使い捨てカメラ

　週刊台本 #48

（友人AとBが話をしている。Ａは使い捨てカメラを手に持っている）

Ｂ：何それ？
Ａ：この間、一人で旅行行ってきてさ
Ｂ：へえ
Ａ：で、使い捨てカメラで写真撮ったら思い出に残るかなって思って
Ｂ：へえ、いいね。レトロなの流行ってるしね
Ａ：そうそう。今はなんでもスマホだからさ、こういう不便なのが逆にいいんだよね〜
Ｂ：現像しないの？
Ａ：いや、それがさ、まだフイルムが何枚か残ってんだよね
Ｂ：へえ
Ａ：全部使わないと残りのフイルムが無駄になっちゃうからさ、もったいないしなんか撮ろうと思って
Ｂ：ああ、いいんじゃない？
Ａ：ねえ、なんか持ってない？
Ｂ：え？
Ａ：なんか撮られたいもの持ってないの？
Ｂ：「撮られたいもの」って…
Ａ：いや、ほんとなんでもいいからさ
Ｂ：えー、そんな急に言われてもないよー、そんな写真映えしそうなやつ
Ａ：いいいい。ほんとそういうんじゃなくていいから。持ってるやつで、なんかはあるでしょ
Ｂ：ええ〜…
（鞄の中を探す）
（鞄の中を探してるところを写真に撮る）
Ｂ：撮った？今？
Ａ：…うん
Ｂ：なんで今撮んだよ。一番今じゃなかっただろ
Ａ：そう？
Ｂ：すごい作業中だったよ。鞄の中探してこーなってる俺
（鞄の中を探す動きを再現する）
（写真に撮る）
Ｂ：なんでまた撮ったんだよ
Ａ：よかったよかった
Ｂ：どこがよかったんだよ
Ａ：いや、ほんとなんでもいいんだよ
Ｂ：なんでも良すぎるだろ
Ａ：ほんとほんと。ほんとなんでもいいから
（床の写真を撮る）
Ｂ：床撮っちゃったよ
Ａ：いや、それぐらいなんでもいいのよ
Ｂ：だったらなんも撮んないほうがいいくらいだよ。床撮るんだったら
Ａ：でも使い切らないとさ
Ｂ：せっかくなんだからなんかいいことに使った方がいいよ
Ａ：ああ〜そっか。なんかカメラでできる遊びとかないかな？
Ｂ：遊び？
Ａ：……あ、じゃあさ、すごく早く動いて、ブレずに取れるかやってみようよ
Ｂ：なにそれ？
Ａ：だからお前がこう、素早く動いて、撮った写真がブレてたらお前の勝ち、ちゃんと撮れたら俺の勝ち
Ｂ：え〜、なんだよそれ
Ａ：じゃあ行くよ
Ｂ：え〜…
Ａ：いきまーす
（上半身を激しく動かす）
（カメラを構えて何もしない）
Ｂ：……
Ａ：……
（疲れてくる）
Ｂ：……撮れよ！
Ａ：ああ、ごめんごめん
Ｂ：はあ…、はあ…それはずるじゃん、ねえ…そういうのは無しでしょ…
（シャッターを切る）
Ｂ：なんで今撮るんだよ！ルールに対して詰め寄ってる顔いらないだろ
Ａ：シャッターチャンスかと思って
Ｂ：全然シャッターチャンスじゃないよ。…あとなんでずーっとフラッシュ焚いてんのよ
Ａ：え？だめ？
Ｂ：いや、だめじゃないけど
Ａ：よし、じゃあ、攻守交代して。今度は動くから
Ｂ：えー？もういいよやらなくて
Ａ：やろうやろう
Ｂ：えー、まあ、別にいいけど…。じゃあ撮るよ
（上半身を激しく動かす）
（シャッターを切る）
Ｂ：はい
Ａ：どう？どう？ブレてた？ブレてた？
Ｂ：どうって…使い捨てカメラだから現像しないとわからないよ
Ａ：え！？
Ｂ：そんなびっくりすることじゃないよ。わかってたでしょ
Ａ：不便で使えないな
Ｂ：さっき「不便なのがいい」って言ってたじゃねえかよ
Ａ：ええ〜、そうか…。お前も勝敗気になるだろうから現像したら今の写真だけ送ってやるよ
Ｂ：いいよ。恐らくブレてるお前の写真いらねえよ
Ａ：書留で送っとくから
Ｂ：なんでめんどくさいやつで送るんだよ。わざわざ写真一枚で受け取りサインとかめんどくさい事しなくていいだろ
Ａ：そうなの？
Ｂ：そうだよ、書留ってだいたい重要書類とかが中に…
（シャッターを切る）
Ｂ：なんで書留の話してるときに撮るんだよ
Ａ：書留の話してるときの顔どうしても撮りたくて…
Ｂ：そんな時ねえよ。書留の話してる顔がねえんだから
（シャッターを切る）
Ｂ：結構フィルム残ってんな！