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SR600四国山脈 2017年の記録

初めてブルべに参加したのは2016年の2月、SR600は2年目の2017年5月に四国山脈に出走したのが初めて。当時の記録をFacebookのノートに保存していたけれど、いつの間にやらFacebookのノートが終了していたのでこちらに転載してみます。

①準備計画編

昨年からAJ岡山主催のSR600の噂が飛び交っていたが、4月になっていよいよその全貌が明らかになった。事前に聞いていた通り、獲得標高は14,000m超と一つ一つの峠は低いものの、さすがAJ岡山というエキセントリックなコースである。スタート地点はJR伊予西条駅、大阪南港発のフェリーで移動すれば港からは5kmほどの距離である。SR600は平日にスタートする事が可能であること、フェリー泊で移動時間の節約ができる事から、初SR600には都合が良さそうだぞ、と走行計画もままならないうちにエントリーをしてしまった。

SR600はパーマネントのコースであることから、インターネットで検索をすれば、コースや攻略方法に関する記述は山のように見つかるが、今回は始まったばかりのコースなので、攻略のためのヒント、情報は皆無。自分で調査をするしかない。改めてコースを見ると、石鎚山、剣山と1,500m越えの峠は中盤で終了。高山地帯を走るという訳では無さそうで、終始一定のペースをキープして走る事が出来そうである。補給地点については、道中にあるコンビニは3か所のみ(うち一つは時間制限あり)と限られているが、おおむね100km毎に休憩できそうな施設があるので、100kmを6時間~7時間かけて、手持ちの補給食で走りきる事ができれば遭難する事はないだろう、というのが自分の見解である。という事で、今回のメインの補給食には羊羹をチョイス。100円ショップで購入した3000kcal分、1.2kgの羊羹を反射ベストのストレージに詰め込んで走る。その他の補給食はいざという時(足つり、極限状態)のためにマグオン4包、BCAA5包、2RUN2包パワージェル4包をトップチューブバッグに入れて、ドリンクはBCAA&クエン酸を5袋用意して、疲労対策でチビチビと飲み続ける事に。

・酷道対策

酷道として名高い439号線(ヨサク)を含む、林道の類が獲得標高以上にこのルートの難易度を上げている。タイヤは乗り心地よりグリップと耐パンクを考慮してCONTINENTAL GRANPRIX 4SEASONをチョイス。ライトは今シーズン抜群の安定感MOON METEOR STORMとLEZYNE SUPERDRIVE(旧モデル)に全てを託す。MOONは周辺光の明るさと、300ルーメンで12時間以上走れるランタイムが魅力。日暮れから朝まで常時点灯で視界を確保。一方のLEZYNEは遠方照射が効くのでダウンヒルでスポット的に使用。自分の持っている旧型についてはAMAZONで購入可能な18650がスペアバッテリーとして使用できるので、最悪MOONにトラブルがあってもこれ一本でもナイトライドに対応できる。半年ほどアップダウンや荒れた路面でのナイトライドでテストを重ねていたので、今回のナイトライドには特に不安を感じていなかった。

・異常な獲得標高

上って下ってしかないうえに、リタイアができる地点も限られている。仮にリタイアすることがあっても、自走で出発地点へ戻る必要がある。筋肉へのダメージは最小限にしなければならない。そのため、普段はロングライドでもトレーニングでも11-25Tを使用しているが、11速になってからは初めて11-28Tを導入。

走り方については、ゾーン3の下限ギリギリをキープして走る。理想的な補給は、走りながらエネルギージェルなどを少量づつ摂取して、血糖値の上下を避けるのが良いのだろうが、そこまでストイックになりきれない自分がいる。補給地点では暖かい食べ物を、可能であれば座席で食べたいものである。そうなってくると、走行中は運動強度を上げない事がポイントとなる。前述の強度であれば、①筋肉への負担は少なくなり②エネルギー源は体脂肪が中心となり血糖値への影響が少ない③補給地点でお腹っぱいになっても苦しくない、状態で走ることが可能。これを実行するためにはローギア28Tは必須である。34×28でチンタラ走ることを恥じてはいけない。今回の俺はインナーローの貴公子だ、と自分に言い聞かせる。

・宿泊、眠気対策

280km地点でのみちの駅さめうらには休憩施設が、350km-420kmあたりには山荘や温泉宿など気軽に投宿できる施設が点在している。SR600の制限時間は60時間。今回はフェリーで早朝に現地入りし、荷物をロッカーに預けて午前10時のスタート。帰りのフェリーへの乗船時間を考えると、最大で58時間を使っても良いことになる。行程と体調に合わせて日帰り入浴や宿泊など無理をせずに休憩を取る事が出来るはずである。

