#31 製造業のすごさ

今、私は地方に住んで、製造業に携わっています。

技術営業のような仕事をしているので、いろんな会社の工場を訪問して、あっちこっち駆け回っている毎日です。大手メーカーの研究拠点みたいなのもあれば、家族で経営している小さな町工場みたいなお客さんもいます。

高度経済成長期の成功体験から抜け出しきれず、昨今のIT社会においては大幅に出遅れていると揶揄されることも多い日本ですが、この「製造業を中心とした社会システム」はやっぱり凄かったんだなぁと、今でもその片鱗を感じます。

まず、製造業において必須なのは「工場」です。そして工場を建てるには広い土地が必要となります。したがって、必然的に田舎が選ばれます。するとどうなるかというと、工場で働く人たちがみんな田舎に引っ越してくるんですね。これによって、「都会の一極集中」という状態が緩和されます。今でも、大きめの企業に務める人たちは地方への転勤に苦しんでいるかと思いますが、日本全体としてみると、ある意味都合がいいんですよね。強制的に都心から外に出すことで、過度な一極集中による様々ロスを減らすことができます。これがなかったら都内の満員電車はもう爆発してます。


そして、第二に、工場を中心として、地方にいろんな産業が生まれていくのもメリットです。工場で働く人たちが生活するので、ご飯屋さんや日用品店が生まれます。工場に訪ねてくる人たちが泊まるホテルもできます。学校もできます。

もう少しマクロな視点でみても、工場を建てるには莫大なお金が必要なので、資金の借り入れをするための銀行ができます。そして、工場に火災が発生したり、事故が起きたときのために保険会社も生まれます。実際に工場を設計して建物を作っていく建設会社も集まってきますね。こうしていろんな雇用が生まれるのです。

これだけの業種、人が集まると、そこでもう経済が回っていきます。工場で働いて稼いだお金でご飯を食べ、ご飯屋の店主はそのお金を銀行に預け、銀行員はそのお金を運用した利子から給料をもらって、工場で作られた家電を買います。作る人も買う人もわかっているので、みんな安心して働けます。真面目に働いていればクビにはなりようがないので、安心してお金が使えます。こうした安心感は大きな力になります。困難な仕事もみんなで助け合って乗り越えていきます。

このような地方のまとまりを生かして、世界に通用する高品質な家電や自動車をこつこつと生み出していくのがかつての日本の勝ちパターンでした。誰もがそれぞれの地域で家庭をもち、安心して暮らし、かつ企業としてみても世界の中で存在感を示せるというとんでもなく理想的な状態です。

今でさえ、工場に勤めているおっちゃんたちはなんだかんだ幸せそうに働いています。「この仕事が終わったら週末は子どもと釣りにいくんだよね〜」と油まみれの顔で楽しそうに話してくれます。

かつての成功体験から抜け出せていない、効率化が進められていない、古い労働体系から仕事へのストレスを抱えている人が増えてる、なんて議論がニュースやらwebメディアやらで毎日繰り広げられていますが、あのおっちゃんの話をきいているとなんだか別世界のようにも感じます。

そう思うと、やっぱり闇雲に先進的な文化を奨励したり、アメリカがすでに成し遂げてしてしまったシリコンバレーの成功を後追いしてちゃだめだよなぁと思います。

現代の情報社会においては、確かにかつての製造業的な働き方はブラックだと言われたり、伸び代がなかったり、停滞していると言われるのは間違い無いとは思いますが、だからと言ってそれを全て否定するのは違うよなぁと思います。

小さなコミュニティで、安心感をもって働き、それでいて広い世界に新しい価値を届けにいくという生き方自体は、日本人の国民性的にも非常によくマッチしていると思うからです。

今はインターネットがあるので、かつてのように、同じ「土地」に住んでいなくたって、いろんな人たちと出会えます。自分の思いをSNSとかで発信していって、そこに共感してくれた人が立ち止まってくれて、一緒に作品を作りはじめることもあるかもしれません。それを見た別の人が、その作品にメロディをつけて歌にしてくれるかもしれません。そんな作品が世界に飛び出していったら、それはそれは面白いでしょう。

これから私たち日本人が目指すべき姿としては、ひとりひとりが何かを生み出す「工場」のような存在になることなのかもしれませんね。

「エンジン」を生み出せる人と、「プロペラ」を生み出せる人同士が出会ったら、きっと空も飛べるはずです。

そんな未来を信じて、手を動かすことだけはやめないようにしないとね。




今日も読んでくれてありがとうございます。
工場に辿り着くまでの、のどかな田舎道を運転するのが好きなんだなぁ。

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