ばーちゃん

久しぶりやな、note
どうや、嬉しかろう

忘れた頃にえげつない量の通知が来る
覗くと全記事にいいね
ええねんけど
ホンマに読んでる?笑

父方の祖父は、俺が生まれる3年前に亡くなっている
(唐突に何や)
写真でしか知らない
大酒呑みで、面白い話も多いのでまたどこかで
父方の祖母は、中学の時に亡くなった
在宅介護で少しの間、一緒に暮らした
その時の話もまたどこかで

今朝、母方の祖母が亡くなった
89歳
周りからすると大往生なんて言える歳でも、身内としてはそんな事どうでもいい

ばーちゃんが死んだ
亡くなった、って感じじゃない
死んだ、ばーちゃんが

子供の頃、大人にどう笑ってもらうか常に考えていた
ばーちゃん家ではゴンという名前の猫を飼っていて
そのゴンの餌を全部、食べてみた
驚かせるとウケるラインの線引きを未だに間違える原点である
めちゃくちゃ怒られた
覚えている限り、最初の大スベり

ばーちゃんは焼き飯が上手かった
共働きで、近所のばーちゃん家に行くと
決まって焼き飯が出てきた
瓶詰めの紅生姜と並んで置かれる

ばーちゃんは、初孫の兄ちゃんに甘かった
「あんたは大輔とちごて」
と何度も言われた

じーちゃんはタイル職人で、家にはファックスが置いてあった
仕事の用紙が印字されていくゆったりとしたスピードが我慢できず引っ張って感熱紙が真っ黒になった時、仏のじーちゃんがブチ切れた
昔からそういう奴だった
「あんたは怒らない人を怒らせる」
ばーちゃんに言われた
ばーちゃんはずっと怒ってるくせにと思った

高校を卒業して、吉本に入る時
そんなヤクザの会社に入れるかと猛反対にあった
ばーちゃんは何でか、行けと言った

ばーちゃんが倒れた
脳の血管が何かなって、急に
みんなで駆けつけた時には呂律が回らなくなって
右半身が動かなくなっていた

見舞いに行っても、ばーちゃんは常に怒っていた
「同室の婆さんにな、昨日アンタの話をしたんや。吉本におるって。ほんだらな、今日には忘れてんねん。嫌やわ、耄碌して」
ゆったりと覚束ない言葉には力があって、みんなでよく笑った

一年ごとに、言葉がどんどん聞き取りにくくなった
一生懸命に話そうとしてる言葉が分からない

兄ちゃんとある日、ばーちゃんの焼き飯の話になった
もしかしたら最後かもしれない
ばーちゃんの枕元で、焼き飯のレシピを訊いた
また作ってほしい
何であんなに美味いんや
どうやったらあの味が出るんや
ゆったりと、でもはっきりとした声でばーちゃんが
「永谷園」って言うた
涙が出るぐらい笑った

じーちゃんが老々介護では大変だからと、ばーちゃんは施設に入った
ばーちゃんはまた、ずっと愚痴を言う
そのどれもオチがついていたし、笑いどころがある
すげーなと思って聞いていた

段々と、聞き取れない
口数も減った
会いに行っても俺の顔を見るなり泣くだけの日が続いた

何で吉本に入る背中を押してくれたのか訊いた
自分の父、俺の曽祖父と同じ目をしているからだと言った
名を春吉と言う
曽祖父は三味線の師匠をしていた
当時でいう芸人のそれだったらしい
女遊びが激しく、最後は教え子と駆け落ちして消息を絶ったと
あんたは春吉さんと同じ目をしてる
芸の道に進むのは分かっとった

ほんなら、もっと笑ってくれよ

せやからアンタは絶対に女で失敗する

何でそんなん言うねん
ほんで当たってるわ
何を笑とんねん

ばーちゃんの部屋は相部屋の角だった
ベッドの位置が悪くて電波が入らず、テレビは観れないと言われた窓際には
小さなポータブルラジオが置いてあった

久しぶりに顔を出す
白髪染めもしていないし、痩せている
動かない右手がいつかは動くと揉んでいたのも止めてしまった

テレビを観た、と言った
俺が出てる賞レース
部屋では観れないから夕食時、広場で他の方と一緒に大勢で
負けた俺らを観てバカにした人がいたらしい
悔しかったと婆ちゃんがまた泣いた
次に来た時は、俺の顔を見て泣くだけでまた会話にならなかった

久しぶりに尚平って呼ばれた
どうしたって聞くと、部屋の説明をする
あそこに服が仕舞ってあって
あとは大事な物はラジオだけ
それを持って車椅子を押してくれ
ここを出よう
ここは私のいる場所じゃない

連れ出す訳にはいかず
俺はラジオだけ持って帰った
いきなり家に帰ったらみんなが驚くから
今日はラジオだけ持って帰るなって
じーちゃん家にラジオを届けて帰った
ばーちゃんに嘘ついた自分が嫌になった

一度だけ、元気な頃に単独ライブを観せた
車椅子に乗って、出てくるなり泣いていた
漫才、聞いてくれよ

それが最初で最後
テレビでは情けない結果だけ
朝ドラに出た頃はコロナで報告にもいけない
そもそも部屋にはテレビが無いから観れない
ラジオだって埃を被って点けてる様子もない

ばーちゃん、頼むわ
これ書きながら思い返してみたけど
ばーちゃんにウケた記憶ほとんど無いわ
ずっと怒ってたわ
耳、本気で引っ張んねん
あれ痛いねん
今朝、連絡があってから今の今まで涙出んかって
大人になったなとか思てたけど
めちゃくちゃ泣いてるわ
楽屋で
後輩おんねん
びっくりするって
あ、全然気づいてないわ
上田だうって奴やねん、アホやねん
説明めんどくさいからハショるけど
向こうに行って会えたなら
戦時中、喧嘩になった男の子
レンガでどついた話もっぺんしてな
あと焼き飯お願い

おやすみな

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