前日まで仕事がかなり詰めていたので、事前準備の余裕は全く無く(というか、出発前日の夜にPCでGPSデータを用意していたら寝落ちしていた)、出発の日の朝、出勤前にとりあえず必要な道具をバックパックに詰め込んで職場へ向かった。お店の営業終了後に必要な道具をバックパックからサドルバッグに入れ替えて、フェリーの乗船時間ギリギリに何とか南港へ到着。このパターンもいよいよ慣れてきたのか、幸い今回は忘れ物は無かった。ただし、むりやり詰め込んだBCAAは2袋破れてしまい、使い物にならなくてもったいないことをした。ともあれ、何とか午前10時に無事スタート地点へ到着することができた。(8時半には準備は整っていたので、9時スタートでも良かったと思う。)次にここへ帰ってくる時にはどんな感情が湧いてくるのだろうか?初のSR600に胸の高鳴りを抑えられない。

②スタート~仁淀川まで

いよいよSR600の始まり。寒風山トンネルの直前までは昨年の四国600kmと同じコース。寒風山という名前だけに、日が高いにも関らず肌寒かったので、アームウォーマー、ニーウォーマーを装着してスタート。一発目の峠である、石鎚山が今回の最高到達点。トンネルの直前で旧道を上り始めるのだが、分かれ道が解りにくくて早速オーバーランをしてしまう。キューシートを確認して、旧道の入口まで戻って、インナーローで淡々と上り始める。路面が良く持ちの気よい景色が続き、サイクリング気分が高まる。平日ではあるが、道中で2グループのサイクリストとすれ違う。気が付くと頂上が見えてきた。PC1で写真撮影をた後はウィンドブレーカー着込んでダウンヒルに備える。下りも路面は良好で、しっかりと下る事ができる。あれ?思ったよりイージーなのではないか?と気が緩む。

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PCは全て写真撮影

作戦通り上りは無理をせず34-28Tの低ギア比を活かしてシッティングで。補給は30分走って、羊羹を食べる。20分走ってBCAA&クエン酸を補給。また30分走って。。。のくり返し。下りでは面倒でも毎回ウィンドブレーカーを着て下る。必要であれば2枚重ねも辞さない覚悟。想定外だったのは、早くもようかんの味に飽きてきた事。あと1kgもあんのにどうすんだよ_| ̄|○。どうせなら、大福とモナカも併せて用意すべきだったと後悔する。

下った後は、ルートから少し逸れるが、道の駅で定食を食べてしっかり補給。M船さんも先週ここで昼食を食べていたようである。食堂のお母さんも、毎週やって来る物々しい様子のサイクリストにうんざりしている事だろう。ボトルに水を補給してもらって、売店でラスクを購入してスタート。羊羹に飽きた口にはラスクの歯ごたえが嬉しい。この後は四国カルストへ続く上り。昨年の四国600kmでは暴風と霧で苦しめられた。カルストの下りは日が落ちている時間帯であろうから、できる限り体温を奪われることなくクリアしたい。PC2を過ぎると、見慣れた景色に出てくるが、PC3の姫鶴平までくると、今回も濃い霧が。夕暮れの四国カルストの眺望を楽しみにしていたが、残念ながら今回もカルストは霧の中。次のPCは下りの最中に現れる滝である。見逃さないように慎重に下る。カルストからの下りは完全に真っ暗闇。途中でルートを間違えてしまい、わき道にそれて荒れた道を2こkmほど無駄に上ったり下りたり。そして、下りの途中にあるPCを見つけて写真撮影。長沢の滝というらしい。なんでもハート型の岩穴がり、恋のパワースポットとか。夜更けにんなところでこ一人で佇んでいると乾いた笑いしか出てこない。

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PC4恋のパワースポット?

