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”ブエノスアイレス”にからめとられる

今週末に観た「ブエノスアイレス 摂氏零度(”Buenos Aires Zero Degree: The Making of Happy Together”)」の感想を、書こうと思う。


まずその前に、このメイキングドキュメンタリーの本編「ブエノスアイレス(”Happy Together”)」とは何ぞや。ちなみに、未見です。はは。

「欲望の翼」のウォン・カーウァイ監督のもと、レスリー・チャンとトニー・レオンが恋人役を演じ、アルゼンチンを舞台に繰り広げられる男同士の切ない恋愛や人間模様を描いたラブストーリー。(中略)1997年に劇場公開。

(映画.comより引用)


そして私が観た「ブエノスアイレス 摂氏零度(”Buenos Aires Zero Degree: The Making of Happy Together”)」とは何ぞや。

ウォン・カーウァイ監督が2人の青年の刹那的な愛をレスリー・チャン&トニー・レオン共演で描き、日本でも多くのファンを生んだヒット作「ブエノスアイレス」(1997)の舞台裏を捉えたメイキングドキュメンタリー。

(映画.comより引用)


本当はもちろん、本編を観たかったのだけれどもろもろの制約を突破できず、メイキングから観るハメに。その顛末はこちらに。苦笑





じめじめした色彩

南米、アルゼンチンが舞台であれば、底なしの陽光だったり目にもまばゆい色彩だったりが繰り広げられそうなもんだが(蜷川実花みたいなイメージ)、全然違った。
いえもちろん、画面に映される色は、エメラルドグリーンだったりビビッドな赤だったり夜のネオンだったりする訳なんだけども、なんかざらっとした質感で、湿っぽさすら漂う。ちょうど、数十年前のモノクロ映像を、カラーで再現したらこうなりました!というような。どこかピントのぼやけたような。


メイキングであるからして、主演を務めたトニー・レオンのインタビューも登場する。当時(1999年)になってこそ、「今までは『欲望の翼(”Days of Being Wild ”)』が自分の最高傑作だと思ってたけど、今なら『ブエノスアイレス』って言うよ」と言わしめているけれど。


脚本がないウォン・カーウァイ監督、こだわりにこだわりぬくやり方、長引く撮影期間、しかもいつ終わるとも知れぬ。スタッフともどもホームシックにかかり本気で香港に帰りたかったらしい。
ちなみにWikipedia先生によれば、そもそも「同性愛者の役はできない」と一旦断ったのに、「ストーリー変えたから」と説得されて了承、現地に着いたら大幅に変更されており、結局ゲイの役…


こんな鬱屈とした気持ちが、トニー・レオンだけでなく、監督自身、レスリー・チャンやスタッフをも覆っていたことが、こういう色彩感覚に投影されているのかな、と。



モテるトニー・レオン

このメイキングでは、編集で大幅にカットされ本編には一切出て来ないシーンも登場する。未見のため何が何やら分からぬまま観てたけど。


例えば、シャーリー・クワン演じるトニー・レオンの妻。
相手役のレスリー・チャンがコンサートツアーに出るため撮影の途中で香港に帰らざるを得ず、急遽召喚されたとのこと。


また、劇中で大怪我をするレスリー・チャンを診察する女医と、彼女のトニー・レオンへの恋慕。このとき、ウォン・カーウァイ監督からは「嫉妬の感情を表現してほしい」と指示があったらしい。


ここでどーにもこーにも思い出して仕方ないのが、山岸涼子「日出処の天子」に出て来る蘇我毛人(蝦夷)(そがのえみし)。

天才でエスパーでゲイの厩戸皇子(うまやどのおうじ、聖徳太子)が想いを寄せなかなかいい感じになるも、最終的には石上斎宮(いそのかみのさいぐう)で前の大王(おおきみ)の妃(みめ)だった布都姫(ふつひめ)と相思相愛になり、彼女は自分の命と引き換えに後の蘇我入鹿(そがのいるか)を産む。
究極なのは、同母妹である刀自古郎女(とじこのいらつめ)にすら想いをかけられ、更に想いを遂げられるところ…


たまにいるよねぇ…
こういう、男も女も、性別を超えて人を虜にしてしまう人が。



哀愁を帯びる音楽

湿気を感じる画像だけでなく音楽も、鬱屈とした世界を覆う。
バンドネオンのアルゼンチンタンゴ。
最後のスタッフロールが流れて来て合点がいった。

Astor Piazzolla



ひゃーここでまた出合うか。



ベタ過ぎて笑ってしまうが、ヨーヨー・マの「リベルタンゴ」からピアソラにハマった勢である私。まぁ高校生だったもんで。

こっそり覗き見るような成熟した大人の世界に、ドキドキしたことだけは覚えている。




メイキングドキュメンタリーだけでも、心がざわつく「ブエノスアイレス(”Happy Together”)」。観たくてしょうがないが、これ程までにオンラインサービスだのサブスクだのが流行っているのに、ここマレーシアで鑑賞するにはDVDとDVDプレイヤーを手に入れる方が手っ取り早いなんて…
(私のパソコンはSurface Laptop Goであるからして、DVDスロットがない。なので新たに購入するしかない)


まぁ20年近く前の映画であるが故か。




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