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【体験談】運命の女(うちこ)-後編-

この記事は前後編の後編です。前編を見られていない方は先に以下の記事をご覧ください。

【体験談】運命の女(うちこ)-前編-

まろんの打ち子初回稼働から1週間後の土曜日、朝から彼女を車で迎えに行きました。この日は近場でイベントがなく、少し離れた店舗に遠征することにしたのです。

助手席に座ったまろんは、何やらぶつぶつ言いながら手を動かしています。

「おそー、はやー、ふつう。おそー、ふつう」
「なにそれ(笑)」
「youtubeで勉強した止め打ちのタイミングを練習してるんです。早く試したくて楽しみです!」

打ち子の教育には順番があります。パチンコ初心者はまずは稼働の流れを知ってもらうことが優先なので、私から止め打ちのやり方は教えていなかったのですが、まろんは自分で調べ、脳内トレーニングを積んできたというのです。こやつできる娘やな、と感心しました。

開店とともに入場し北斗無双の島に向かいます。今日は止め打ちのやり方を教えるために、まろんが左、私が右側で横並びに座ります。彼女を見ると前回渡した耳栓を既に着用済。抜かりはありません。

そうこうしてると早速まろんの台に赤保留が来ました。発展先は2対2で戦う決戦リーチ。チャンスアップはありません。

「これはあたりますか!?」
「いや、たぶんはずれる!」

自身幾度となく赤保留には裏切られてきた北斗無双。精神を保つためには過度な期待はしないほうが身のため。まろんにしっかりと教育していきます。

まろんは祈るようにバトルを見守ります。もっと肩の力を抜いていいよ。どうせ当たら




これが北斗無双・・。どこからでも当たる可能性がある神演出バランス。これだから北斗無双はやめれんまた明日も終日打ちます。・・・横でまろんもきゃっきゃと喜んでいます。

これが奇数確変当たりに昇格し、本日最初の右打ち・STに突入します。

北斗無双の電サポ中の止め打ち効果はかなり大きく、一日稼働すると6千円以上の節玉効果があります。電チュー解放パターンが二種類あり、小デジを確認しながら打ち方をワンセット6発打ちか5発打ちかに変える必要があるのですが、これに慣れるまで頭が混乱してなかなかうまくいきません。

まろんも脳内と実践の情報量の違いに混乱しており、当然うまくいきません。そこで私も右の席からハンドルに手を添えて一緒にボタンを押してタイミングを掴んでもらいます。まろんと手が触れ合うのに少しどぎまぎしながら、冷静を装い筐面の電チューの動きに合わせて玉を打ち出していきます。

「左のランプがついたら6発、右だと5発打ちで!」
「頭では分かってるんですが、手がついていきません!」

手が触れ合い、耳元で囁く二人は周りからみたら恋人に見えたかもしれませんが、私たちはいたって真面目に止め打ちの練習をしている親と打ち子なのです。

ラッシュは続きます。止め打ちに没頭しすぎて箱交換を忘れあたふたする彼女を横からサポートしつつ見守ります。8連ほど続いたころには粗削りですがしっかりと止め打ちのタイミングを習得。薄々感づいてはいましたがこの娘要領がよくかなり優秀です。結局ラッシュは10連まで続き充分な持ち玉を確保。非等価店なので、期待値視点でも持ち玉遊戯に移行でき親の立場としても一安心です。この日は二人ともヒキに恵まれ、約10万円のプラス収支になりました。

「止め打ち楽しい。すぽすぽ入ると気持ちいいですね。でも手がぷるぷるします」
「今日はたまたまヒキに恵まれただけだから、味をしめて一人で趣味打ちはしないでね」
「のりさんと一緒の時以外は行かないから大丈夫ですよ!」

帰りの車内で彼女が楽しそうに話してくれます。彼女は器用で打ち子として優秀なことは分かったのですが、会話も上手です。まるでこちらが答えてほしいことを予測しているかのように模範解答が返ってきます。遅くなってしまったのでまろんを自宅まで送り届け、帰路につきます。