ここを過ぎた後は、およそ200kmほどの地点にある、仁淀川町のローソンで夜食を摂る事ができる。時折野生動物が蠢く音が聞こえる。民家はおろか、対向車も現れない。見知らぬ山中に一人きりで心細くなるが、次の補給で何を食べようかと考えて、頭の中を食べ物で一杯にして不安を紛らわせる。到着したコンビニでは、迷う事無くナポリタンとエビマヨを手に取る。証明写真機のステップに腰を下ろして一心不乱にパスタを食べていると、不意に声をかけられる。顔を上げると目の前にはパトカーと警察官が。職務質問でDNFという最悪の結末が頭をよぎる。「どこから来たの?」と聞かれても、答えようがない。そしてどこに行くかもイマイチわかっていない。「大丈夫っす、大丈夫っす、えへへ」「この先街灯もないし危ないよー」「スゴイ明るいライトがあるんで、大丈夫っす。」と適当に?ごまかして足早にコンビニを後にする。どうみても不審者です。コンビニのガラスにはDVDのPOPが貼られている「君の名は」悪い冗談にしか聞こえない。ともあれ、数時間ぶりにまともに会話ができたので、ほっと一息をつくことができた。ここからは噂に聞く酷道439号線の始まりである。いったい何が待ち受けているのか。

③439との闘い~剣山まで

今回のSRの難易度を上げている要素のひとつが酷道である。439号線の酷さは耳にしていたものの、所詮は国道と高を括っていたが、予想以上の酷さ。街灯が無くなって、いきなり砂利道が現れる。あれ、工事中の標識てありましたっけ?というレベルの荒れた路面。真夜中にこれは辛い。そして、野生動物の存在。とにかく野生動物の飛び出しに注意が必要である。ガードレールの端で待機している狸と何度目が合ったかしれない。大声を出して威嚇するが、何度か衝突を避けるために急ブレーキで制動を行う必要があった。また、道路の穴やグレーチングの隙間、道路を横切る細い溝はこれでもかという程に私を苦しめる。そのまま突っ込めばパンクは避けられない、ホイールが故障して走行不可能になる可能性もある。携帯電話はもちろん圏外である。平日の単独での挑戦であり、トラブルに見舞われた場合、リタイアどころか、遭難の憂き目にあうことになるだろう。バニーホップで溝を飛び越えたり、狸に向かって吠えたり。前半の観光気分もどこへやら。これはサイクリングではない、障害物競走だ。緊張感で睡魔も感じないまま、何処ともしれない山中を彷徨う1回目のナイトライド。1週間前のM船さんと違い、穏やかな天気だったのがせめてもの救いである。前進するにはペダルを回すしかない。ペダルを回し続ければ、早明浦は近づいてくる。(なお、狸以外にも、巨大なイノシシの死体とそれに群がる野犬と思しき動物や、絶滅危惧種のカモシカなどにも遭遇している。)

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真夜中に通過したトンネル。ここはどこだろう?携帯電話は圏外。キューシートとGPSだけが頼り。

夜明け近くになって、道の駅土佐さめうらに到着。ここではコインシャワーと地蔵庵という休憩施設があるらしい。明け方は気温もそうであるが、体温も低下しやすい時間帯。午前5時頃になると、ウィンドブレーカーを2枚着込んでも震えが止まらなくなる。活動を停止するようにという、自律神経からの警告である。這う這うの体で到着した道の駅であったが、コインシャワー、休憩施設ともに利用時間外という悲しい事実。完全に事前のリサーチ不足である。8時にはここを出発するつもりなので、リフレッシュはあきらめて、極力大きなベンチを探して、レスキューシートにくるまって体温の低下を防ぎつつ仮眠をとることに。寝返りでもうとうものならすぐに落下してしまいそうなスペースしかなかったが、2時間ほどは気を失ったように眠る事ができた。朝日が眩しく感じられる頃、道の駅の職員さんらしき方に挨拶をしつつ、歯を磨いて出発。すでに日が高いが、体温は低いまま。ここで2つ目のコンビニ、早明浦のローソン。こちらは6時から22時までの営業、予定とおりここで朝食をとることに。ブルべ中の仮眠後の定番は担々麺とおにぎり。食欲に任せて餃子にプリンを購入。ここでようやく体調も復活。ここまでは予定していたペースより30分ほど早く動けている。この調子で行けば50時間を切るペースでゴールして、銭湯でゆっくり休むことができるだろう。

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束の間の休憩。600km以上のブルべに歯ブラシは欠かせない。

