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岩田健太郎先生ってコワい人?

この度、出版された『新・養生訓 健康本のテイスティング』(丸善出版)の対談で初めてお目にかかった岩田健太郎先生ですが、私も医療記者の端くれですから、もちろんその著書はよく読んでいました。

いつか取材したい、一緒に仕事をしてみたいと思っていた方との対談話ですから、依頼があった時はとても光栄で嬉しく思いました。ただ、最初の対談日が近づくにつれ、私は緊張してきました。

「岩田先生、おっかない人なんじゃないかな。アホな受け答えしたら怒られるんじゃないかな?」

岩田先生のご著書やブログで、自身がおかしいと思う医学の言説などについて舌鋒鋭く批判する姿を追いかけてきたこともあるのでしょう。笑顔でない顔写真も眼光鋭くおっかない...。しかし、それだけではないのです。

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(神戸大学病院感染症内科のHPより 腕組みをして眼光鋭い...)

実は、前職、読売新聞の医療サイトyomiDr.の編集長を務めていた時に、実は寄稿をお願いしようと考えたことがありました。その時のことが思い出されてきたのです。

ウェブで読まれる感染症の記事 誰に依頼するか?

今を遡ること4年以上前、紙の新聞からウェブサイト「yomiDr.」の編集長になった時、とても新鮮だったのは、記事ごとのPV(ページビュー、閲覧数)が見られることでした。意外かもしれませんが、新聞記者は記事を出したら出しっ放しで、その記事がどれほど読まれたか把握する方法がないのです。

記事PVの毎週のランキングを見ていると、当時のyomiDr.でもっとも読まれていたのは、流行している感染症に関する記事でした。自分で記事を書くだけでなく、寄稿の企画や編集も担当していた私は、感染症の専門家にわかりやすく感染症を啓発してもらう寄稿をお願いしようと考えました。

そこでまず思い浮かんだのは、HIV/エイズの連載を書いた時に、直接取材をしたこともある今村顕史先生です。今村先生は「あれどこ感染症」という一般向けの啓発ブログを長く続けており、そのやさしくわかりやすい文章と穏やかなお人柄は編集者にとってもとても魅力的でした。

結局、今村先生に依頼して、その後、長く連載をしていただくことになったのですが、その時、もう一人、頭に浮かんでいたのは、岩田健太郎先生でした。

医療記者もビビる岩田先生のうわさ

私はそれまでに岩田先生の一般向けの著書をほとんど全て読んでいました。

感染症全般に詳しいだけでなく、文章もわかりやすく、発信量の多さから見ておそらく筆も速い方なのだろうと想像していました。何より、社会問題でもある感染症の背景まで踏み込んでいき、歯にきぬ着せずに、医療行政、医療業界、マスメディアと全方位に対して果敢に議論を仕掛けていく尖った感じが好みだったのです。

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(神戸大学病院感染症内科HPより  笑顔はむしろ柔和ですね)

ただ、私は直接取材をした経験がないため、まずは岩田先生を取材したことのある医療部の仲間に様子を聞いてみようと思ったわけです。

そうしたらまあ、皆が皆、「専門家としてはとても信頼できる」と言うのに、「でも一緒に仕事をするのは大変かも....」と歯切れが悪いのです。

よくよく聞いてみると、記者の曖昧な質問や記事上の表現に対して、「不勉強だ」「意味がわからない」と、かなり辛辣な意見を言われた経験があるようでした。議論を持ちかけられて、大変な思いをしたという記者もいました。

当時、私も新米編集長でしたから、ビビってしまったのでしょうか(今なら余計面白がってしまいそうです)。

取材でよく知っている先生の方が良かろうと今村先生に依頼し、結局、岩田先生と接点を持つことなく4年以上が過ぎました。もちろん、今村先生は今村先生で流行中の感染症について依頼すると、素早くタイムリーに記事を出してくれるヒットメーカーになり、それはそれで大成功だったのですが。

出会うべき時に人は出会う? 

そんなわけで、昨年になって、岩田先生との対談話を丸善出版の担当編集者、程田さんにいただいた時、私は内心、「おお!とうとう一緒に仕事できる機会が巡ってきた!」とすごく嬉しかったのです。

批評の対象となった最初の本は、私の当時の部下が著書で、私の記事も引用されており、まさにまな板の上の鯉です。

そして、岩田先生は狙いすましたかのように、その本で引用された私の記事について、ビシバシと鋭いツッコミを入れてきたのです。

そこで私は、ビビったか? 不快に思ったか?

全然そんなことはありませんでした。

詳しくは、本の第1章で確かめていただきたいのですが、岩田先生の指摘はなるほどと思うところも多く、受け止めたり、反論したりしていくうちに自分の考えが明確になるようなこともあり、知的な興奮を得られるやりとりになりました。

それは、前回、このnoteで公開した「序章」でも明確にしているように、岩田先生は筆者の人格を攻撃しているわけではなく、あくまでもテキストを批評しているからなのだと思います。記事の編集もそうですが、テキストの不備や問題点を指摘する、批判するというのは、それよりももっとよくできるはずだという、高みを見据えた期待があるからです。

それがわかるようになった段階で岩田先生と一緒に仕事ができて本当によかったと思いました。人は出会うべき時に出会うものなのかもしれません。

問題を指摘してくれるのが真の応援団

岩田先生は私が辞めた後の2018年からyomiDr.で「Dr.イワケンの『感染症のリアル』」を連載しています。対談でも話しましたが、yomiDr.の編集者と相当激しいやりとりもしているそうです。

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(yomiDr.で連載中のDr.イワケンの「感染症のリアル」のページ)

でもきっとそれは原稿を良いものにしたいから、読者に良い記事を届ける媒体としてyomiDr.に期待しているから。

私もyomiDr.の編集長を経験して、現在、転職してBuzzFeed Japan Medicalの記事(寄稿も含む)を担当していてありがたいと思うのは、親しい医療者や患者団体の代表の方たちが、間違っているところやおかしなところがあったらきちんと指摘してくれることです。

真の応援団は、自分のやることをなんでもかんでも肯定し、賞賛してくれる人ではありません。間違ったところは指摘し、時には建設的な批判もしてくれる人が周りにいることが、仕事の質を高め、自分が成長していくための何よりの応援になります。

今回の対談本『新・養生訓  健康本のテイスティング』、健康本をメッタ斬りしているかのように捉えている方もいらっしゃるかと思いますが、実は逆なのです。

岩田先生も私も、健康情報の発信を良くしたいという気持ちがあるからこそ、批判もし、改善のために何ができるのかを考えた本です。医療情報を発信する自分にも向けられた批判や提案だと考えています。医療・健康情報を応援する本として読んでいただければと願っています。

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