジェンスを行った。その結果、一部の不採算店舗の閉鎖による止血を行うと同時に、当該店舗の売却によりキャッシュを捻出し、人口動態や消費動向を参考に、重点地域を見定めそこで新業態店舗を立ち上げるという再生プランを作り上げた。

しかし、スポンサーである当該米系投資銀行は、創業者に対しては、我々が作成したプランをもとに事業再生を図ると説明しつつも、裏では全く異なる絵を描いていたことを、私は後で知らされることになる。それは、スポンサーとして同スーパーの株式を買い占めた後に、創業者を解任し、9割以上の地域でスーパーを廃業させ、不動産業としてマンションや商業ビルを建てるというものだった。最初はホワイトナイト(白馬の騎士のごとく窮状を救ってくれるスポンサー)かと信じて疑わなかったのに、実はハゲタカ(企業を買い叩き、解体して売り抜ける悪徳ファンド)、MBAの教科書に出てくるようなこんなケースが本当にあるのかと驚愕!

資本の効率だけを考えるならば確かにその投資銀行の言う通りかもしれない、しかし企業は血の通う生き物であり、そこには経営者がいて、従業員がいて、取引先がいて、そこでの信頼関係や人々の営みが、人の思いの集合体としての組織を支えており、それは簡単にマネできるものでもなければ、資本主義のおもちゃとしてパズルのように簡単に組み替えられるものでもない、というのが私の持論である。そもそもその投資銀行は表と裏の顔を使い分けておりやり方が汚すぎる。

私はそのハゲタカの手口を知り激しく抗議したが、もはやハゲタカの手に堕ちた企業をどうすることもできず、忸怩たる思いであった。

平成資本主義とは何だったのか?

私はその日を境に、「このままでは日本はハゲタカに食い潰されダメになる。日本の経営者の思い、伝統、資産を受け継ぎつつ、本質的な課題を解決することで、日本を元気にしたい。」と心に強く誓った。

これが若かりし頃の私の原体験、その後の私の人生を決めることになる。

平成資本主義とは何だったのか?その後に続く敵対的買収、アクティビストの動き、更に現代に続くガバナンス改革の意味を、私なりの視点で解説していきたい。そして私自身が闘ってきた歴史を振り返りつつ、今後の自分の人生の軸に関して皆様とシェアしていきたい。

(出所:上記本文は筆者の経験に基づくものです。文中の写真はテレビ朝日「ハゲタカ」を参照しましたが、本文と直接関係ありません。)