8日で死んだ怪獣の12日の物語

「8日で死んだ怪獣の12日の物語」を観に行った。

ネットでも視れるらしいけれど「女優のん様の映画はスクリーンで観なければ…」というこだわりは捨てきれず、映画館で観ることにした。

場所の選択肢は新宿と渋谷に絞られたが、新宿は上映が夜しかなかったので渋谷に決まった。

アクセスは、渋谷と原宿駅からほぼ等距離だったが、渋谷の雑踏は避けたかったので原宿駅から向かった。

コロナ自粛に入る前の『星屑の町』以来だったので久々に「のんちゃんの映画を見に行くのだ」という気持ちだけでウキウキした。

しかし、連日40度に届きそうな暑さだ。昨年の夏、舞台『私の恋人』を観た時も暑かったのを思い出した。

NHKと山手線の間の道を歩いたが、日陰はなくて、焼けるような陽射しと、熱を蓄えたコンクリートの輻射熱がスゴい…。
人混みを避けた甲斐もあってか、誰も歩いていない。

蝉時雨を聞いていると「8日で死んだ」とはセミのことか?とか、こりゃ八日どころか8分で死にそうだな…とかぼやきながら歩いた。

歩いているだけなのに呼吸が荒くなってきたが
「のん様を観るためには、これぐらいの難行は必要なのだ!」
と念じながら、歩く以外にエネルギーを使うまいと黙々と歩き続け、やっと映画館にたどり着いた。

入口がカフェのようで、どこに映画館があるのかな?と戸惑いながら入ると、カフェとグッズ販売の先にチケット売場がある、どこか懐かしい落ち着いた雰囲気のシアターだった。

エアコンの効いた部屋で、予告編のモニターやチラシを眺めていると、やっと汗が引いてきたころで上映10分前になり、シアタールームの座席に着いた。

リモート時代に逆行するような感想になるけれど、こういうひとつひとつの体感が「あの時は暑かったなぁ」とか良い思い出に残るものだ…

映画の内容については、ネタバレ回避で詳しく書けないけれど、観た後からじわじわ湧いて来るものがあった。

モノクロームの映像は、フォルムと明度と濃度だけに集中した視覚になるためか、のんちゃんの可愛らしさがより強調されて感じた。

リモートという最新のスマートな手法とモノクロというクラシカルで情報量の少ない映像が、妙にマッチして、見ていて疲労感がない。

タクミくんの無精ヒゲやボサボサ頭は、ステイホームを象徴しているんだと思うけど、イケメンすぎてファッショナブルに見えてしまった。

怪獣映画といえば、子供のころ観たあのビルを倒したり火を噴いたゴジラ対キングギドラで、ソウ君の「それって紙◯◯?」という感想は最初は同感だった。

但し、小さいからといって弱いとは限らない。新型コロナはナノレベルでも人を殺す危険性をもっている。なんかだんだん怖くなってきたぞ…

のんびり映画館で鑑賞していて大丈夫なのか?
改めて見るとディスタンスは採られているので慌てなくてもよさそうか?

のんちゃんの「人類ってこんなもの?」
という取り憑かれたような声に目が覚めた。
「ど、どうしちゃったの?」
思わず『星屑の町』の愛ちゃんの台詞

つまんねぇ人生だなぁ!
オジサンたちの人生は

がよみがえった。

事態に手をこまねいて(怪獣ゴッコして)いるオジサンたちに「喝!」を入れたのか?
私の勝手な感想だけどこの瞬間こそが『のん様』本領発揮なのだ。
後れ馳せながら、のんちゃんをキャスティングされた岩井監督に、ファンとして感謝申し上げます。

帰りは絶対タクシーかバスに乗ろうと思っていたのに、行きと同じ道を歩いてしまった。
エアコンがスゴく効いて体か冷えていたせいか、外気が暑く感じた頃には原宿駅に着いてしまった。
見慣れた街の風景が、あのモノクロームの電線の高さから見た映像と重なった。

ああ、ビルをぶっ壊す怪獣じゃなくて、目の前の風景の中にリアルに漂っている、殺処分できない『怪獣』こそにウィズしなければならないのかなぁ?と思いながら、道すがら落ちている丸まったティッシュとか、穴の空いた落葉が愛しき怪獣たちに見えてしまい、踏まないように避けて歩いた。