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深夜バイトのお客さん

普段はお客さんがほとんどこない深夜、2泊3日用くらいの小さめのキャリーケースを持って、すごく華奢な女の子が入ってきた。

不用心にも入り口付近に荷物を置いて、買い物をしている。

足を踏み出すたび、その一歩がすごく慎重で、でも確かな強さがあった。


カップラーメンとカニのおにぎり、果物のゼリーに2個入りのプリン。

「袋にお入れしますか?」と聞きながら、
律儀に整頓されたかばんから財布を取り出しているのを見ると"受験スケジュール"と書かれた紙が見えた。

2泊3日用の小さめのキャリーケース。
不用心に置かれた荷物。
恐る恐る踏みしめる一歩。
すぐに食べられるカップラーメンやゼリー。

自分の中で全てがつながった。


間違いない。
受験生だ。

受け答えやかばんを見れば、あの子がどれだけ本気で受験勉強をやってきたかはすぐにわかった。

僕は、
何かに誠実に向き合っている人にとって、
予想もしない人からかけられる「がんばれ」という言葉がどれだけ心を強くするか知っていた。

僕は、
自分の一言があの受験生の震えた心を、少しは落ち着かせてあげられる可能性があること知っていた。

でも僕は、
「がんばれ」のたった4文字が言えなかった。


もしかしたら受験生ではないかもしれないという恐怖だったのか、
もしかしたら急に他人から声をかけられるのが嫌かもしれないという不安だったのか、
正確にはわからない。

声をかけることができなかった自分は、袋に割り箸とスプーンとおしぼりと3本ずつ入れた。

これが今の自分ができる、最大限の「がんばれ」だった。


自分はエンターテインメントに誠実に向き合えているんだろうか。

生活のために働いている深夜バイトで出会った受験生は眩しいほど輝いていた。

さっき会った受験生の女の子。
あの時は言えなかったけど、、、

受験、がんばってね!!!

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