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Vol.8武蔵野

東京生まれの東京育ちなのだけど、そうとは思えないと人にいわれる。
さらには森に住んでいるのでしょうとも。


記憶に残っている最初の家は中野の借家、造園会社の圃場の隅に建つ家。まるで森付き住宅のようで、木に登り、どんぐりや松ぼっくりを拾い、土に穴を掘って遊ぶ子リスのような暮らしをしていた。


程なく23区の西の外れに引っ越した。商店街や住宅街を通り抜け、駅前から1キロほど離れると、休耕田や草原がまだ残っていた。傾斜のある雑木林の下には泉が渾々と湧き、カタクリの花が咲く。レンゲ畑の向こうには小さな牧場。日が暮れるまで飽きることのない自然の遊び場が広がっている。
そして傍らにはいつも武蔵野の樹林がある。芽吹きの季節から木枯らしが吹き抜ける裸の枝の季節まで、あまりに当たり前過ぎて存在を忘れてしまうくらいに木々は寄り添っていた。


いつの頃からか駅前には高層マンションが建ち、ジャンクションが牧場の名残を消してしまった。


今はもう森の面影が感じられるのは屋敷林と公園だけだろう。それでも冬の薄曇りの日には、シンと冷えた空気と霜柱、クヌギやケヤキの落ち葉の匂いを感じることがある。


思いっきり深呼吸をする。鼻腔の中と肺の中に森が現れる。森は私の中に住んでいる。

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nonohananote
テキスタイルプリント「おもいでの森」のためのドローイングを再構成


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