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映画「トニー滝谷」を観て欲しい。

「ララランド」を観て以来、好きな映画の話題になると真っ先に挙げている。でも「ララランド」が最高の映画なのは当然で、好きな食べ物を聞かれて「オムライス!」と満面の笑みで答えているような安直さを感じてしまう。

「オムライスが最高なのはもちろんだけど、オレはイカ飯も好きなんだ」みたいな、パッと真っ先には挙がらなくても好きなモノは無数にある。ツウ好みを気取るわけでも無く、B級グルメを謳うわけでも無く、真っ当に素晴らしいけど真っ先にしゃしゃり出てくるタイプじゃ無いいい物もある。

「トニー滝谷」は、そんな素晴らしく上品で控えめで、深い余韻に満ちた映画です。イカ飯っぽい映画ではありません。

https://youtu.be/Yj3_7teTMHE

映画通にプレゼンするなら殺し文句は幾つかある。

原作は村上春樹の短編。主演はイッセー尾形と宮沢りえのみ、台詞も多く無く基本的には詩の朗読の様なナレーションで進行してゆくミニマムな構成で、まるで舞台を観ているかの様に没入してしまう。坂本龍一の音楽と供に、CM演出家の大巨匠、市川準監督がそれを紡ぎ出す…。

こうつらつら描いてみると、やっぱり映画通、玄人受けと言うか、実験的なヤツ、お固いリテラシー高めなヤツに聞こえてしまうかも知れない。

でも、そんなハイソなものを求めてない人にも観て欲しいので、何がそんなに素晴らしいのか考えてみました。

いきなり話が飛びますが、最近は身の回りに「わかる事が多過ぎる」と思うんです。ネットを観ても映画を見てもアニメを見ても、テレビはあまり見ませんが、とにかく一通り分かる。

面白さが分かる、泣き所が分かる、コンテンツは感情を提供するものである事は確かに間違いの無い事ですが、それが口に合う様に改良を重ねまくられている。お菓子のイチゴ味が、どれも似た味の様に、突き詰めて万人が分かる味を求め始めると均一化してゆく。

「ララランド」について少し言い訳しておくと、基本的にオムライスだから誰でも美味しく楽しめるんだけど、噛めば噛むほど奥に別の味が隠されていて永遠に咀嚼できる、おかわり!さらにおかわり!って感じです。あれは均一化されたオムライスでは決して無い。

「トニー滝谷」のストーリーは実に説明が難しく、正面から説明しようとすれば映画のラストまで数行で済んでしまう。予告編で描かれてる内容がストーリーの全てと言っていい。

どんな感情が得られる映画なのかを説明しようとすると、今度はいくら説明しても足りない気がして、陳腐になるのが目に見えて分かる。

だから、均一化されていない、食べ易く飲み込み易くされていない感情の原液を味わってみて欲しいです。あの歯触りは、香りは一体何だったのかと、余韻に浸って欲しいです。

あ、オムライス的な事を言うと、宮沢りえが一番可愛い映画です。

サポートも嬉しいですが、よかったら単行本を買ってください!