次のPCは京柱峠。集落の中を抜けて峠に着くとうどんが食べられるとか?SR600でなければ、写真撮影をしたり、ゆっくりと景色を楽しみたいところであるが、心を無にして心拍数がゾーン3を越えないように淡々と走る。本来ここのうどん屋さんで休憩を取る予定ではなかったが、時間に余裕があるのと、落ち着いて食事が取れるタイミングを逃したくなかったので、うどんを食べる事に。羊羹に飽き飽きしていたので、猪肉うどんと出汁の味が身体と心に染み渡る。幸いここでは電波が通じたので、タイムラインをチェックするとAJ岡山のY口さんなど、関係のある方からの書き込みが。今回は独単でのチャレンジであるが、5月から数名は完走しているようであるし、今後もこの道を様々なランドヌール、ランドヌーズ達が駆け抜けると思うと、胸が熱くなる。京柱峠からの下りは道が荒れているようだ。明るいからと言って油断しないで行こう。

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猪肉いりのうどんがおいしかった

警告とおり、京柱峠からの下りは砂利道あり、凸凹ありのラフライド。しかも、先日までの雨のせいか、土砂崩れもあったようで油断できない。慎重な走りを余儀なくされ、ペースダウン。剣山までは補給もままならないので、夕方までに一気に温泉宿まで行きたいところであるが、逸る気持ちを抑える。

ふと顔を上げると、道端にいる無数の案山子が目に入る。そうだ、439号線といえば案山子が有名だったなと思い出す。写真でも撮ろうかと止まったところで、ポツポツと冷たいものが頬を打つ。次第に雨脚が強くなってきたので、近くの集会所を拝借して雨宿りをすることに。雨雲レーダーによると雨雲が通り過ぎるのは18時頃。現在時刻は15時どうしたものか。ひとまず、ベンチに腰掛けて休みつつ、雨の中を強行突破するか、止むまでまつか、その後の休憩の予定、ゴール時間など様々な考えが頭を巡る。16時半頃になって、ようやく小降りになってきたので、思い切って出発することに。案山子だらけの集落を暗闇の中で走るのは御免だ。17時過ぎには剣山の峠に到着できたが、そこで急に大雨が降りだした。幸い峠にある山荘があったので、こんばんはここで投宿することに。ブルべでは様々なケースを想定して万全の準備、計画をするが、予定通りに事が進むことはあまりない。その時々で起こった事にどうやって対応するか、停止することもあれば、体力に任せて走り続けることもあるし、リタイアする事だって時には大事、判断力が問われるところ。今回の投宿は正解だったのだろうか?いずれにせよ、これで439号線は終了である。

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案山子に見つめられながら雨宿り。このストップで計画は完全に水の泡。温泉宿も泣く泣くスルー。

④真夜中の幻夢~塩塚高原まで

剣山の峠道にある民宿。日が暮れかかる頃に到着するや否や、一旦は止んだと思った雨が本降りに。軒下に駆け込んで様子を見るも一向に止む気配はなし。予約は取っていなかったが、おかみさんにお願いしたところ、快く宿泊(休憩)を受け入れてもらえた。ここから先は1,000m程を一気に下ることになる。少しでも路面が乾いている方がリスクは少ないので、22時過ぎまではゆっくりと休むことにする。22時に出発することを告げると「よるの10時ですか?」「ええ、大丈夫っす。明日の予定があるので。」「真っ暗ですよ?」「ライトはすごく明るいんで、大丈夫っす、大丈夫っす、えへへ」というやり取りのあと、勝手口を開錠していただける事になった。どう見ても不審者(以下略)であるが、ありがたいことである。さて、ブルべ中に宿泊するのは初めての経験。何よりも感動したのは、お風呂で2日分の汗を流した後に湯船に浸かった瞬間。地獄から天国にというのはこの事か。どんな名湯にも勝る心地よさ。そして、お風呂上りの暖かいご飯。一瞬、リタイアが頭をよぎる。睡眠時間は3時間半の予定。仮眠か熟睡か難しいところである。充電や着替えなど再スタートの準備を一通り終えて、布団に入るも、ブルべ中の興奮でなかなか眠りにつけず、布団に入って30分ほどぼーっとして、少し眠ってまたぼーっとしてをくり返す。結局、これ以上休憩する事に意味がないと考え、21時半頃には暖かい布団に別れを告げて出発の準備を整える。

真夜中のダウンヒル。今回のライドで一番の寒さを経験するのは必至。最大限の準備を行う。ホットクリームを全身に塗る、脹脛、脇の下、首元は特に入念に。靴下はDEFEETのトレイル用の厚手のソックス。ウィンドブレーカーは薄手と防水を重ね着。ネックウォーマーも追加してフルアーマー状態に。2回目のナイトライド、野生動物に注意しつつ、慎重にかつ大胆に下る。今回のライトのチョイスはMOONのMETEOR STORMとLEZYNE SUPERDRIVE。MOONの周辺光の多さに安心感を覚える。ダウンヒルではスポットが強いLEZYNEのライトで遠方照射を行う。下りで砂利道やU字溝なども早めに発見する事ができたので、今回の2回のナイトライドを通して本当に危険という状況には陥らずに済んだ。

