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初夏の頃(25)御射鹿池

初夏の頃(25)御射鹿池
麦草峠の下りはつづれ折りが続く急勾配だ。
ポルシェ356の水平対向エンジンは空冷で、登りもキツかったが、下も、未舗装のガタガタでスピードが出せないとエンジンには厳しい。国道とは名ばかりのR299だ、だいぶ降り切ったところで、国道から左に折れると舗装路になった。
彼女は詳しい!用水路の工事のために舗装になっていたみたいだ。やがて道路脇のパーキングで車を冷やすために、エンジンを切らずに停車した。
美しい、小さな湖のほとり、堰止めのダム湖だ。
エンジンをかけたまま車を離れた。見渡す限り誰も居ない。
緑が美しい、向かいの山の緑が湖面に写って上下に同じ山が対象に在るように映り込んでる。青空も白い雲も!
風が渡ると、湖面の方だけ漣でモザイクになって、風が渡ってゆく。
心洗われる。
無言だった。
でも彼女が僕にここを見せたかったのだと、解った!
少しすると、エンジン切ってくるね!と離れた。
遠くに彼女の姿を見るのは好きだ!
それにしてもこの御射鹿池という池は何という美しさだ。
青森の奥入瀬渓流のような、小さな島や岩や小さな木々と苔がまるで箱庭か盆栽のようだ。

戻ってきながら、少し遠くで、彼女は口を開いた。
「ヒロシ!」大声で珍しく呼び捨てだった。
「私、貴方の子供が欲しい!」
「貴方には迷惑はかけない!だから、夏休みの間中、SEX、沢山SEXして欲しい!もし、出来なかったら諦める。」
周囲に人はいなかったが、決心が今思いついて、直ぐに言わなきゃって!感じだった。
少し間を置いてから〜
「子供は私一人で育てる。ヒロシ君の子供が欲しい。」
真剣に見つめた。瞳の奥を互いに探った。
なんだか急に心臓の鼓動がドクドクドクと感じた。
彼女の手を取り胸に当てた。頭は何も考えられずに居た。
彼女の顔は高揚して上気して少し赤らんでいた。

「私と貴方の遺伝子を持った子供が欲しいと初めて思った。」
また、無言だった。

そしてまた急に〜「自殺したいと思ったことある?」

「うん、有るよ!何のために生きているんだろうと考えた事があって、その時に死にたいと思った。
その前に、幼い頃、自分を誰かと比較して、勝手に偉い人に見せたいと思って、持っていないものを持ってると言ったり、兄もの高給万年筆を学校に持っていって見せびらかして物で自分を、高めようと、そう見えるように。
嘘をついてると、その嘘の辻褄合わせをして、過去の嘘との整合性を取るためについた嘘を記憶をし、さらにまた嘘をつき〜そんなことに疲れた時、嘘をつくのはやめようと思ったのだけど、同時に自分のことを誰も本当は見ていないし気にしてもいないと気づいて、そしたら急に虚しくなって!自殺したいと思った。それまでは、自分中心に世の中は動いていると思っていた。
小学校2年生ぐらいの時かな〜
概念の世界で勝手に脳は自分の事を決めつけたり、モラルや正義を意識の中に作り出すと知って、自分が怖くなった。他人の頭も嘘や恐怖や洗脳みたいにすれば支配できると思った。
それからは、嘘はつかないと決めた。そしたら人生はとても楽になった。」

「私、ヒロシ君に出逢う前に、様々な面倒な事が片付いたら、死にたいな〜って何と無く、本当に漠然とだけど死にたいと思ってた。
今は、同なるかわからないけど、生きたいと思ったの、君の人生に関わりたいと思った時に、変わった気がする。そして、今、急に子供が欲しくなった。」

「ふふふ、種馬に出会った感じ!」
〜二人で爆笑したが、僕の気持ちは少し複雑だった!
でも、なんだか嬉しい!とても嬉しい気もする。

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