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初夏の頃(19)ロッジ キャビンに

初夏の頃(19)ロッジ キャビンに
僕はお肉モードでサーロインステーキ500gをサラダとスープとパン付きで!
彼女は魚介のグラタンとサラダ。
万平ホテルは空いていた。窓際の席の隅の方に案内してもらった。
食事中は、好きな食べ物とか、嫌いな食べ物、絶対食べられないもの、
出汁の話とか、京都の味と東京の味、昆布と鰹節とか、味醂の話。
蜂蜜と花の香りやハーブやスパイスの話、舌の感覚や嗅覚の話など、他愛にない話をしていた。ぺろりと平らげた。
デザートにアップルパイと彼女はガトーショコラ、二人ともハーブティーを。
「マズローの欲求の5段階って知ってる?
生存、安全、所属、尊重と自己実現

生存欲求は、空気が吸えるとか、水があるとか、食べ物を口にできるとか。
温度が寒さや暑さを凌げるか?体一つで無防備な状態。

安全欲求は、危険がないか?野生動物に襲われないか?風や雨が激しすぎないか?自然の脅威がないか?雨風がしのげて、安心して寝られるか?
安全に生理的な対処が安心してできるか?家や建物があれば十分。

人間はそれらが満たされると、所属欲求の段階になり、幼稚園、学校、会社
地域社会や様々なサークル、グループ、運動の部活動、青年会議所やロータリークラブなど、ゴルフ場の会員、医師会などステイタスなものを求め自己満足を満たしたいと。

そして、尊重と自己実現はリンクしていて、自分のやりたい事、誰もやらない事、自分だけの個性をクリエイティブに表出したいと願う。小説家や画家や音楽家、作曲家、建築家、あらゆる芸術家はそう願い、作品が評価されて、認められたいと願う。そしてそれが認められ尊重されて稼げる、お金になり、社会生活ができる。自分のやりたい仕事の会社を持つのも自己実現という意味で同じかな?」

「高校生のヒロシ君はどこを目指すのか何をしたいのか?
マズローの欲求の5段階を知っておく事で、世の中や人々を俯瞰して眺めると理解しやすいし、考えを整理しやすい。何よりも、人間観察が面白くなる。そこで、大切なものはアイデンティティー、自己の確立と個性的である事。そこにはセンス!が問われる。」

「悩みを持つことはあるよね?
そんな時ヒロシ君はどうやって解決するのかなぁ?」

「うーん?視点を変えるかな?自分を見る目線を空想で客観視して俯瞰します。具体的には、自分を上から見ます。多分?臨死体験のように。部屋の上から、次に、家の屋根から見ます。すると、家族が視界に入ります。その段階で家族の立場や想いを想像します。そして、もっと上から上空から俯瞰すると、町や、社会や地域や国とか?世界を一気に広げ、太陽系とか宇宙とか銀河とか。
そこまで考えると、悩みは小さく、とても小さく時空の流れの中で、様々に考えが広がって、一気にフォーカスすると、悩みは何も解決しないことと、とるに足らないことと、何をどうすべきかも大体わかることが多い。
そんな感じです。所詮、淀みに浮かぶ泡沫ですから。」

「なるほどね!アドバイスはない!私も参考になった。
最後は〜方丈記 前文だね!君は素敵だね!」
彼女の目は笑っていなかったし、少し遠くを見つめていた。
視線の先は真っ白な夏雲だった。

「少しドライブしようか?」
ポルシェ356は喜んでいるように感じた。
佐久から小海線沿いにR141は細く未舗装のダートもあって快適な道とは言えないが田舎道や寂れた街並み、ワインディングの峠道などかなりの長距離を走った。国有鉄道最高地点の野辺山を過ぎて清里駅から、一本道の上りで八ヶ岳の中腹に広大な牧草地のある清泉寮に向かった。

