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サラミの味は大人の味

子供の頃、お習字に行くと「うまい棒」を1本もらえた。
うまい棒欲しさに、お習字に通っていたのだ。

この、うまい棒だが当時は味が3種類だった気がする。
チーズ、めんたい、サラミ味だ。
好きな味を選べるのだが、私は「サラミ」が何なのか分からなかった。
友人は、何も言わずに「サラミにしよう〜。」と言っていたので皆んなの家では日常的に「サラミ」が食べられているのだろうか?
友人たちが当たり前のようにサラミ味を選んでいたので、恥ずかしさから「サラミって何?」と聞けず私も当たり前を装い「サラミ味」を選んでいた。
今となっては、親に聞けば良いのだが、なんかそれも出来なかった。

サラミを知った風を装い、5年生になった。
調理実習でピザトーストを作ることになったのだ。
材料を見ると、「サラミ」と書いてあった。
写真を見ると、パンの上にトマトケチャップ、玉ねぎの輪切り、ピーマン、チーズの他に丸い茶色の輪切りが載っている。
恐らく、その丸い茶色が「サラミ」なのだろう。
消去法で導き出した答えだった。
私が、知ったかぶりをしていた「サラミ」とこんな形で向き合うことになろうとは… と思っていると、隣の席の男子が「サラミってなに?」と聞いたのだ。
すると、前の席の女子が「この茶色の丸いやつだよ」と答えた。
衝撃的だった。 
それと同時に、分からないことをはっきり聞ける男子が羨ましくなった。
私も、その勇気があればもっと前に「サラミ」を知ることができたのに…
などと考えていたら、材料を分担して買うため誰が何を持ってくるか決めることになった。
事もあろうに、その「サラミって何男子」が「俺、サラミ買ってくる」というのだ。
「おいおい、あんたはさっきサラミを知ったばかりのサラミ初心者だろうに、サラミは上級者に任せて、私たちはスタンダードな食材を選ぼうよ」などと思ったが、「いいよー」と皆んな笑顔だ。
上級者達が認めたのだから大丈夫なのだろう。
私は意気地なしの初心者だから、ピーマンを選んだ。

調理実習当日、初めて見た本物のサラミは思った以上に形がうまい棒だった。
友人曰く、薄く切って父親がお酒のおつまみで食べたりするらしい。
ほぅ、「サラミ」は大人のおつまみなのか。
私が出会わなかったのも納得である。
我が家の父もお酒を飲むが、おつまみは冷奴や枝豆だ。
サラミを食べるような父親は、膝に猫などを乗せてバスローブなどを着ているに違いない。現に、父親がサラミを食べていると言った女子は駅前のマンションに住んでいるのだから…
などと妄想している間にピザトーストが出来た。
今日が私の「サラミ記念日」なのだ。集中して味を確認しなければ…

初めてのサラミは、「うまい棒」の味ばかり想像していたこともあり「正解」なのか分からなかった。
本物のサラミなのだから、これが「正解」なのだろう。
しかし、私はうまい棒のサラミ味しか知らない女。
素直にこの味を受け入れられなかったのだ。

材料が余ったので、もう1枚食べる?と聞かれた。
私はラップに包みいつも仲良くしてくれていた用務員のおじさんに持っていった。
この用務員さんは私が飼育係だったこともあり、動物や植物のこと、勉強のことなど色々と教えてくれてた。
おじさんにピザトーストを渡すと、すごく喜んで食べてくれた。
私は勇気を振り絞って「このサラミって、こういうものなの?味は美味しいの?」と聞くと「そうそう。アクセントになってて美味しいね。サラミを乗せるなんて本格的だ」と笑ってくれた。

私は、用務員さんの言葉を聞いて「これは正解で本格的なのだ」とやっと納得することができて嬉しかった。
現在、うまい棒はもっと色々な味が出ている。
それでも「サラミ」味が1番好きだ。
サラミ味を食べると用務員さんと話した日を思い出し懐かしい気持ちになれるのだ。






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