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真っ暗な山中で看板を探してウロウロする。誰もいないが、人と遭遇したらそれはそれで面倒である。

下りきった後は、集落に出る→脇道で山の中へ→集落に出るのくり返し。雨上がりであるため、路上には砂や堆積物がたくさん。また、いよいよ疲労の蓄積からか、初日には感じなかった眠気が襲ってくる。ガードレールなんて気の利いた物はないので、登坂では転落しないように道の真ん中をフラフラと走る。眠気対策に一人でしりとりを行ってみるものの、毎回めだか→かもめ→めだか→かもめ→以下延々ループ。で続かない。そうこうしていると、目の前をウサギがピョンピョンと跳ねている。5mほど先で制止するウサギ。追いつくとまたピョンピョンと。このやり取りを1kmほど繰り返す。自分を先導してくれていたのだろうか?幻でも見ているのかと思ったが今となっては確かめる術はない。この時点で残り200km。峠の標高もおとなしくなるので、快走するはずだったし、実際に難しいコースではなかったように思うが、ここまでの疲労が行く手を阻む。山中から街の灯りが見えると、そこまで下りたくなる衝動に駆られてミスコースを連発するが、GPSを見て気力を振り絞ってペダルを回す。次のエリアは祖谷の渓谷。昨年走った事があるので、そこまで行けば精神的にも一息つくことができるだろう。

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ようやく人里の近くまで出る事ができた。もう少しで夜が明ける。ゴールを迎える日がどんな1日になるか、この時点では知る由もない。

そうこうしているうちに、午前5時を過ぎ夜が明けた。通常であればナイトライドの終了を喜ぶべきであるが。前日同様に強烈な寒気に襲われ、震えが止まらなくなる。予定では昨晩立ち寄るはずであった、松尾川温泉に立ち寄るが、当然ながらオープン前。ひとまず自販機でホットレモンを購入してベンチで横になると20分ほど気を失っていたようであるが、スタッフの方がオープンの準備に車で乗り付けた。見るからに怪しい風体の自分は長居すべきでないと判断し、逃げるようにその場を去る。何としても休憩を取りたいので、ルート上にある祖谷の展望台を目指す事に。しかし、この付近はブラインドコーナーが多いので焦りは禁物である。展望台に到着すると、緊急用に用意していた使い捨てカイロを腰とお腹に貼り付けてレスキューシートにくるまってベンチで横たわる。ようやく体の震えが収まりだしたので、このまま仮眠をとる事にした。1時間ほどで目が覚めた頃には軽く汗ばむほど。空腹感を感じたので、民宿で購入したドライトマトに天然塩をふりかけたものと、ビスケットを食べる。トマトの塩気が感じられない。エネルギーだけでなく、水分も不足しているようであるが、大歩危のコンビニまでは補給は期待できない。事前に用意した羊羹はサドルバッグの奥に押し込めて、取り出す気も起きない。非常時のエネルギージェルに手を出すか迷ったが、この先は細かいアップダウンはあるものの、それほどダメージは無いと判断して気力で大歩危まで向かうことに。土地勘があるので、この辺に来てようやく余裕が出てきた。無事に到着したコンビニではサンドウィッチ、おにぎり、パスタ、ヨーグルト、おにぎりせんべい、ビスケット、水を2L購入。おにぎりせんべいの塩味が心地よい。こんな痩せぎすの男が一人でペロリと食べるとは思わなかったのだろう。店員さんはお手拭きを3つ袋に入れてくれた。(とりあえず鼻水でも吹けよという気遣いかも)己の身だしなみよりも、昨晩のライドでリム、ブレーキにゴミが多数付着していたので、遠慮なくお手拭で清掃を行う。

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半年ぶりの大歩危。身体の疲れ具合に反して景色は綺麗に見える。

