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感想 明治モダン歌劇「恋花幕明録~前日譚~」



 明治モダン歌劇「恋花幕明録~前日譚~」(以下ばくおぺ)が幕を下ろし早2週間、いつまでも脳内で鳴り続ける歌声が恋しい。ばくおぺ、本当にいい舞台でした。
 こんなに初日を楽しみに待っていた舞台は久しぶりだった。初めて見るシリーズ、初めて入る劇場、瑠生くんを好きになって初めて見る座長姿、キャスト一覧を見るだけでわくわくする豪華な出演者の皆さん、初日が来るのを指折り数えている間に期待値がどんどん上がり、でも初日の公演を観劇して、こんなに面白くていいのー!?!と期待を遥かに上回る良さに飛び上がった。初日の時点で完成されきっているように見えたけど、毎日更に進化していって、東京楽のころにはもっと面白くなっていた。すごい。アプリゲーム「恋花幕明録」の前日譚ということで、戊辰戦争を土台にしたストーリーにゲームオリジナル要素を載せた歴史もの。歌劇を謳うに相応しい歌上手メンバーが勢揃いして、それがより物語の深みを増長させていた。本当にすごかった。



 ばくおぺに登場する幕末の志士たちは、勝者側も敗者側も「歴史をつくった」ものとして名が残っているいわゆる偉人たちだけれど、名もない沢山の人たちの尽力と犠牲と夢がわたしたちが今生きているこの時代へと繋がっているのだなということを、しみじみと感じる観劇だった。そしてわたし自身、時代を作るとか世界を変えるとかそんな大それたことは何もできないし、それどころか大きな夢すら持っていない平凡な人間だけれど、わたしたちの営みが確かに未来をつくる一要素になっているのだなと気づかされた。せめて自分の手の届く範囲の小さなことには誠実に向き合いたいという気持ちをもらえて、日々を今までよりも少し前向きに過ごせる気がする。わたしにとってものすごく、「今」出会えたことに意味のある作品だった。
"果たしてそこは我らが目指した平穏な世へとなっているのだろうか" この歌詞はすごく作為的というか、作り手の姿が見えるような、登場人物たちと、この舞台を作り上げている人たちと両方から投げかけられているような気がして、毎度ハッとさせられた。



 これだけ芸達者な役者さんたちの中にあっても瑠生くんは全然負けていない、どころか、わたしは木原瑠生くんのパフォーマンスが大好きだなと改めて思うことができた期間でもあった。特に歌の表現において、歌い方でこんなふうに感情が伝わってくるんだ、という新鮮な驚きが常にあった。見るたびに泣いていたのが近藤さんの最期のシーンで、そこで斎藤一が歌うソロ "俺は俺が信じる道を進み 守るべきものを守ります" は、いつも目いっぱいに涙を溜めて、時にはこぼれ落ちているにも関わらず、それによって生じる声の揺らぎが斎藤一の「表現」になっていることに毎回感動した(ため、ストーリーの悲しさと相まって更に泣いた)。わたしは元々瑠生くんの自然なお芝居がすごく好きなのだけど、そこに表現豊かな歌が加わるとこちらが受け取る情報量が途端にすごく多くなって、面白いほどに毎公演新しい感情をもらっていた。視線やちょっとした表情の変化や声音の違い、全身で表現される斎藤一にぞっこんだった。本当にカッコよかった。
 そして、カテコ挨拶になると少しほわっとしたいつもの瑠生くんの姿が見えるのも楽しかった。挨拶の内容にたまに客席が首を傾げていたけど(笑)、瑠生くんの言葉はいつもすごくまっすぐで、日頃から色々考えた上で出てきた言葉なんだろうなということが伝わってきて、カテコも含めてすごくいい舞台でした。

 好きなシーンは山ほどあってとても書ききれないけど、抜粋していくつか。

 「容保様、今年も墓前に伺えず申し訳ありません。」わたしは原作ゲームを斎藤さんルートしかクリアしていないドにわかですが、この言葉から始まる前日譚を経て、斎藤ルートのラストの墓参りのシーンに繋がっていくのかと思うと、何と美しい構成なのだろうかとドキドキした。ばくおぺは舞台単体で見てもすごく面白いと思うけど、ゲームのあの斎藤さんなんだな、と実感する場面も多かった気がする。"守るべき国 守るべき人 守るべき心 守るべき愛を"の最後に「愛」をもってくるのも、何となく前日譚の時点での斎藤さんぽくはないような気がしたけど、これを経て本編の斎藤さんになるのだと思うと言葉の重みが増すなあと思っていた。

