『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』レビュー

アニメ評論家の藤津亮太さんによる「レビューの描き方講座」2015年1-3月期の第1回講義が、東急BEたまプラーザ校で先日開催されました。その時に提出した自由課題原稿です。800字制限で「私のオススメアニメ作品」のレビューを書くというもの。最初の原稿は「構成は概ね問題ないが、未見の人には"ヨヨが死を知らない"というイメージが伝わりにくいのでは」という指摘を受けたので、指摘事項を中心にリライトしてみました。文字数に収めるため説明の大幅な省略をしたりして、元の文章より良くなったのかは怪しいところですが、リライト版を上げておきます。

(想定媒体:新聞文化欄の映画評)

 主人公が異世界の危機を救うのはアニメでは王道なシチュエーションだ。しかし、もしあなたが同じ立場になったら、見ず知らずの世界を救いたいと思うだろうか?

 『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』は、ひらりんによるマンガ『のろい屋しまい』を原作にした2013年公開の劇場長編作品。監督の平尾隆之は人気作『空の境界』や短編映画『桜の温度』で脚光を浴びた今注目の若手監督だ。

 ヨヨとネネは「魔の国」で魔法や呪いの悩みを解決する「のろい屋」を営む姉妹。空から落ちてきた巨大建築物を調べるうち、姉のヨヨだけが異世界=現代の横浜へ転送されてしまう。出会った少年、孝洋の両親が化け物になるなど、この世界でも異変が起きていた。孝洋から依頼を受けたヨヨは「のろい屋」の威信をかけ解決のために奔走する。だが魔力のないこの世界で徐々に弱まるヨヨの力。彼女に出来る事は何か、ネネと力を合わせ二つの世界に迫る危機を救えるのか?

 価値観が異なる世界の住人であるヨヨが異世界を救おうとするには、単に仕事の依頼だけでない、強い動機が必要だ。本作ではそれを「死」をうまく利用して生み出している。「魔の国」では何度でも生き返る事が出来るため死の概念がない。そのため物語の前半では死をしらないヨヨとそれに反発する孝洋の対立が繰り返し描かれる。しかし最愛のパートナーである使い魔のビハクを失うことで彼女は初めて死を実感し、巨大な喪失感におそわれる。そんなヨヨを救うのは救急隊の懸命の蘇生努力と人々の励ましだった。そして病院では赤ん坊の生の瞬間にも立ち会う。その情景を丁寧に積み上げる事で、死と生を実感した彼女の内なる変化、世界を救いたいという動機の発生に強い説得力を生んでいる。魔法には出来ない大切な事とは何なのか。力強い作画と合わせて高揚感と共にクライマックスへと誘うのだ。

 彼女の想いに触れた後で、もう一度冒頭の問いを考え直してみるのも悪くないだろう。