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靴下の選び方


靴下選びの考え方

皆さん、靴下ってどうやって選んでいますか?
そんなのちゃんと考えたことないよ~と思うかもしれませんが、夏にモコモコの靴下は履きませんよね(笑)。暑いし、汗かいて蒸れるし、不快ですもんね。


一般的に、靴下を選ぶ際、履き心地(肌触り・きつさ)、季節に応じた暖かさor涼しさ、ファッション性などで選んでいる人が多いかと思います。私も自分の靴下を選ぶときはそんな感じです。


一方、医療的に靴下の役割を考えると、
    ①摩擦による皮膚剪断力の軽減
    ②足底圧の分散
    ③皮膚からの汗の除去
    ④緩衝作用
    ⑤足部の体温調節
    ⑥抗菌作用
    ⑦皮膚の保護
などが挙げられます。

そして、医療の現場で適切な靴下を患者さんに選んでもらうことは、足部外傷転倒の予防となります。


特に足部の神経障害を有する糖尿病の方などでは、足部の小さな外傷が潰瘍の原因となり、最悪下肢切断まで至ってしまいます。これは重要なリスク管理項目です。

また、高齢者の転倒も要介護状態になった原因の第4位に入っており、しかも、屋外よりも屋内での発生件数が多いとされています。屋内で靴を脱ぐ習慣のある日本においては、靴下の選び方が少なからず転倒に影響してくると考えられます。


もちろん、このような足部外傷転倒の予防は靴下だけでするものではなく、フットウェア、フットファンクション、フットケアの3つの視点が必要だということは分かった上で、靴下の選び方を見ていきましょう!!

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靴下選びのポイント


普段私たちが靴下を選ぶ際に指標にしている、履き心地や暖かさ・涼しさ以外にどのようなポイントを抑えるべきか…


その靴下選びのポイントは……


摩擦  と  湿気  を管理するための

素材 と デザイン


です!!!


キーワードとなる「摩擦」「湿気」「素材」「デザイン」について靴下との関係をみていきましょう。

摩擦

ヒトは1日に7000~8000歩きます。その時、足と靴の間には摩擦・剪断力が生じ、これが継続するといわゆる「まめ」といわれる水疱や「たこ」などの皮膚硬結を引き起こします。踵と足先が好発部位となっており、特に裸足では摩擦係数が極めて高いため、靴下が必要となります。


一方、低すぎる摩擦係数(滑りやすい靴下)では、靴内で足が過剰に動き、不快感や不安定感を生じさせるほか、足先の負担増大に繋がってしまいます(靴のサイズや履き方も影響します)。

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湿気


足にはエクリン汗腺があり、人体の中でも最も汗をかきやすい場所です。運動時には足部に1時間当たり約200mlの汗をかくため、すぐに靴下の吸水容量を超えてしまいます。

湿気の蓄積は皮膚表面における摩擦係数や細菌やウイルス感染のリスクを増加させてしまいます。湿気の改善(蒸発)には靴下や靴の素材の性質が影響します。

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素材


市販の靴下はほとんどの場合、綿40%・ポリエステル60%というように複数の素材を組み合わせて編まれていて、その種類によって、蒸れにくい、乾きやすいなどの特徴があります。組み合わせる理由としては、例えば、洗濯を重ねると縮み易い綿にポリエステルを組み合わせて強度を上げ、型崩れしにくくする、といった具合になっています。

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靴下に使われる素材を以下にまとめてみます

天然繊維:植物繊維~綿/コットン、麻
     動物繊維~毛(羊/ウール、ヤギ/カシミヤ)、絹/シルク
合成繊維:ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリウレタン

これら一つ一つの素材にメリット・デメリットがあります。こちらこちらを参照ください。

今回は、より一般的に流通している靴下の素材として(価格的にも)、綿、羊毛、ポリエステル、アクリルについて説明したいと思います。

〇綿/コットン
メリット:肌触りが良い、通気性がある、保湿性があ洗る、洗濯に強い(ウールと比べ)
デメリット:一度湿ると乾きにくい、洗濯を繰り返すと縮む、シワになりやすい

