ショートショート おお神よ

 それは急にオレを襲ってきた。丸二日、そこに潜んで出てこないヤツが、今まさに姿を見せようとしている。ドア一枚しかない狭い空間に身を潜め、オレは全身系を集中した。腹部に痛みがある。だが、これこそ、オレが生きている証だ。よし、来た!今だ!

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

 突然、ドアの外から響く、ただならぬ音。だが、今はまだ動けない。ふと、ホルダーを確認する。もう、あまり、ない。だが、なかなか終わりそうにはない。

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

「チッ、しつけえな」

 その音に俺は思わず毒づいた。相変わらず音が響く。おそらく、扉のむこうのヤツも見えぬ敵と戦っているのだろう。その敵が顔を出したら、ヤツも終わりだろう。だが、今はマズい。まだ、終わりそうにない。

 と、また痛みが来た。オレはその痛みに抗いつつ、踏ん張り、力を込める。ホルダーをもう一度見る。やはり、これはマズイ。明らかに、足りない。

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

 衝撃で、ドアが軋む。だが、今はまだマズい。まだ、終われない。終わりそうに、ない。ドアの外のヤツも非情にヤバイ状況なのだろう。それはわかる。だが、こちらも、今は動けないのだ。そのときだった…。

「!」

 とうとう、ホルダーの中身が空になった。切れた…切れちまった…。

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

ド・ド・ド・ド・ドン!

ド・ド・ド・ド・ドドン!

 外からはまだ、非情な音が。だが、こちらも空になってしまったのだ。すまん

お前を助けてあげられない…。オレは外にいる、まだ見ぬヤツへ声を掛けた。











「すんません、紙がなくなりました。申し訳ないけど、他あたってください」

「うわ…ウソだろ」


 音は止み、外の男が走って出て行く足音を、オレはトイレの個室で聞いていた。紙がなくなったトイレットペーパーホルダーを見つめながら。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?