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初夏の頃(24)麦草峠

初夏の頃(24)麦草峠

清泉寮からさらに上に広い道があった。八ヶ岳八巻道路。まだ玉石砂利の道だが車線は広い。
右に折れて野辺山に向かった。

「スティーブ・マックイーンは何処が魅力ですか?」
「孤独感?かな。それと声、短い髪、寂しそうな目と眉間の皺、Gパンに白いTシャツが似合う、車好き、運転の上手さ、スタントマンを使わないところ。
肌触りとか、温もりとか、五感で感じることが出来る人、役者なのに人間を感じる。」

「どんな小説がお好きですか?」
「ヘルマン・ヘッセ 「知と愛」= Narziss und Goldmund
ジェイン・オースティン「高慢と偏見」=Pride and Prejudice
エミリー・ブロンテ 「嵐が丘」=Wuthering Heights
サマセット・モーム「月と6ペンス」=The Moon and Sixpence
ジャン・ピエール・サルトル「自由への道」=Les chemins de la liberté
シェークスピアは全部かな?
英語版しかないけど〜「指輪物語」=The Lord of the Rings」

「半分以上知らないな〜「知と愛」は大好きです。車輪の下なんかより好きです」
「ナルチスとゴルトムント、ご自分はどっちの生き方を選びます?」
「う〜ん、聖職者の生き方は出来ないし、ゴルトムントだけど、彼の生き方も大好きだし、多分?あんな生き方が今の自分には合っている。」
「僕も、放浪癖があるし、自由じゃないと生きていけない、ホーボーズララバイとか好きだし。」
「それ知らないかも」「1920の大恐慌の頃、アメリカの広い国土を放浪者たちが職も無く彷徨い、貨物列車にタダ乗りして旅をしていた人達をホーボーズと言って、その人達の歌があるんです。ホーボーズララバイ。子守唄?」


「ヒロシ君は?どんな本が好き」
「今の私は外国文学も日本文学も自宅の全集を読み漁り、題名と内容がごちゃごちゃです。乱読ですね。感銘を受けたのは「白鯨」「老人と海」「戦争と平和」「罪と罰」「ペスト」「星の王子様」当然「知と愛」も。
シェークスピア全集は父のがあるのですが、漢字の字体が古くてなかなか読みづらいですが、わりと読んでます。

日本文学では「他人の顔」「砂の器」「人間失格」「三四郎」「痴人の愛」と「春琴抄」はセットで好きかな「三国志」も〜安部公房の世界がとても好き。「第4間氷期」とかも。
最近は福永武彦にハマってます。「草の花」「忘却の河」「廃市」「海市」〜ミステリーのペンネームの「加田伶太郎全集」
あとは宮澤賢治は殆ど読んでます。彼の生き方や生活、好きな物、興味の持ちかたも。寓話の世界感、鉱物や宇宙やロマンチックな世界観とか?たぶん現実の辛さの自己逃避なのか?それでも前を向いて頑張る姿。尊敬します。古いんですが〜『方丈記の前文』がとても好きです。丸暗記してます。世界観や人生を宇宙の単位で、あの時代で既に達観してる!だから凄いと思います。丸暗記は〜雨ニモマケズも」

「映画はどう?」
日本映画は?ほとんど観てませんが洋画は見てます。
これには理由があって、父の職業と関係があるんです。
父は上野車掌区で、長距離の寝台特急の列車長なんです。
映画の配給って〜フィルムを大きな荷物で持って歩いて、映画館に運ぶんです。専務車掌の父は列車長なので貴重品を鍵のかかる荷物室に預かります。
テアトルとかユニバーサルとかの配給会社の人たちと自然に親しくなって、無料鑑賞券とか頂いて家族は恩恵に預かるのです。ですから、父も無類の映画好きす。私が初めて見た映画は「道」銀座のテアトルです。母と3人でした。
好きなのは、ハンフリーボガードの「カサブランカ」が一番好きかも、音楽も含めて。人生のすれ違いとか、大人としての嘘のつき方とか、本当の思い遣りとか。
カッコイイ男のプライドとか男気とか、ある種の割り切りや諦めとか。
オードリーヘップバーン「ローマの休日」「シェーン」「シャレード」あとはディズニーの「ファンタジア」あのアニメーションと音楽のとの融合、
リズムとか音楽のイメージとかあれで全てのテクニカルは完成してますね。」

「そうか〜映画は共通点は多いかな、私はヒッチコッックが殊の外好き!
あとは「アラビアのロレンス」は外せないかな。映画らしい映画って現実離れして夢がある事、有り得ないことを楽しくリアリティーを持って疑似体験させる。映画の醍醐味だね!」

車は峠道を上り切って麦草峠、に少し平らになった。
停車して麦草ヒュッテに、しばし休憩。
蝶々の乱舞、トンボも乱舞、爽やかな風、夏草の匂い、適度に雲は流れ、青空に真っ白な綿雲が浮いていた。時の流れと浮雲。
歩いて行く道は草藪と灌木、カマキリ、スイッチョ、カミキリムシ、てんとう虫、カブトムシ、クワガタ。
いろんな虫が居た。一夏の短い期間しか生きられない虫たち。なんとなく自分の今の自分の縮図のように刹那的に生殖期間を必死に生きている。
何かとても儚くも美しい危うい気持ちになった。

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