ここまで来たらもう一息。残りは塩塚高原と翠波高原。高原いうとくらいだから、さぞかし気持ちの良いサイクリングが楽しめるだろう。

という安易な考えは、塩塚高原へ上り始めた段階で打ち砕かれる。勾配だけでいうとこの辺りがもっともキツかったのではないだろうか。ここまで温存していたダンシングによるクライムが続く。ここでも登坂の途中に民家や神社が現れる。恐るべし四国の山村。ともあれ、何とか塩塚高原もクリアー。主催者情報によると、「霧の森大福」という名物があり、年間生産量が決まっており、恐ろしい勢いで完売するらしい。ほとんどの参加者が心の中で「それどころじゃねぇ!」と叫んでいる声が聞こえる。ぜひ賞味したいところであるが、もちろんそんな余裕は時間的にも、精神的にも皆無。泣く泣く高原を後にする。残る峠は残すところあと2つ。

⑤最後の難関~ゴールまで

塩塚高原を後にして、次のPCがある翠波高原を目指す。当初想定していたゴール時間を過ぎて陽射しが強くなってきた。気温は20度を越え、想定していなかった暑さとの戦いの始まり。もはや今後の予定を考える余裕もない。道は林道というか、本当に何もない狭い道を登り続ける。ふと足元を見るとマムシが目を光らせている。ここで足を着いたらゲームオーバーだ。さすがに最終ステージ?になるとここまで難易度が上がるようだ。頭上にはカラスが旋回している。「待ってくれ、まだ死んでないぞ」せめてもの救いは四国中央市の港町を見下ろせる絶好の景観である。「最後なんやから、もうちょっとまともな道を走らせてぇな」と心の中でAJ岡山に懇願するが、エントリーした自分が悪い。諦めてここでも淡々とペダルを回すことに集中する。ようやく辿り着いたPC15、翠波高原。ここを過ぎれば別子ダムを越えたら伊予西条へ下るだけである。

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厳しいクライムを乗り越えた後の清清しい瀬戸内海の風景

お昼を過ぎて、いよいよ暑さが身体にこたえるように。高原を下った先の自販機でジュースを飲んでいると、たまたま通りすがったオジサンがサイクリストでもあるようで、しばらく話しこんでしまった。ここでボトルの飲料水も購入するはずであったが、会話に気を取られて肝心な買い物を忘れてしまった。この後の5月とは思えない暑さの中でボトルは空っぽという状態に気付いたのは、富郷ダムに着いてからの事。管理事務所に行けば自販機でもあるだろと、訪問してみるが、ダムカードは入手できたものの、肝心の飲み物は手に入らず。已む無くトイレの水をボトルに入れて走る事に。(結果的には、10km先に自販機があったため、この水にてをつけずに済んだ)ここから先はPCを挟んで、別子ダム、大永山とのぼりが続く。別子ダムでは道路工事による車両通行止めに合い、ここまできてリタイアかと天を仰いだが、作業員の方に声をかけると、丁寧に誘導してくださり事なきをえた。先ほどのオジサンによると、大永山の峠付近は厳しい上りらしいが、ここまでくると最早感覚が麻痺しているのか、あっという間に最後の峠を越えてしまう。

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ここが最後のPC。この後は30kmほど登り無しの区間が続く。

ここから先はゴールまで30kmほどは登りなし。大永山からは道も綺麗で豪快なダウンヒルが楽しめた。市街地に出てからは、幹線道路の車の多さと信号、空腹感に苦しめられたものの、無事に伊予西条駅に到着。無事にゴールすることができた。 初のSR600完走。充実感はあるが、それよりも、一刻も早くお腹一杯になって、お風呂に入って、普通の人間の状態に戻りたい。港へは直行せずに、最寄のすき家でネギ玉豚丼を注文する。オレンジフェリーを利用する際は乗船前にここで夕食を食べるのが恒例になっている。フェリーに乗船して大浴場で一番風呂を浴びて、ようやく達成感に浸ることができた。

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疲れた後はねぎたま豚丼。疲れた身体でも箸が進む。

今回はクエン酸とアミノ酸を常時補給しながら走ったこともあり、疲労感は少なかったのが意外だった。クエン酸で口の中が荒れてしまったのは想定外だったけれど、次回以後のSR600でもこのスタイルで走れば完走はできそうな自信がついた。失敗したのは、羊羹である。安くて高カロリーの代表であるが、早い段階で甘ったるさに耐えられなくなり、結局800gの羊羹と共に四国の峠を回る羽目になってしまった。代わって、おにぎりせんべいとビスケットの素朴な味の安定感の素晴らしさといったら。今後は羊羹に次いで、補給食は乾き物最強伝説を提唱したい。終了直後は次のSR600の事なんて考えられなかったが、振り返ってみると、ここはこうした方が良かったとか、もう少しいいタイムでゴールできたのに、など次回への意欲が湧いてくる。

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