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ミッドナイト・カミシバイ

週刊台本 #52  コント

(舞台中央に紙芝居、左右に男が立っている)

A:紙芝居屋だよ
B:紙芝居屋だよ
A:寄ってらっしゃいみてらっしゃい
B:紙芝居屋だよ
A:他の遊びの方が絶対楽しい
B:そんなの嘘ばっかり
A:大人たちは息を飲む
B:子供たちは釘付け
A:紙芝居なんて古臭い
B:そんな声には耳を貸さないで
A:私たち、おもしろい紙芝居屋ですよ

(A、中央へ行きフリップをめくりながら紙芝居を読み上げる)
i)りんご太郎
ii)昔々あるところに、りんご太郎がいました
iii)りんご太郎が歩いているとニワトリに会いました
ニワトリは言いました「鶏が先なの?卵が先なの?」
りんご太郎は答えました「『鶏が先か、卵が先か』という言い方をしてる時点で、鶏が先なのでは」
ニワトリは言いました「元も子もないね」
iv)りんご太郎とニワトリは二人で歩いて行きました
v)りんご太郎はシオマネキに会いました
「君たち楽しそうだね、僕も仲間に入れてよ」
りんご太郎はシンメトリーが好きだったので、ハサミが左右非対称のシオマネキを無視しました
「なんで無視するんだい、人間だって、体の中身は左右非対称じゃないか」
りんご太郎はシンメトリーが好きだったので、無視しました
vi)シオマネキは自主的についていくことにしました
vii)りんご太郎はディーラーを名乗る男に会いました
りんご太郎は聞きました
「ディーラーはカジノを仕切ってるの?それとも中古車を売ってるの?」
ディーラーは答えました「どちらでもないよ」
りんご太郎はディーラーを仲間にしました
viii)りんご太郎たちは鬼退治に出かけました
ix)りんご太郎はワンショルダーの服を着ている青鬼だけを重点的に攻撃しました
x)シオマネキは言いました「無事に鬼を退治できたね、りんご太郎」
xi)無視しました
xii)めでたしめでたし

(A、紙芝居を畳む)
A:…誰も来ないねえ
B:誰も来ないよ。……私思うんですよね、時間を逆転して見ることができたらいいなあって。例えば1日を夜から昼、昼から朝っていう順番に。結末が知れたら、対処しようがあるじゃないですか
A:そうかなあ。だって見るだけなんでしょ?そう簡単に自分がどうするかなんて変えられないよ
B:でも、見たからこそ、何か変わることだってあるんじゃないの?
A:何に後悔してるの?
B:そりゃ、…紙芝居屋を始めたことでしょ
A:向いてない?
B:向いてないかもなあ…
A:ほら、お前の番だぞ

(B、紙芝居を立てると順番が逆になっている)
B:え?これ、逆になってるよ
A:ああ…またやっちゃった
B:裏返しておかないと
A:もういいよ、そのままやりな
B:え?
A:そのままでも、なんとかなるでしょ
B:え?そのまま?やるんですか?
A:時間を逆転してみたら、何かすごいことが起こるかもよ

(B、紙芝居を読む)
xii)めでたしめでたし
xi)昔々、……「めでたしめでたし」という団体がいました
x)そのメンバーであるカニは親方の背中に…ゴミがついているのを見つけました
ix)えー、親方は鬼を犯人だと断定しました
viii)気が済んだ、…めでたしめでたしは歩きました
vii)…えー…ジェントルマンに親方は聞きました「ギャンブルをやめれば車が手に入るのに」
vi)ジェントルマンは帰りました
v)カニは親方の背中に再びゴミがついているのを見つけました
iv)カニを見捨てました
iii)ニワトリは。えー、親子丼を作ろうとしました
ii)ひとりになってしまったこいつこそは
i)りんご太郎でした

B:全然できないよ!
A:そううまくはいかないもんだな
B:はあ、もう紙芝居屋やめたい
A:何言ってるんだ……今日始めたばっかりだろ!
B:そうだよな。今朝会社を辞めたばっかりだもんな……あんまり衝動で始めるものじゃないのかな、紙芝居屋って
A:うん。まあ、とりあえず、見てろ
B:え?逆紙芝居できるの?

(A、紙芝居を読む)
xii)めでたしめでたし
xi)りんご太郎はシオマネキを無視しました
x)何を無視したかというと、それは!シオマネキからのねぎらいの言葉でした
ix)何を労ったかというと、それは!鬼を退治したことでした
viii)鬼を退治したということは!そこへいく道中ももちろんあり!

B:ちょっと待って
A:なに?
B:え?ずるくね?
A:ずるくねえよ
B:強引じゃね?
A:強引な正解もあるよ
B:えー…、それありなのかよ…

(A、紙芝居を畳む)
A:誰も来ないねえ
B:どうして誰も来ないんだろうねえ
A:真夜中だからかな?
B:真夜中だからかなあ
A:まあ1日目はこんなもんだよ。どんな偉大な業績にも1日目は存在するんだ
B:そんなもんかな
A:今日は終わりにしよう。紙芝居でわかっただろ。逆に読めても、物語の結末は変えられないんだよ
B:そんなもんかなあ
A:まあ、少しのきっかけで結末が良くなることだってあるんだから
B:うーん…
A:紙芝居屋、明日も1日がんばろう
B:…紙芝居のストーリーがおもしろくないっていう…
A:今日は終わりにしよう

A:私たち、おもしろい紙芝居屋ですよ
B:そんな声には耳を貸さないで
A:紙芝居なんて古臭い
B:子供たちは釘付け
A:大人たちは息を飲む
B:そんなの嘘ばっかり
A:他の遊びの方が絶対楽しい
B:紙芝居屋だよ
A:寄ってらっしゃいみてらっしゃい
B:紙芝居屋だよ
A:紙芝居屋だよ

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