リアル「その先があるんだよ」の世界

ちはやふるの末次先生が、ランチをご一緒した時の話をnoteに書いてくださっていました!「もっと読者を増やすにはどうしたらいいか」みたいな相談を初対面でしてしまって、思い出して恥ずかしくなってます…笑

ところで、末次先生に限らず、誰もが知っている作品の作家さんとお話させて頂くと、全員が口を揃えて「いや、もっと読まれたい」と言ってて、ちょっと勘弁してくれと。映画化やアニメ化された作品の作家さん達でも、誰一人満足している人に会った事がありません。それも、きっと後輩漫画家を前にしたポーズでも無く「やっぱり凄い人ほど謙虚だ」みたいな単純な話でも無く、本当に本気の目をしながら「もっと読まれたいよね」と仰っている。

これを偉人達のエピソードとして語れば美談になるかも知れませんが、同じ業界の下っ端からすると「この欠乏感に終わりは無いのか…!」みたいな絶望すら感じます。どれくらい読者が増えたら「いやぁ、オレっち売れたよ」と得意になれるのか?はっきり言って、ぼくは早いところ得意になりたい。同窓会で天狗になりたい。でも、多分ですけどクリエイター系の人って、あんまりそうなれない精神構造してるんだと思います。すぐに満足できる性格なら、表現なんて面倒な事をやってない。

色んなインタビューで答えているので隠してる事では無いけど、ぼくは脱サラして漫画家になる時に、正直4割くらいは「思い出作り」のつもりでした。漫画の本を二冊くらい出したら、それを一生自慢して生きようって本気で思ってた。稼げずに会社員に戻っても「オレ、本出した事あるんだよね」って言えるだけで凄いと思った。それくらい、まず本を出す事が夢みたいだと思いました。

でも、ジャンプコミックスは今月の新刊で11巻で、過去作品を合わせたら20冊近く出してて、アニメ化とドラマ化もしたし、舞台化もするけど、本当に最近ずーっと泣きそうなんです。自分に腹が立って気が狂いそうになる。仕事をしている最中はそういう事を忘れられるし、プライベートで奥さんと娘で過ごしてる時はほとんど考えなくて済むんだけど、ふとした瞬間に「今の10倍は読まれていいよね」って思うと、不甲斐ない気持ちで動けなくなる。

10倍は言い過ぎました。冷静に、5倍は読まれていいと思ってます。

「左ききのエレン」は、相当読む人を選ぶ作品だと自分でも思うので、万人受けする作品で無いのは自覚しているんですが、それでも「あと5倍は読者がいる」と思ってます。なんか「もっと読まれたい」って思い続けすぎて、ちょっと解放されたい気持ちが溢れそうになってて、本当に辞めちゃおうかなって思う事もあります。辞めたら楽になるぞと。会社員の時はダメ社員だったけど、何だろう、仕事の満足度は高かった。全然結果出てなかったけど、謎にやり甲斐感じてたし、ちょっと先輩に褒められたら1週間頑張れたし、今は誰に褒められても全然心に入ってこなくて。

それで、最近気がついたんですけど、ダメ社員のくせに仕事にやり甲斐感じてた当時のぼくに「左ききのエレン」見せたら、多分ボロクソに言うと思います。あの頃に自分のために描き始めたつもりだったけど、多分ポジティブな状態のぼくが見たら拒絶反応あったと思う。

「左ききのエレン」を読んで、拒絶反応を起こさずに共感してくれる人って、やっぱりクリエイターが多くて、末次先生をはじめ、過去に推薦文を書いてくださった落合陽一さんとか長久監督とか、そういう本物のクリエイターなら分かってくれる。思考を停止して満足してないから、その先があるんだと日常的に思ってる人達には伝わる。

なんか、取り留めも無いし、若干暗いトーンで書き殴ってしまいましたが、とにかく今思ったのは「広告代理店で、ダメなくせにヘラヘラしてた頃のオレが理解できない物語を、明日も描こう」と思いました。お前なんかに分かってたまるか。お前が分からない世界を、オレは描き続けるぞと。

その物語が、あと5倍はいるであろう未来の読者に届くと信じてます。

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