 日替わりの自由度が日に日に増していって面白かった。個人的には「ハム次郎」が好きすぎて、斎藤さんの真面目かわいい表情を見ると(ハム……)と思うようになってしまった、かわいい……。何回目でも近藤さんはかっこよかったです!!!日替わりシーンで笑えば笑うほど、このあとの別れが辛くなり、ラストシーンでの「辛かったことも楽しかったことも」という台詞のリアルさが増していて、良かった。辛いけど……。
 日替わり後、斎藤さんが勝さんに作戦の意図を問うシーンで、冒頭の斎藤ソロがBGMとして流れているのがとても印象に残っていて、"かつてのこの国の扉を開ける戦いに間違いはなかったのか?"と振り返るうちのひとつに、甲府での戦いがあるのかもしれない、と思ったり。

 多分ばくおぺを見た全員が大好きであろうさつまいも、例に漏れず大好き。基本的ににっこにこで見ていたけど初日は西郷さんなんていい人なんだろうと思ってちょっと泣いた。全体的にスケールが大きい話をすることが多いストーリーの中で、土にまみれながらさつまいもを育てる桐野くんの姿は細部まで情景が浮かぶようだった。(学校でさつまいもを育てたことがある田舎者だからなおさら……。)曲調もかわいいしアンサンブルさんのダンスもかわいいし、手土産に〜のところの桐野くんの動きもかわいい。全てが好き。

 近藤さんと西郷さんの一騎討ちのシーンは、見れば見るほど涙が抑えられず、東京楽の日はぼろぼろになりながら見た。まず両者の殺陣がすごい。迫力とスピードがあって、強い決意の感じられる表情で、劇場に流れる緊迫感にこちらが気圧されてしまっていた。と、殺陣に夢中になっていて気づかなかったのですが、3回目くらいの観劇でふと後ろにいる桐野くんのことを見たときに、彼があまりにも悲痛な表情で2人の行方を見守って(助太刀したいのにさせてもらえない状態で歯を食いしばって待機して)いて、あ、この人たちにとって今この瞬間は、本当に生きるか死ぬかの刹那なのだ、と気づいてたまらない気持ちになった。正直気持ちとしては新撰組に傾いて見ていて、今日こそは近藤さんが勝てる未来がないだろうかと思う日もあったんだけど、改めて正義と正義、信念と信念のぶつかり合いなのだなと実感して、もっと大好きなシーンになった。近藤さんは、人の身を捨てて生き延びたことを悩んでいたけれど、そうしてでも成し遂げたいと思うことがあったということは、わたしにとってはとても気高く眩しく見えた。強くなりたい、誰かを守りたい、立派な武士であろうとした近藤さんはやっぱりかっこいい。でもやっぱり、武士として最期を迎えられたことは救いなんだろうな。西郷さん、ありがとう……。

 土方さんと斎藤さんの別れのシーン、ここまでの重い展開に似合わず土方さんの歌は卒業ソングのような爽やかさで、それが余計に泣けた。(ずっと泣いてる人……) 2人で向き合っているけど土方さんのソロなのも好き。己の信念を貫いた結果違う陣営に与する可能性もある中で、敵とか味方とかの範疇ではない関係性なんだろうなあということが伝わってきて涙涙……。でも堪大さんの配信を見てから、道をゆけおじさんという言葉から頭から離れません……。お前はお前の道をゆけ……!!! この別れの後にゲーム本編に繋がることが、とても辛く、悲しく、でもこれがあるからこその本編の2人なんだなあということも納得できる別れだった。ということで早く土方ルートを読みます。

メモ : 斎藤土方榎本の共に戦おう〜のハモリは斎藤さんだけ上ハモだそうです。(3/9木原カレイベより)

"模索し続け、未来見つめ、自分を信じて、命が尽きるまで生き抜こう"

 わたしにとってとても大切な物語になりました。この舞台に出会えてよかった、ありがとうございました!!

会津・鶴ヶ城からの眺め

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