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初夏の頃(16)山岳ドライブ

初夏の頃(16)山岳ドライブ

いつもより少し早め、早朝の時間に着いた、既にシルバーの356は暖気していた。彼女は玄関ポーチから籐のバスケットを持って降りて来た。
帽子はキャップで、スポーティーな服装にポケットの沢山ついたベストを着ていた。サングラスはレイバンのティアドロップのシルバー光沢のホリゾント!あれは確か?航空機用だ!そのまま車に向かう。後部座席にはヘルメットとゴーグルも二人分載っていた。
籐の大きな手提げの深い丸い籠も載っている。段ボール箱にはポットとかケトルとかコッヘルとか燃料のシグボトルとか色々入っていた。
「おはよー!行こう!さあどうぞお乗りください!」車を出した。
門の鉄扉は開けておいたので、門を出ると私は降りて鉄扉の門をしめた。
天気は上々!旧軽のロータリーを通過して一本裏側の道に!僕が???ん?
なんでこっち?と首を傾げてると、それを見て、少し笑ってから、ツンとすましてわざと無視する感じ。
そして。一言、「チョっとね!」
さらに、たった今、私が自転車で向かって来た道を戻る。さらにもう一本裏手の離山の方の道に、そして、なんと軽井沢ゴルフ倶楽部の門を潜っていくと駐車場に。「ヒロシ君少し待ってて」と建物に入って行った。

そして、すぐにスラッとした初老の人と出てくる。その人は麦わら帽に長靴と軍手、首には手拭い、腰にも手拭い?彼女はその人と建物の裏手に消えた。やがて、そこからローバーのディフェンダー が出て来て、ポルシェ356の横に、運転してるのは彼女だ!これで行くから、荷物載せ替えてもらえる?ビックリしながらも胸は高まる。
俄然、座席の位置が高いし視界も眺めもご機嫌です。しかも頑丈!
彼女も嬉しそうに〜「ね!これいいでしょ!山岳ドライブだからさこれが最高なの。」
彼女も興奮してる。あの叔父さん父の友人なんだけど小さい頃からとても可愛がってもらったの!車好きで!私の車も乗りたがるから、ポルシェの鍵、置いて来た!奥様も素敵な人!」
車は中軽井沢から峠の茶屋を通過して草津に向かう、草津温泉を抜けて白根火山ルートをガンガンに力強く登っていく。話し声は大声でないと聞こえない!硫黄の匂い硫化水素の停車禁止の危険地帯を抜けて白根山の火口展望台まで一気に上がった。砂漠のような荒凉とした景色、全ては眼下に〜
少し休憩して火口湖が見える火口の尾根まで急坂を歩く、手を繋いで私が先に、なんか不思議な感じだ、手を繋いでる、シッカリと。サングラスが反射して目は見えない!彼女はどんな気持ちなんだろう?とても素直に頼りきっている感じがする。
登り切ると、立ち止まって湯釜の白濁したエメラルドグリーンを見る。
彼女は怖いのか腕をしっかりと抱いている、私の腕にはバストのふくらみを感じる。明らかにわざと押し付けてる?気がする。
360度の景色を満喫して、先を急ぐ。
車に戻って、少し下も登りもあるワインディングロードになる。
やがて国道、日本最高地点を通過して志賀エリアに入る。先に進んで渋峠、横手山、熊の湯まで行って信州中野、渋温泉、その先の長野の平原を視野に納めてから、今北ルートを戻る。
お腹も空いて来たので国道をそれて、林道の小道に入る笹原の林間、明るい少し広い草地を見つけて駐車した。
小川も流れて、大きな切り株もあってそれをテーブルがわりにランチボックスの籐のバスケットを開いた。車に載っていた折り畳み椅子を下ろして、
ピクニックランチの始まり!
ストーブとコッヘルもあってお湯を沸かして始めは珈琲を入れた。
ホーローの赤いヤカン、ホーローのマグカップ、!何から何までよく準備してある。蓋を開けて?驚き!
そのホーローのヤカンにパーコレーターのように中に入れて珈琲を落とす機構のあるコールマンのやつ。見てなんとか理解してコーヒーを入れてから、ストーブにかけた。あ〜だから蓋のつまみの所かガラス製なのか?
やがて、沸騰すると、ポコポコとガラスの摘みのところにコーヒーが吹き出すのが見えた。
ランチのスタイルは英国式だ。テーブルクロスはタータンチェック!
サンドイッチはスモークサーモン、ローストビーフ、シュリンプフライ、マヨネーズ味のゆで卵、それに野菜のオニオンスライスにトマトスライスにピクルスとサラダ菜、ミニトマトにカリフラワー、もも肉のローストチキン、フライドポテトのローズマリ味、トウモロコシの輪切、色合いも。缶詰のアンチョビとツナ缶とオイルサーディン、適当に挟んで味を好みにと。
ポットにはミネストローネのスープ。
途中、紅茶も入れて、ゆっくりとのんびりと温かな太陽日差しの中ゆっくりと食べた。
ライ麦畑でつかまえて〜の本の話から始まって、対位法の音楽の話、キリスト教の宗教の話、モラルの話、自由学園の教育の話、ケルトの言葉の話、大英帝国の話、搾取や黒人奴隷貿易の話、鎖国していた日本に来たペリーはなんの目的だったのか?何故日本は鎖国をしたのか?音楽の始まりと音階の話、和音の話、属7和音とは何か?ピアノの歴史の話、いろんな話をした。
「何故、勉強するのか?」その質問に、私は少し言葉に詰まった。
「それは将来の選択の自由を広げるため!」と彼女は言った。
そんな、未来の希望ある話をしながら、彼女は遠くを見て、何か寂しさを瞳の中に写し出すのを、僕は見逃さなかった。

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6日目AM〜ランチ

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