商業連載がはじまっても、インディーズ連載をつづける理由。

漫画家のかっぴーです。「左ききのエレン」など描いてます。

2022年末、ジャンプ+でのリメイク版「左ききのエレン」が完結しました。5年以上続いた連載で、週間で最長連載記録として編集部からトロフィーも頂きました。

完結直後こそ達成感に満たされ1年はゆっくり過ごそうと思ったものですが、2週間後には「早く次回作を連載したい」と落ち着かなくなり、エレンの打ち上げの日に新連載企画の草稿を持って行きました。編集がちょっと引いてました。

私は30歳まで会社勤めで無経験からデビューした漫画家です。今年でもう39歳です。さんじゅうきゅう。新卒の時に39歳の先輩を「サンキュー!サンキュー!」っていじってたのを思い出しました。先輩をいじるな。もう笑えない。漫画家の歴は長くないけど年齢は若くありませんから、早く次回作に取りかからないとあっという間に老いさらばえてしまうと思ったんです。

老いの恐怖に背中を押される形で、私は給水所で立ち止まる事をせず漫画家人生の二周目に突入したわけです。時間は無駄にしていない。最速で駆け抜ける!そう思っていましたが、やはり新連載の準備には果てしない時間が必要でした。

現在3つの商業誌で3本新連載が決まっています。1年間の準備で3本なら上々かと思われるかも知れませんが、1日10時間くらい考えて3本なので、それくらい仕上げてくれないと燃費が悪い。ここ数年で成長したと思えるのは、10時間考え続けられるようになった点です。会社員の時はそれができなかった。1日10時間集中して打ち込めていたら、私は立派な広告マンになれていたかも知れない。

10時間考えると言っても、10時間机に向かっていた訳ではありません。集中の入り方、ルーティンは人それぞれですが、私の場合は動いてないと思考が捗らない。具体的には、足か手が動いていないと。以前は「散歩」がルーティンで、とにかく歩きながら考え事をしていました。メモをする時に立ち止まる。歩いて考えて、止まって書き出す。それを繰り返しているうちに「動いてる時は考える」が習慣化したのかも知れません。ただ、それだと10時間歩き続けないといけないので、そうなると私は下半身マッチョになってしまう。競歩で世界を狙えるアスリートになる。それは避けたい。そこで編み出したのが「描きながら考える」です。

「描きながら考える」を開眼したのは、ここ最近の出来事。そのきっかけは、ここnoteで連載している原作版「左ききのエレン」でした。

去年はケイクスという媒体が終わってしまい、当時そこで連載していた原作版「左ききのエレン」も終わらせようかと思っていました。新連載の準備もあるし、一番身軽な状態で漫画家人生二周目に入るべきなんじゃないかと。でも、ここnoteで完全なインディーズ連載として継続する道を選びました。

結論から言ってしまうと、私にとって原作版「左ききのエレン」を描き続ける事が、漫画家としてのスイッチになっていたからです。

原作版エレンを辞めようと思ったのは(大きくは)今回が二度目で、一度目はジャンプ+でのリメイク版が始まった頃でした。ずっと憧れてたジャンプ+での連載。デビュー直後の対談で「いつか集英社で本を出したい」と言って笑われました。ギャグで一発当てただけの状態でそれを言う私もなかなか豪胆ですが、本気で言ってました。あの時、私を鼓舞するためにあえて失笑してくれた先輩作家には心から感謝したい。殴るぞ。

そんな夢が叶ったジャンプ+での連載、しかも「左ききのエレン」での連載。これからは商業誌で連載するプロなんだと万感の想いでした。でも、結局その時も原作版の連載を辞めませんでした。結局、自分が一番自由に描けるのが原作版エレンだったんです。

というのも、商業連載は「製品」としてチームで漫画を描きますが、インディーズ連載はちょっと違う。インディーズ連載は「アート」だなど言い切ってしまえれば格好が良いのですが、商業連載だって芸術的価値があるので違います。じゃあ、私が考えるインディーズ連載は何なのかって考えてみると「オークション」だなと。

商業連載=製品には、定価があります。流通網があって管理体制もある。販促活動だってしてくれる。お店に陳列される製品です。でも、インディーズ連載は違う。価値が定まっていないんです。500円で読む人が居れば、1000円で読む人もいる。1万円出しても惜しくないと思う人がいる一方で、10円でも読みたくないと思う人もいる。人によって価値がバラバラなのが、インディーズ連載の面白い所だなと思います。

原作版エレンは、最初から今現在までそんなテンションで描いています。商業誌では振り切れない過剰な表現にも挑戦できるし、雑誌に入り切らないページ数でも構わないし、思いついたスピンオフは全部勝手に試せば良い。「面白ければどんな表現でも商業誌でやれば良い」と思われるでしょうけど、原作版エレンが万人受けしない事は百も承知です。シリアスとコメディのバランスも滅茶苦茶だし、描きたいと思った枝葉の話を延々とページ数割いてやるし、商業誌のネーム描いてる自分からしてみても「漫画舐めんな」ってシーンが多々ある。でも、それを試せる場が自前であるのが本当にありがたい。

原作版エレンを描きながら考えていると、商業連載ネームを描いてる自分は思うんです。「もうちょっと、ハメはずしても良いのでは?」って。私にとって真に自由な表現の場であるnoteインディーズ連載が、思考のストッパーを外してくれる。

だから、インディーズと商業連載は二輪なんだなと思ってます。どっちか片方でも、私は老いてしまう。今のところ、私はインディーズ連載は辞める気はありません。商業連載がどんなに忙しくなっても、これは漫画家としてのスイッチなんだと続けると思います。noteメンバーシップに入ってくれている読者の皆さんには本当に感謝しています。読んでくれる人がいるから続けられるので。

ただ一つ、無い物ねだりを言わせて頂くと、やっぱり読者数に関しては商業連載と比較にならないくらい小規模になってしまうのが悔しい。ざっくり10分の1です。頑張って面白い展開を描いて、それを5分の1とか、3分の1にしていくのが今後の目標だと思っています。頑張ります。精一杯やるので、どうか応援してくれると嬉しいです。友達に無言でURL送ってください。お願いします。

とは言え客観的に分析すると、原作版「左ききのエレン」noteメンバーシップはかなり善戦していると思います。現在3500名から3600名くらいの間をふわふわしてて、インディーズ連載漫画としたら悪くない規模感だとは思います。読者というのは当然無料で読んでくれている方も含みますので、連載を追ってる人数で言うと5万人くらいはいるはずです。決して悪くないと思います。でも、私は「インディーズ漫画、良いぞ!」と声を大にして言いたいんです。今バリバリ商業誌で描いてる漫画家さんたちが「ほんまでっか?」と興味を示してくれるには、もう少し規模を大きくしたい。

今年は、メンバーシップ5000人を目指します。理由は、それくらいになったら「インディーズ漫画、良いぞ!」と胸を張って言えるからです。私にとって、大事な両輪のひとつ。これからも、原作版「左ききのエレン」頑張りますので、何卒応援のほど宜しくお願いします。


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