来る途中で「ヒロシは今日は泊まれるかな?」と訊かれた!
「今夜は僕一人だから、大丈夫です。」と答えた。
彼女は電話BOXに、どこかに電話をしてスティーブの事を頼んだらしい。
そして、清泉寮キープ協会にも宿泊予約をしたらしい。
雑貨屋のような店で少し買い物をして向かった。
まだ、明るいうちに到着した。チェックインする間、僕は外で広大な牧草地が眺められる場所に立って待っていた。
遠くに富士山のシルエットも薄く見える。
建物の後ろは、そそり立つように岩肌が荒々しい八ヶ岳の山塊!
入り口のロータリーの真ん中に胸像があった、ポールラッシュ!
この地を開梱し地域の農民に大規模農法と高原野菜を広めたとある。そしてジャージー牛を育て、ミルクとバターとチーズをこの地に。と紹介されていた。

牛小屋のかすかな匂い、牧草の匂い、枯れ草の匂い、鳥のこえ、虫の音、遠くに蒸気機関車の汽笛、とてつもなく広々とした空間は、日本のどこにもない感じだった。何かとっても自由で開放的な空間で気持ちよかった。
彼女はなかなか、戻ってこなかったが、大きな声で英語で話してる声がして出てきた。少しはげ上がった大きな体の老人と親しげに話していた。手をあげて挨拶し終わると、戻ってきた。
「彼!ポールラッシュさん、父の友人、この地を気に入って日本のために尽くしてくれてる。熱心なクリスチャン。」


八ヶ岳の向こうに日が沈み暗くなり始め少し冷えてきた。
お腹すいたでしょ!レストランに行こう!と後ろの建物の二階に上がる階段を上がった。ウッディーなログの建物はランプの灯りのような暖かい光に包まれていた。
大きなサラダボウル、クラムチャウダー、大きなソーセージのグリル、ソテーした野菜とジャガイモ!各種のパンの入ったバスケット。
そして、パンにつけるチーズがソテーされて、バターもたっぷり。
珈琲はアメリカンで大きなマグカップ、それと名物?ミルクが大きなガラスのボトルで!アメリカンな食事だ。ポールラッシュがどんにか素晴らしい人か話してくれた。アメリカンフットボールを日本に広めた人でもあるらしい。
そしてここはキリスト教の中でも聖公会という立教大学と同じ宗派だと教えてくれた。

再び車に乗って、向かいの道路を横切り、標識を確かめながら宿泊のロッジキャビンをさがす。もう暗くなり始めていてライトに照らし出された標識[Okinawa]ここが今日のロッジだ。
中に入って、すぐに薪ストーブに火を付けた。彼女は別にある石油のポットストーブにも火を入れた。夜になると、ここは夏でもかなり冷えるらしい。
ボイラも付けてお風呂に湯を入れた。
木の温もりのロッジは此処も暖かな光に満ちていた。敢えて、電気を消して、石油のランプと、暖炉の火の揺らめく光と、石油ポットのストーブの明かりだけで心落ち着く部屋になった。
一気に室内は暖かくなり薄着で快適な空間に、シュンシュンと沸いたお湯で紅茶を入れた。マグカップも大きい!

何かとても落ち着いた空間、安らいだ時間、ほとんど何も話さず。
彼女はロッキングチェアーで膝掛けを乗せてくつろいだ。
僕は暖炉の前の厚めの暖かな毛皮の上に寝転んだ。
泊まる!朝まで一緒にいる、居られる。こんなに長い時間一緒に。
満ち足りて、あまりの事に、とても幸せだった。
寝転んでいたけど、ずっと彼女を見つめていた。
彼女は運転で目が疲れたのか、目を瞑ったままだった、でもロッキングチェアは楽しそうに揺れていた。
美しい鼻筋、顎のライン、耳からうなじ、肩の華奢なスロープ。
必要にしてコンパクトな豊かなバスト。
言葉は必要なかった。

でも、まだまだ話し足りなかった。

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