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「カフェ」の「情報発信」についての雑感 〜リピーターとしての視点〜

「カフェ」を営むにあたって、やるべきコトはたくさんある。
その中でも、情報化が進み、大多数のヒトがスマホを操るようになった時代にあっては、「情報発信」の占めるウェイトが年々高まってきているように思う。
仕込みや準備を終えたばかりであろう早朝深夜の時間帯や、定休日の貴重な時間を割いて投稿されている方もよくお見かけする(いつもいつも本当におつかれさまです。そして、くれぐれもご無理なさらぬように・・・)。

そもそも、「カフェ」において、なぜ「情報発信」は必要なのか。
以下、思いつくままに挙げてみた。

1.基本情報(営業日、営業時間、注意事項)をアナウンスするため
2.本日の営業の有無、臨時休業、営業時間の変更をアナウンスするため
3.商品の売り切れ、入荷をアナウンスするため
4.お店の新商品、目玉商品をアピールするため
5.通常営業とは異なる特別なイベントをアナウンスするため
6.お店を訪れたお客さんの「声」、それに対するお礼を共有するため
7.お店の日常の活動、お店でのできごとを知ってもらうため
8.店主さんが考えているコトを知ってもらうため

1~8の数字は、あくまで私一人の考えであるが、お客さんがお店を訪ねようと考えているときに知りたい情報の優先度の高さの順番である。
あくまで「優先度」であって「重要度」とイコールではない点を強調しておく。

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「カフェ」の情報発信のツールは、2010年代前半まではホームページやブログが主流だったと思われるが、スマホが広く普及した2010年代後半からはインスタグラムが主流となり、今はほぼそこに一本化されたように思う。

インスタグラムは、上に挙げた1~8のうち、1~6を目的とした情報発信との親和性が高いと考える。
どのお店でも必要となる1は、プロフィール、ハイライト、固定投稿に書かれていることが多いと思われる。基本情報の中でも最も重要な情報である営業日と営業時間はプロフィールに、やや複雑な注意事項はハイライトまたは固定投稿に、と濃淡を付けることができることがインスタグラムの強みであろう。
2~3は、速報的またはその日限りのお知らせの要素が強いので、ストーリーズ投稿が活用されることも多いようだ。ストーリーズ投稿の場合、未読のものはページトップに表示されるので、お客さんに注目してもらえるし、24時間で消えるので投稿数がかさんで見づらくなることもない。
4~5は、基本的に前もってお知らせされるものなので、フィード投稿となることの方が多い印象がある。4は、美しい商品の画像を並べることで未訪、リピーター問わずお客さんを惹きつけることができるし、その日訪れる予定がないヒトたちにも訴求できる。5は、イベントのフライヤーの画像などをそのまま載せればわざわざ投稿を開かなくてもおおまかに内容を知ってもらえるので便利だ。

6は、インスタグラムが広く活用されるようになってから見られるようになったもので、インスタグラムの「十八番」というべきものだろう。ブログの時代まではコメント欄でしか店主さんとお客さんとのやり取りがなかったと思われるが、インスタグラムのストーリーズ機能が活用されることで、画像(場合によっては動画)を介したコミュニケーションが可能となっている(そして、24時間で消えるため、ずっと後にまで残るので恥ずかしいという気持ちになることもない)。
飲食店全般のアカウントを隅々まで眺めたわけではなく、あくまで印象論だが、このコミュニケーションは「カフェ」で顕著に多く見られるものだと思う。
そもそも「カフェ」では、頼んだ料理、ドリンク、スイーツの写真を撮るヒトたちが多い。「カフェ」でこれらの写真を撮るのは、ただ単に食したものを記録するためだけでなく、そのお店で何を目にしたのか、何について語らったのか、何を考えていたのかといったコト ― その日その時の「空間」「人間」「時間」 ― について後から振り返り、思い出すためというのもあるのではないだろうか。
そのため、「カフェ」での写真を見ると、そのお客さんがお店で過ごした楽しい時間の様子が浮かんでくるようであり、その場にはいなかった他のヒトたちの共感も呼びやすいのではないかと推測する。