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〇羊毛/ウール
メリット:保湿性・保温性に優れる、撥水性がある、冬暖かく夏涼しい、抗菌防臭
デメリット:耐久性が弱く洗濯しにくい、熱・摩擦に弱い、湿ると乾きにくい

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〇ポリエステル
メリット:強度に優れ摩耗に強い、弾力性・速乾性がある(スポーツウェアに多い)
デメリット:染色しにくい

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〇アクリル
メリット:軽くて柔らかい、保温性に優れる(フリースなど冬物衣類に多い)
デメリット:毛玉になりやすい

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〇研究報告引用1)
・綿は親水性でアクリルの3倍の水分を吸収する
・綿は湿ると合成繊維の10倍の乾燥時間が必要
・靴内の湿気の蒸発は、靴下の素材がアクリル>綿>ウールの順に多い
・綿やウールのような天然繊維が湿気を多く含むと、アクリルより容易に縮み、容積、緩衝作用、柔らかさは減少する
・長距離ランナーにおいてアクリル100%の靴下と、綿100%靴下で長期的に調査したところ、綿靴下はアクリル靴下の2倍の水疱発生と関連した 

表にまとめます。

コメント 2019-12-11 204019

大きく見て、天然繊維は親水性、合成繊維は疎水性と考えられています。適度な湿気は保温性を高める一方、蒸れてしまうと摩擦を増加させます。大量の汗などで靴下が濡れた状態になった場合、天然素材では乾きにくく、摩擦が増加し、緩衝作用も減少するため、スポーツ用靴下では合成繊維が使われることが多いです。

靴の中の湿気は簡単に数値化出来ないからこそ、素材の特徴を抑えておきましょう。

また、一度ショッピングモールなどで、素材や使用比率を確認しながら靴下を見て回ると結構面白いです。どの手触りや伸縮性などがどの素材かというのは、ザックリでいいので自分で見て触って、覚えておくといいと思います。

というのも、靴下はシャツなどと違って、靴下自体にタグがありませんので、患者さんが今履いている靴下の素材は、自分の経験から判断する必要があります。


デザイン


靴下のデザインは、今やお馴染みになっている5本趾ソックスや足袋型ソックス、足底側に滑り止めがついたもの、アーチサポート機能付き、防臭抗菌効果付きなど様々です。こちらも、摩擦と湿気を主なキーワードにチェックしてみましょう。

〇5本趾ソックス
5本趾ソックスでは趾間まで靴下があるため、趾と趾の摩擦や趾間の湿気軽減に優れています。また趾が重なるような変形がある場合、その改善を目的として使われることもあります。

一方、糖尿病患者などで下肢虚血が疑われる場合では、足趾の圧迫が強くなり、潰瘍の原因になる危険性があるので、足の状態に注意が必要です。


バランス能力に関しては、裸足や通常靴下と比較したものが多く、静的バランス(足底荷重面積、片脚立位総軌跡長など)2)3)、動的バランス(2ステップテストなど)3)で有意差を認める報告が散見されます。

バランス改善の理由としては、物理的に足趾が外転し支持基底面が広くなるため、足趾が使えるようになりアーチが保持されるためと考察されています。

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〇滑り止め付きソックス
屋内でのスリップによる転倒を防止出来る可能性があります。靴下の滑り具合を比較した報告1)では、ナイロンストッキング>通常靴下>滑り止め付き靴下>裸足の順に滑りやすかったとされています。

また、滑り止めの位置や靴下のサイズが不適切であると、その機能が十分に発揮されない可能性があると指摘されています。

転倒の理由にはスリップ以外にも、つま先を床やわずかな段差に引っ掛けてというものも多く、そこに関しては靴下での予防は難しいと考えられます。靴下で出来ることと、出来ないことをしっかり整理しておくことも大切です。

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〇アーチサポート
ゴムでの圧迫や素材の伸縮性の強弱などで、主に内側縦アーチをサポートしたものが多いです。外反母趾用のものなどでは、足袋型のデザインで母趾外転をサポートしているものもあります。

