見出し画像

【体験談】期待値を追わないで -後編-

こんにちは。のり ( @nori_kitaichi )です。

この記事は3部作の後編です。中編を見ていない方は以下からご覧下さい。


ーーーーーーー

「この前はすいませんでした」

ポマードにコーヒーを渡しながら、先日の不手際を詫びます。彼はこちらをチラリと見るとひったくるようにコーヒーを取り、そのまま前を向いて無視を決め込みました。

ポマードと揉めてしまったせいで常連全員を完全に敵に回してしまい、私は頭を抱えていました。今後JRUSHの島で潜伏確変狙いを組み込んだ立ち回りは難しそう。かといって北斗無双を安定的に打てる店はない。そもそもまろんは打ち子に来てくれなくなり、期待値稼働自体をやめて欲しいと言っています。

15年以上続けてきた期待値稼働をやめる?いやでも生きていくためにはお金は必要。本業以外の稼ぎ口を持っておくことは重要だ。だけどまろんはそれを望んでいない。そもそもまろんはなぜ稼働をやめて欲しいと言っているのか・・

打てる台を開拓するために釘見しながら店舗巡回するものの、頭の中は答えの出ないことでぐるぐるしており、肝心の釘は目に入ってきません。その日も収穫ゼロで帰路につきます。

あれから元気を失くしてしまったまろん。話をしていてもどことなく悲しそうな顔をしています。始めはポマードのことがトラウマになったのだろうと思っていましたが、一向に元気が戻らないまろんを見て鈍感な私でも感づきます。まろんは私との結婚生活に不安を感じ始めたのだと。

思えば付き合ってからパートナーとして何をしてきただろうか。まろんを楽しませる話術もない。素敵なデートプランを立てられるほどの経験もない。休みの日は打ち子に使う。結婚式が近づいてもパチンコばかりしている中年おじさんを目の当たりにし、不安を感じているのでしょう。

これは一度腹を割って話さないといけないと思い、後日まろんを食事に誘いました。私は最近の出来事を詫び、なぜまろんが元気がないと思ったのか、先ほどの推測を投げかけました。

「半分正解。半分間違い」
「半分?」
「そう。私が稼働をやめて欲しいと言ったのは、二人の思い出になる式を悔いが残らないものにしたいから。だからお金を稼ぐ時間も大事だけど、式の準備に影響がでない量に留めて欲しいの」
「分かったよ、ごめん。あと半分の間違いは?」

「あなたとの結婚には何も不安は感じていないよ。最高の式にしてみんなに見て貰いたいんだ」

にこりと愛嬌のある笑顔を見せるまろん。

私ははっと気付かされます。どこを向いていたのだろうか。


まろんの笑顔が見たくて結婚式を提案したのに、式の費用を稼ぐことが目的になって大切なことを見失っていました。

「そうだね。式の準備を最優先にして、それでも成り立つ期待値稼働を考えるよ」

私は大反省してまろんに誓い、行動に移します。


まずは式の準備です。
この日から禁酒禁煙ならぬ禁期待値を自分に課し、15年ぶりに数週間パチ屋に通わない生活を送ります。その間に結婚式の準備を着々と進め、一番準備に時間がかかるプロフィールムービーとエンディングムービー制作に着手、仕上げました(異様に高い見積に怖気付き自作にした)。

式の準備の目処がついたら、次は時間を取られない期待値稼働の模索です。

それまで私はパチンコ一本でしたが、良釘狙いは非等価エリアでは持ち玉がある限り閉店近くまで粘って稼働しないと時給が出ず、構造的に長時間拘束される問題を抱えていました。そこでパチスロの天井狙いを軸にできないかを検討し始めます。

天井狙いであれば収支自体は落ちますが稼働時間をコントロールできます。この稼働パターンに変えてからまろんと過ごす時間も増え、彼女に以前の笑顔が戻ってきました。

パチスロの天井狙いを習える師匠が知人にいなかったので、まろんと一緒にネットの情報を見ながら手探りで着手。彼女も打ち子に復帰してくれ、入門機種としてミリオンゴッド神々の凱旋のリセット狙いに着目します。

それまでJRUSHを打っていた店舗がパチスロ全リセ店であったこともあり、この店で凱旋のリセット200以上を打つことから始めました。

ある日凱旋で天井80%ループを獲得し連チャンが続いたとき。私は後ろに別の予定があり、急遽まろんに来てもらいバトンタッチしました。見えているストックは数個でしたが、その後まろんは自力でGOD揃いを2回引き当て、二人で合わせ万枚を達成します。


彼女は凱旋のヒキも異様に強かったのです。
その後も鬼のような確定役のヒキを見せてくれます。

期待値の女神は気まぐれです。期待値稼働の向き合い方を進化させた私たちへのエールなのか、単なるビギナーズラックなのか分かりませんが、パチスロを始めてから2か月で約80万円の余剰。JRUSHの欠損をあっという間に回収し全体収支はほぼ期待値どおりに収束しました。



結婚式のひと月前。まろんと凱旋を打っていた時です。トイレに行った彼女がなかなか戻って来ず、ふと通路の先を見ると、何とポマードがまろんに接触しています。私は血の気が引き、すぐに掛けつけようとすると、彼女は遠くから「大丈夫」と手でジェスチャーしています。

戻ってきた彼女に話を聞くと

「前は怒鳴って悪かったって」

と、手に2本のコーヒーを持っていました。私はその足でお礼に向かうと、ポマードはバツの悪そうな顔をしてはいはいと手を振っています。私はポマードのその心の変化に何とも言えない温かさを感じたのでした。


―――そして、万全の体制で迎えた結婚式当日。

天候にも恵まれ、空は雲ひとつ無い快晴。
ウェディングドレスを纏いヴァージンロードを歩く彼女はこちらを見て愛嬌のある笑顔ではにかんでいます。

・・もし期待値の女神がいるならこんな風貌なのかな、と思いながら彼女の手を取ります。

「あなたは命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

これからも期待値稼働は続けていく。だけど目的を見失わずに正しい付き合い方を模索していこう。

「はい。誓います」

その覚悟を彼女へ伝えます。


披露宴が始まり、入場曲に合わせてドアが開かれます。
曲は VAMPSのAHEAD。あの日私がすっぽかしてしまった音響の打ち合わせで、まろんがプランナーに指定してくれた曲です。最初聞いた時には思わず笑ってしまいました。

プロフィールムービーでは触れられなかった二人だけの秘密。親と打ち子から始まった私たちの関係。これからどうなるか期待値の女神が見通しているのかどうかは分かりませんが、燦燦と輝く太陽は私たちのハレの日を、そして未来を祝福してくれているかのようでした。



ーーーーーーーー

公式ラインの登録も宜しくお願いします。

https://lin.ee/HKxrGVK

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?