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残る7~8について。

1~8は、優先度の高さの順番と先に述べたが、逆に、自由度の高さの順番は8~1となると考えている。
7~8は、(そのような内容の投稿をしているかどうかを含めて)お店によってカタチはさまざまであり、内容も多岐にわたるようだ。

例えば・・・
・お店の開店までの準備時間にこんなことをしています
・お客さんと接してこんなうれしいできごとがありました
・季節の移ろいによってこういう自然風景/農産物に出会えるようになりました
といった日常の活動やできごと。

・知り合いまたはお店の近隣には、こういう佳きお店があります
・お店の「商品」「空間」に欠かせないモノ(素材・うつわ・道具など)の生産者/作者さんとはこういう出会いがありました
といったヒトのつながりに関すること。

・お店を開業するにあたって、こういうきっかけ、思いがありました
・お店の物件を見つけるとき、あるいは開業準備の間にこんなコトがありました
といったお店にまつわる深い話。

「カフェ」の営業を1つの物語とするならば、7~8は、いわゆる「日常パート」に相当するものである。お店にたどり着き、モノを食すという目的「だけ」を考えれば、絶対に必要なものとまでは言えないのだろう。
しかし、「日常パート」の存在が物語に深みを与えるように、このような投稿によって、オンラインだけではなかなかうかがい知れないお店の姿勢、信念あるいは店主さんの人柄が浮かびあがるようであり、そこから興味や愛着が育まれるのではないか、と考えている。

「カフェ」の魅力は、一度二度の訪問だけではなく何度か足を運ぶことで感じ取られる部分が大きいと思う。「カフェ」をリピートしたくなる動機、理由はヒトそれぞれだと思うが、お店の「内面」に触れ、そこに思いが及んだとき、そのお店は、ただモノを食すだけではない特別な場所になっていく気がするのだ。

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7~8の投稿をお店側が発信、またはお客側が探すにあたっては、インスタグラムは、便利なツールとは言いがたいのではないかと思う。

・インスタグラムのフィード投稿は、1~5がメインで時々7~8となりがちだが、これらの投稿の判別がつきにくい(タイトルがないため、画像から判断するしかない)。
・インスタグラムには、ブログと異なり、アーカイブを時系列に整理する機能がないため、過去の投稿を遡って読むことが非常に手間である。
・そもそもインスタグラムは、画像が主役であり、文章(キャプション)は脇役なので、見出しをつけたり、フォントを操る機能がなく、長文を投稿するのに適していない。

このため、「カフェ」の情報発信のツールがインスタグラムに一本化された現状では、1〜6が前面に押し出され、7〜8がそのスキマに隠れてしまったり、棚の奥へとしまい込まれがちであり、お店の「内面」をうかがい知るための情報を断片的にしか拾い集めることができなくなっているように感じている。

インスタグラムに限らず、SNSでは、「今どうなっている」「過去のある時ではこうだった」という時「点」の情報ばかりに力点が置かれているのではなかろうか。
今は過去の延長「線」の上にあり、過去のできごとの積み重ねがあってこそ今がある。過去とは、検索窓にキーワードや条件を入れて一気にジャンプしてたどり着くものではなく、現在地から長い長い過程を遡って地続きとなってつながっているはずのものである。

お店を真の意味で「知る」というのは、開業時から今に至るまでの進化の軌跡・・・目にははっきりと見えない「線」を見つけることなのでは、と思っている。
そして、その「線」を見つけようとアレコレ考えを巡らせたり想像を働かせたりする行為こそが、お店を「愛する」ということなのだろう。

視覚的な情報があらゆる媒体においてあふれ、持て囃される時代ではあるが、その荒波の中にひっそりとたたずむ小話、エピソードなど ― 「線」を見つけるための手がかり ― を見逃してしまわないよう、埋もれたり風化させてしまわないよう、皆さまの情報発信に引き続き注目していきたいと思う。「カフェ」をもっと愛し、知ることができればいいなと思っている。

(2024.6 記)


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