口から出た言葉は鋭利であればあるほど、目の前の人だけでなく未来の自分も殺してしまうことを理解して扱わないといけないって思った

やっぱりそうだよね、、、

私のために気を使って涙を拭い、無理に笑みを浮かべる彼女の姿があまりにも痛々しすぎて見ていられなかった。

その場面が目に映るより時間は2時間ほど巻き戻る。
私は友達が入院する病院の廊下を歩いていた。

月に一度この病院へ赴く。
本当はもっと来たいのだが、彼女が気を遣われているようで嫌だというので月に一回にしている。

彼女と友達になったのは中学生の頃だ。
私はクラスでも目立たない人間で、彼女はクラスの中心人物の輪の中にいた。
そんな彼女と接点を持つわけがないと思っていたのに今は月に一度会うような間柄になっているのだから人生はわからないものだ。

仲良くなるきっかけは塾が一緒になったときに話をしたこと。
たまたま見ている深夜アニメが被ったことから盛り上がり仲良くなった。
ただ私たちがアニメの話をするのは塾でだけだ。
というか会話自体、塾以外ではしない。

一度話しかけようと思ったことがあったが少しきまづい顔をされたのを思い出す。
おそらく私のような日陰ものと関わると中心人物のメンバーに同類と思われる可能性があるためだろう。
それ以降、私は学校で話しかけることはなかった。

言葉だけ聞けばひどい人間のように映るかもしれないが、そんなことはない。
中学生ってかなり過敏な時期で誰に何を思われているのかで毎日頭を悩ましている時期だ。
多分私が逆の立場でもそうするだろう。
今思えば馬鹿げているがあの頃はあの世界が全てだと思っていたから、
その少しの行動で世界から拒絶されてしまうという恐怖に打ち勝てるのは根っからの陽キャだけだろう。

だから私は何も思っていなかった。
そんな彼女との仲がずっと続いていたわけではなく、高校で疎遠になり
大学で地方からの脱出に成功したのち里帰りの際に再会し仲良くなった。

そして社会人になるとまた少し疎遠になり、私の誕生日が近づいてきたタイミングで彼女のLINEに〇〇が誕生日かも?と表示がされたようで久しぶりに連絡がきてまた仲良くなった。

ただその時彼女は車椅子姿になっていた。
詳しくは書かないが持病の影響だった。
とはいえ死ぬほどの病気ではないという言葉を聞いて安心したが、
再会したときには私の知っている彼女ではなかった。

明るくクラスでも目立っていた影はなくかなり落ち着いた女性になっていた。
落ち着いたというと大人になったという意味で解釈されるかもしれないが、ではなくもっと踏み込んでいうと生気がなくなっていたという表現の方が近い。

歩くことができなくなったのだ。

彼女はそのことが恥ずかしいと思ったようで、友達を全員ブロックしたらしい。
かなり極端である。ただそれほどしんどかったようだ。
その中でなんで私は生き残ったのか聞くと「えへへ、、なんでだろ」と笑っていた。
察しはついていたけど、別に言葉にすることではないので「そっか」と返した。

そんなこんなで彼女の病室に到着する。
横に引くタイプのドアを開けるとベッドに横たわる彼女と目があう。

あ、〇〇か!いつもありがとうね!

明るくそういう彼女。
そんな彼女を見てほっとする。
私は彼女の側まで行って椅子に座り最近ハマっている漫画の話をした。

そんな会話をしていると中学の塾でアニメの話をしていたことを思い出す。
そして会話が進むにつれて外に出たいという話になり、彼女を車椅子に乗せる手伝いをして部屋を後にした。

病院を抜けて中庭に向かう。
うだるような暑さを感じて夏だなあと思う。

私は最近仕入れた夏の話を伝える。
最近の幼稚園や小学校では温度によって外の体育がなくなることがあるらしいというものだ。
熱中症予防のためらしいが、その事実から私たちが知っている夏はもうないことを再認識する。

えー、ちゃんと温暖化してんだねえ
言われれば暑いというより痛いもんね、日差しが

ほんとねと返す。
そのときに横から走ってきたおじさんが彼女にぶつかる。
ガンと音を立てて車椅子とともに彼女が倒れる。

私はすかさず彼女に寄り添い、おじさんをキッと睨んだ。

んだよ!そんなとこにいるのが悪いんだろ

そう悪態をつき歩き去っていく。
そしてぼそっと「障害者が」という言葉を吐いた。
私は立ちあがろうとしたが彼女に制止される。

大丈夫、大丈夫!まじで!

