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デンマークに学ぶサステナブルな社会のヒント ~電子政府の事例を中心に~【前編】

はじめまして。地域循環型ミライ研究所(以下、ミライ研)の猪狩です。この2024年4月から、研究所に参画しました。

 実は私のキャリアの中で、今回は2回目の研究所勤務となります。10数年前、調査研究を通じてデンマークに出会い、彼らが”競争力と幸福“を両立したサステナブルな社会を創り出す秘密を解き明かすことに夢中になりました。今回は自己紹介を兼ねて、IT利用先進国デンマークの電子政府事例や成功要因、サステナブルな地域社会へのヒントを中心に、シェアしていきたいと思います。(【前編】では、私の自己紹介、デンマークに注目した理由などについて、お届けします)




―自己紹介 ~幼少期の原体験~

 私は、東京生まれ、東京育ちですが、幼少期は毎年、岩手県一関市にある母の実家で長い夏休みを過ごしていました。朝から晩まで、大自然の中で遊び尽くし、収穫したお米や野菜、庭で飼っていた鶏の卵を食べるといった自給自足に近い生活の中で、子供ながらに自然の恩恵を感じていました。

一方、台風が来ると、北上川が氾濫して洪水になり、田んぼは水浸して集落全体が大きな被害に。高台にある家の玄関先まで水が押し寄せて、避難した屋根裏部屋から濁流を眺めたのは、死を感じる恐ろしい体験でした。

日常では人間に恩恵をもたらしてくれる美しい自然は、時に恐ろしい猛威となる。小学生の頃の私は、これらの原体験とカトリックの幼稚園に通った影響があってか、自然の中では、人間と動物は常に死と隣り合わせであること、そして、これからの長い年月を“自然と共に生きていくこと”の必要性について、漠然と考えるようになりました。


―プロダクトアウトの呪縛

 大学では、商学部でマーケティングを専攻。マーケティングとは、ご存じのとおり、「売れる仕組みづくり」のことです。大学で学んだマーケティング理論では、企業が企画・開発した商品・サービスを、“プロダクトアウト”で売る時代は終わり、顧客志向のマーケットインが必要だと学んでいました。入社後、さらに進んで、持続可能な社会を見据えた“ソーシャルイン”の時代だと言われるようになり、私もそんなマーケティングをやってみたいと夢見ていました。

しかし、理想と現実は遠かった…。3つ目の職場で、やっと中小企業向けのマーケティングに携われたのですが、当時のNTT東日本は、ブロードバンド拡販の時代。日本中にブロードバンドサービスをあまねく、効率的に提供することが求められていました。残念ながら、プロダクトアウトの呪縛から、なかなか抜け出せずにいたのです。


―なぜデンマークに注目したのか?

 ここで、転機が訪れます。2008年から国際大学GLOCOM(グローバルコミュニケーションセンタ)の研究員として働く機会に恵まれました。そこで、着目したのが北欧諸国の一つ、デンマークです。

当時の日本は、既にブロードバンド先進国。しかし、電子政府、教育、医療分野などのITの利活用は一向に進まないという政策課題を抱えていました。一方、デンマークは、光回線など高速インフラ基盤が整っていないにもかかわらず、各分野におけるITの利活用が進んでいました。WEF(世界経済フォーラム)が公表したICT競争力ランキングにおいて3年連続、世界第1位(2007年~2009年)。さらに、情報通信白書(総務省2009)の中で、デンマークは“日本が目指すべき対極の国”と位置付けられ、不思議なことに、医療分野における高齢者のIT利用率が高いという調査結果が出ていたのです。


―デンマークって、どんな国?

 デンマークの人口は約590万人。九州ほどの面積に、兵庫県の人口ほどの人たちが住んでいるような小さな国です。恥ずかしながら、当時の私は、デンマークと言えば照明や家具などの洗練されたデザインの国、税金の高い福祉国家などのイメージしかありませんでした。

しかし、少し調べるとデンマークは、イノベーション大国。ICT、バイオテクノロジー、エネルギー、環境分野などにおいて、欧米企業の戦略拠点であり、多くのスタートアップ企業を輩出する国でした(今では、日本でも共通認識になってきたように思います)

さらに、彼らが持続可能な国づくりに成功しているという点も見逃せません。食料自給率は168%(カロリーベース、日本37%)、エネルギー自給率約130%(日本約20%)、出生率も1.72まで回復しています(日本1.26)そして、興味深いのは、国民の幸福度や満足度に関する複数の調査で常に世界のトップクラスにあるということです。

彼らは、なぜ、競争力と幸福を創り出すサステナブルな社会を実現できるのか。その社会に、I T の利用がどのように影響しているのだろうか。私は、デンマークという国を多面的に掘り下げてみたくなりました。(【中編】に続く)




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