―――この車の助手席に女性を乗せたのは何年ぶりだろうか。花の20代をパチンコばかりに費やしてしまったけど、果たして正解だったのだろうか。

まろんの余韻が残る車内で答えの出ないことを自問自答しながら、暗い夜道を飛ばし帰宅します。


それからも、まろんは定期的に打ち子に来てくれるようになりました。止め打ちも完全に習得し、RB146発を安定して取れるようになる上達速度です。ただ二人の休みが合う日が少なかったため、ある時からまろんは遠隔打ち子で単独稼働もこなすようになり、エース級のプレーヤーになります。

さらに、期待値稼働実践者が言うことではないのですが、まろんは異様にヒキが強いのです。

初当たりの確変突入率が平均を少し下回っていましたが、ST中の連チャン率と16ラウンドの引きがあり得ないほど高く、収支にも大貢献してくれます。


しかし疑問に思うことがあります。彼女はなぜこんなに打ち子を頑張ってくれるのだろうか。

まろんは本業もありプライベートは節約家であると話していました。1500円の時給につられて頑張っているとも取れますが、時間があれば打ち子に来てくれる彼女を見ると、何か他の思惑もあるのかなと期待の勘ぐりもしてしまいます。

しかし、長年彼女も作らずパチンコを追いかけ続け、悲しきモンスター(喪男)となってしまった私は、親と打ち子という関係上どこまで踏み込んでいいか分からず、自分の気持ちに蓋をしてしまっていました。

そんな私の内情を察したのかどうか分かりませんが、まろんが稼働に向かう車のなかで問いかけてきます。

「のりさんは固いですね。もっと身を崩していいんですよ」
「いいのよ。親と子は近付きすぎてもやりづらいからね」
「皆そんなこと気にしてないと思いますよ」

「私のバイトは役にたってますか?」
「もちろん」
「のりさんじゃなかったら打ち子なんかやってないんですよ」
「いつもありがとう」

彼女がこちらを見ながら笑顔で話しかけてくれているのが視界の隅に入りますが、よそ見運転は交通違反なので前を向いたまま答えます。赤面した顔を見られたくないのもあって。


その日は二人で稼働し、出玉を交換し帰ろうとしていた時でした。

「あ、バッグに一玉入ってた(笑)」

一玉を笑うものは一玉に泣く。パチンコの期待値稼働をする上での鉄則です。それを学習済のまろんは「この玉だけ打ってきますね」と北斗無双へ座ります。

パンと放たれた一発は風車を通り抜け、運よくヘソに吸い込まれました。やっぱりこの娘何か持ってるな、と感心していると、何やら画面がざわざわと騒がしくなります。2回、3回と疑似連が続き、なんとスペシャルリーチへと発展します。


発展先は・・  運命の女(ひと)


まろんは「これ当たるやつだよ~!」と大はしゃぎです。


ここ最近パチンコを打つのが楽しくなっていました。
打ち子が増えて収入も増えたからか。
親と打ち子という関係だけど、喜びを共有できる仲間が増えたからか。
はたまた彼女の愛嬌のある笑顔が見れるからか。
液晶演出と彼女の横顔を見比べ、ドキドキしながら見守ります。

保留はノーマル、運命の女のタイトルは銀色。チャンスアップは出ず、当たる確率は60%といったところか。

私はまろんに恋をしていました。
最初に会った時から、愛嬌のある笑顔に惹かれて。
歳の差はあるけど、パチンコ以外特技のない平凡な中年おじさんだけど。
このリーチが当たったら、まろんに想いを伝えよう。

液晶の中でケンシロウがユリアが幽閉されている部屋のドアを開けるのに併せて、手元のドライブギアが勢いよく飛び出し画面には引け!の表示が。

「のりさん引いて!」

興奮したまろんに急かされ、中年おじさんは腹をくくりドライブギアに想いを込めて引くと――――――









今これを書いている横で、まろんが忙しく子どもの世話をしてくれています。結婚して子どもができてからは二人で並んで打つことは出来なくなりましたが、私も期待値病の呪縛からある程度解放され、今は家事育児の時間を優先し遠隔打ち子に現場で頑張ってもらう体制にしています。



まろんと付き合うようになってしばらくしてから

「あの日告白して成功する確率は何パーセントだった?」

と彼女に聞いてみました。まろんは愛嬌のある笑顔で

「右打ちで16ラウンドを引くくらいの確率かな」

と少しいたずらに答えたのでした。




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