アーチサポート効果としては、勤労女性での重心動揺軽減、疲労軽減などが報告4)されていますが、強制力が強いものでは、着用時にかなり手の力が必要になるため、履く人の状態を考慮する必要があります。また、圧迫感が強く長時間の着用では違和感が出る場合や下肢虚血のある対象者には注意が必要です。

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〇防臭抗菌効果
足の臭いのもとは雑菌の繁殖で、水虫は白癬菌というカビの一種が皮膚に入り込んで起こる病気です。水虫により、皮膚が脆弱になり、足部外傷のリスクが高まってしまいます。

ウールなどの素材には抗菌効果があり、他には銀などを配合して抗菌効果を有している靴下があります。ここで注意したいのは、この靴下の抗菌効果は、直接触れている部分のみというところです。なので、趾間の水虫を予防する場合、5本趾デザインのものが推奨されます。

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〇厚さ
辻坂によると5)、自覚的な靴の中での足の滑り感は靴下の厚さと強い相関があり、素材による摩擦係数とは相関がなかった(厚さ0.8mm以下のときに靴の中で滑りやすいソックスと感じられた)とされています。

厚い靴下は、靴と足部のフィット感が出やすく、靴の中で足が滑りにくく、クッション性(衝撃吸収)・足底圧の分散に有利です。一方、素材によっては放湿性が悪く、蒸れやすくなってしまいます。

登山用の靴下などでは、メリノウールという高品質素材を使うなどして、クッション性やフィット感を保ちながら、湿気の問題をクリアしています。靴下の厚さは靴とのフィット感の応じて、“厚”や“中厚”といった表記がなされています。ただ、価格が1,500~3,000円と高値ですので、薦める患者さんを選ぶ必要があるかと思います。また、ウールは摩擦に弱く、しっかりとした靴の履き方をしないと靴下が傷みやすいです。

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〇サイズの選び方
靴下のサイズは23.0㎝~25.0cm 、25.0㎝~27.0cmのように余裕がある表記のものがほとんどです。大きめのサイズで靴下が余り、靴の中でシワになるとそこでの摩擦・剪断力が増え、水疱等の原因になります。これは、長年使って伸びてしまった靴下でも同様のことが言えます。踵の位置を合わせて前足部に靴下が余るようになったら、買い替え時です。

逆にサイズが小さすぎる靴下では圧迫を強めてしまい、血行を阻害する可能性があります。

以上、「摩擦」「湿気」「素材」「デザイン」について説明してきました。

以下にまとめます。

まとめ
・摩擦と湿気をどう管理したいかによって、素材やデザインを選ぼう
・基本的に靴を履くなら靴下の摩擦係数は低く、屋内転倒予防なら摩擦係数は高く 
・湿気は摩擦係数を増加させる
・保湿や保温、履き心地なら天然素材、速乾性や緩衝性なら合成素材          ・厚くても蒸れない登山用靴下も有るよ
・血行障害のある対象者には、靴下の圧迫による血流阻害に注意しよう
 

シーン別靴下の処方


ここまで「摩擦 と  湿気  を管理するための  素材 と デザイン 」を説明してきました。
このポイントを抑え、以下の症例の靴下選びについて考えてみましょう。 


☆症例☆

1.足部外傷予防 若く活動量が多い場合(革靴、ヒールでの立ち仕事)
2.足部外傷予防 糖尿病患者
3.屋内転倒予防 廃用性症候群の高齢者

☆靴下で達成したい内容☆


1.靴との摩擦軽減、湿気の除去
活動性が高く、汗で湿気がたまる→蒸れて摩擦増加→水疱のリスク増大


2.靴との摩擦軽減、抗菌、圧迫しない
糖尿病性末梢神経障害の患者では自律神経障害により発汗機能が障害されるため、蒸れにくさという観点よりも摩擦や剪断力を低くすることを考える。感染予防として抗菌作用付きのものが好ましい。下肢虚血がある場合、圧迫しすぎない。


3.摩擦の確保
スリップによる転倒防止

☆薦める靴下☆


1.合成繊維(ポリエステル、アクリル)がメイン素材の靴下
スポーツ・アウトドアメーカーの靴下は汗をかく前提で作られているものが多く、弾力性・速乾性の高いポリエステル使用率が高い。スポーツ用品店での購入を薦め、価格よりも機能性を重視するならば、登山用の靴下も有り。


