「漫画編集者」は必要か?

漫画家のかっぴーです。「左ききのエレン」「15分の少女たち」「晴天のデルタブイ」など原作者をやっています。

私はジャンプ+とスピリッツ、過去にはジャンプスクエアでも連載をし、かれこれ10人くらいの編集者の方々とお仕事をさせて頂きました。一方で編集者がいないインディーズ連載として原作版「左ききのエレン」を6年以上続けています。

私は今後も、商業誌とインディーズ両方の連載を続けていくつもりですが、たまに「どうして両方続けるのか?」と聞かれる事があります。

私はどちらの良さ/悪さも知っているので、いずれか一方に全振する人の気持ちも分かりますが、今の気持ちを言語化するならば「ガソリンと電気両方で動くハイブリット車」に乗っている様な感じです。この例えで言うとインディーズ漫画は新興の電気自動車だと思うのですが、まだまだ痒い所に手が届かない事が多く、やはりガソリン車の方が安定しています。

その最も大きな差分が「漫画編集者」の有無です。

今日は、漫画編集者が「いること/いないこと」「メリット/デメリット」を書いてみようと思います。良かったらnoteもフォローお願いしますー!

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1-1)編集者がいるメリット(商業誌)

漫画編集部を舞台にしたコンテンツは結構あるので、漫画編集者がどんな仕事かは大体お分かりかと思いますが、皆さんが思っている以上にスペックが高い職業だと感じています。「本当にスペックが高いなら、自分で漫画を描けばいいじゃないか!」と思う方もいらっしゃるかも知れませんが(本当に編集者から漫画家・原作者になる方もいるのでややこしいですが、一旦割愛します…)順を追って説明します。

まず(あくまで私の個人的な考えですが)新人漫画家で先輩漫画家に相談する人がたまにいますけど、私は編集者に相談した方が百倍早いと思っています。

先輩の話を聞くのはすごく有意義だとは思います。インタビュー記事とか講演会とか、飲み会でご一緒した時とか、そういう機会に話を聞くのはすごく良い。ただ、それは中学生がメジャーリーガーに野球を教えてもらう機会のようなものです。その経験で鼓舞される事は大いにありますが、まだこれから高校生になって甲子園を目指せるかどうかって時点で必要なのは、日々寄り添って特訓に付き合ってくれる大人。編集者の役割は、部活の顧問とかコーチに近いんじゃ無いかと思います。

また、これは「左ききのエレン」でもよく出てくるテーマですが、優秀なプレイヤーが優秀なコーチであるかは別問題という話もあります。プロになって、何年か戦い、ひとつ代表作が持てた頃には、同じプロにしか分からない悩みなど出てくると思うので、同業種の先輩にはその時に頼れば良いんだと思います。

一方編集者は、一流選手の様なプレイは出来なくても、選手の悪癖や長所などを見抜いて育ててくれるコーチ的な側面があります。技を教えてくれるというかは、身体作りに付き合ってくれる感じです。売れてる漫画を読んで分かったつもりになるのも、一流漫画家に相談して分かったつもりになるのも、身体つくりをすっ飛ばして「メジャーリーガーのスーパープレイ集」を観てその気になってる状態です。

読者は、ビールを飲みながら野球を観てるおじさんのように「オレの方が上手いわ!ヘタクソ〜!」とくだをまく権利が与えられていますが(笑)漫画を描く人間なら、プロの試合を観る事も大事ですが、何よりも編集者というコーチと出会う事が先決なのでは無いかと思います。

1-2)編集者がいないメリット(インディーズ)

インディーズ漫画は出版社を通さないので、基本的に編集者が居ません。ジャンプラのインディーズ連載も、その名の通り(確か)編集者がついていないはずです。でも、実際今のインディーズ連載はめちゃくちゃレベルが高い上に、過去商業誌で連載されていた先生もやっていたりします。編集者がいないメリットは何があるのでしょうか?

これは実際に私が経験した事でもありますすが「コーチがついていたら矯正されていたであろう“悪癖”が、突き抜けて“一芸”になる」というケースがあるんです。つまり、編集者がこれまで会った事の無い新種・珍獣が育つチャンスになる。

私の場合は、悪癖だらけだったので枚挙に遑がありませんけど、分かりやすい所で言うと「時系列シャッフル」や「キャラクターのヘイトコントロール」です。原作版「左ききのエレン」は年代がパンパン飛んで行ったり戻ったりする演出ですが、売れる漫画を作ろうとした時にあれは普通やりません。また、朝倉光一の成長を際立たせるために初期は見てられないくらいダメ野郎として描いていますが、あれも売りたいなら普通やらない(笑)

でも、誰も止める人が居なかったらからこそ、思いついたままの物語をそのまま世に出せました。そして、それを出し切った今だからこそ「あのやり方には、良い面もあった」と言える様になったのです。私は原作版エレン第一部を描き終えたあとに、商業誌連載を始めましたから、悪癖に見えたものを伸ばし甲斐のある一芸として評価してもらった上で、ようやく基本を教わるという順番で、非常に恵まれた形でステップを踏む事ができました。

先ほどの話と矛盾するようですが、漫画を描き始めた頃に先輩漫画家に相談した事がありまして(笑)その時言われた一言が実に的確でした。「かっぴーは、メラもホイミも覚えてないくせに、ミナデインだけ使える。」と。言われた当時は「なんか知らんけど褒められた」と思ってましたが、今になって的確だったなとつくづく思います。その言葉があったからこそ、今になって商業誌でレベル上げをしてMPを上げている所です。

まとめると、編集者がいないインディーズ連載は「編集者でさえ見たことの無い“一芸”を開花させるチャンスがある」という事です。


2-1)編集がいるデメリット(商業誌)

ここから先は忖度が無い事を示すために有料マガジンにしますが(笑)別段ショッキングな事を書くつもりはありませんので悪しからず。

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