そういうもんだからと私を宥めてくれる。
私は怒りを押しこんで車椅子を正して彼女に肩を貸して再度乗ってもらう。

そのあとはまたさっきの人に遭遇する可能性もあるので病室に向かった。
その後に看護師さんを呼んで、ことの経緯を話して彼女の状態を見てもらった。
かすり傷で済んだようだった。

先生と看護師さんが病室から出ていくと、改めて大丈夫と声をかけた。

大丈夫!いや〜、でも最悪だよね〜
まじであいつには足が臭くなる呪いをかけておく!

そんな冗談まじりで話をする彼女を見てほっとする。
そこからは昔のアニメの話をした。

何のアニメの話をしていたときだろう。彼女が涙を流した。
何もないと言っていたけどやはりどこか悪かったのかと思い声をかけるも
違うんだと答えてくれる。

いやさ、やっぱ私は障害者なんだなって思って

その言葉からおじさんが吐き捨てた情景を思い出す。
あんなの気にしないでいいよと声をかけるが首を振る。

違うの。あの人の言葉で傷ついたわけじゃあないの。
中学のときさ〇〇さんいたじゃない?

その子は障害者の女の子だった。
人より成長が遅い子で小学生のころはみんなからバカにされ、中学では腫れ物扱いをされていた。
とくにクラスの中心人物はひどいあだ名をつけていた気がする。

あの頃さ、輪から外されたくなくてあの子の悪口に同調してたの
障害者は健全者と分けて授業してほしいとか、
もっとひどいことだといなくなってほしいとか

確かにそんなムーブはあった気がする。

その時言った言葉や同調した言葉ってさ、今の私も当てはまるなって
思っちゃって

涙のわけを正しく理解する。
おじさんの言葉で傷ついたのではなく、その言葉をきっかけに思い出した自身の発言行動が刃となって自身を傷つけたのだ。

ほんと終わってるなあと思ってさ
なんでみんなブロックしたのにあなただけには連絡したのか前に聞いてくれたよね
あなたなら拒絶しないってわかってたからなんだよね

そうだろうなとは思っていた。
私は昔から人への関心が薄いタイプだった。
学校では話さないというムーブも普通の人であれば傷つくのだろうが、
私はそういうもんだよなと受け入れてしまっていた。
そんな私なら受け入れてくれると思ったんだろう。

ほんと自分勝手だよね
きっと寂しい思いをさせてただろうに、自分が寂しくなったらあなたを利用して
輪から外されたくなくて人を安易に傷つけていたのに、その言葉の標的になった瞬間被害者ずらだもんなあ

ボロボロと涙の量が増える。

見ないふりをしてたけど、おじさんに言われたときに思ったんだ
やっぱりそうだよね、、、って

こういう時になんて声をかけるのが正解なのだろう。
というか正解を探しているあたり自分がいかに浅い人間なのかを知って嫌になる。

だから思ったことを言うことにした。
あの時学校でしか話さないことは嫌じゃなかったこと。
日陰もので自己肯定感が低くなっていた私は中心人物のあなたと話すことで
自分にも価値があるんだと思えて嬉しかった。
だって中心人物は世界の中心人物だから。まさに主人公だ。
モブが主人公から声をかけられることは私にとってすごく嬉しいことだった。

LINEがきたとき嬉しかった。
友達が今も少ないから。
私でも誰かのためになれるんだって思えた。

同じだった。彼女が自分を保つために私を使ったように
私は自分を愛するためにあなたを使ったのだ。

ただ一点違うのはあなたは学校でしか話さないことに抵抗があることも感じてた。
良い人だったから、自分の行動に後ろめたさを感じていたんだと思ってる。

まあ、色々あるけど別にお互いが良いならいいじゃない、そう伝えた。


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