2.合成繊維と天然繊維の混 且つ 抗菌の5本趾ソックス
白癬があれば5本趾、運動時には厚みとクッション性があるもの、つま先内側に縫い目がないもの、下肢虚血があればゴムの緩いもの、色は薄いもの、発汗機能はどうか?など糖尿病のフットケアにこだわれば色々なアドバイスができます。しかし、実際に糖尿病患者に靴下を薦める際は、あれこれ言い過ぎず、足の臭いが抑えられますから、5本趾がお薦めですよ~くらいが良いと思います(下肢虚血には注意)。

糖尿病の患者さんの場合、病識が低いこともあるので、身体状態に合わせ、妥協案も必要です。そんな中でもし、興味を持ってもらえた時に、「どこで買えるの?」にすぐ答えられる下調べをしておくことはとても大事です。対象者・家族の理解度、経済力等に合わせて提示できると理想です。


3.滑り止め付きソックス
屋内でスリップによる転倒を防止する。その患者さんの足底で荷重がかかりやすいところに、滑り止めが来ているかをチェック。軽度片麻痺で自宅では装具は外して、靴下で歩行するような症例には、リスク管理として薦めています。ただし、パーキンソン病やすり足歩行の方には、滑り止めが逆効果になることもあるので、事前のチェックが必要です。

また、屋内では裸足という方もいます。滑りにくさは抜群ですが、物を踏んだり、物にぶつけた際の外傷のリスク、また皮膚に物が直接触れるため感染のリスクが高まります。このメリット・デメリットを考慮してアドバイスをしましょう。


というように、考えられるかと思います。
かなり大雑把な症例ですが、これが正解ということではなく、上記のような思考回路で靴下を選ぶようにすると、様々な症例に対し、適切な靴下を選べる・妥協できる・変更できることが可能かと思います。

靴下を履く人の状態、靴下を履く目的、その靴下の機能を総合的に判断して提案していけるといいですよね?
靴下の有用性は科学的根拠がまだまだ乏しいとは思いますが、
「  摩擦 と  湿気  を管理するための  素材  と  デザイン 
というポイントで是非患者さんの靴下を見てみて下さい。

最後に


どんなに医療職側からみて、機能が良い靴下でも、対象者が違和感を感じると靴下は履いてもらえません。何でもそうですが患者さんの感覚・意見に耳を傾け、一緒に選んでいくことが大切です(滑り止め靴下のポチポチの触感が気持ち悪くて履けないという人もいました)。

そして、靴下のことについて書いていけばいくほど、靴下だけじゃどうにもならん(笑)という結論に達しました。どんなに高機能の靴下を履いても長靴の中では蒸れます!やっぱり、フットウェア、フットファンクション、フットケアの3つの視点が必要です!


ただ、靴下の知識は知っていれば、明日から使えますし、対象者によっては、そのアドバイスで長年の悩みから解放される方もいらっしゃると思います。たかが靴下、されど靴下。患者さんの幸せのために、出来ることの一つとして靴下にも注目していただけたら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ご質問等ございましたら、コメント頂ければと思います。可能な範囲で答えさせていただきます。

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<参考文献>
1)坂口顕:理学療法士のための足と靴のみかた,96-106,文光堂,2013
2)糸数昌史,他:五本指ソックスが足底圧分布と足底荷重面積に与える影響について,理学療法,Vol.35 suppl.No.2,2008
3)松本凱貴,他:五本指ソックスが静的・動的バランスに与える影響kinki58.umin.jp/cd/pdf/ippan/P5-6.pdf
4)石橋健,他:足部アーチサポートを目的にした機能靴下の効果~長時間の立ち仕事を行う女性を対象とした効果検証~第48回日本理学療法学術大会抄録,Vol40.suppl.No2,2013
5)辻坂敏之:ソックスの滑り感に対する素材特性の影響,奈良工業技術センター 研究報告 No.31 ,2005






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