野営

週刊台本 #51 　コント

（友人A、Bが真っ暗な中でキャンプを行っている）

（照明を完全に落とす）
Ｂ：ついた？
Ａ：……
Ｂ：火、ついた？
Ａ：……わかるだろ
Ｂ：え？
Ａ：ついたらわかるだろって。今ついてるか？
Ｂ：ついてない
Ａ：わかるよなあ
Ｂ：いや「わかるよなあ」じゃなくて。いつになったらつくんだよ
Ａ：待ってろ、今つくから。あんまり急かすな
Ｂ：そら急かすよ、何時間経ったと思ってんだよ。もう真っ暗なんだから。真っ暗だよ、真っ暗。何にも見えないよ
Ａ：ちょっと、あんまり責めないで
Ｂ：お前が呼び出したんだろ〜？そんなキャンプって急にやるもんじゃねえだろ。で、お前が言ったんだぞ？「全部やる」って。テントも立てて、料理も作って、火も起こして、ぜんぶやるって。…一個もできてないじゃん。一個もできてないまま真っ暗じゃん
Ａ：あんまり真っ暗とか言わないで
Ｂ：真っ暗だよ、これ誰がどう見ても真っ暗だよ。夜だから、どう見ても
Ａ：これまだ夜じゃないから
Ｂ：夜だよ
Ａ：ギリ夕方だから
Ｂ：夜だよ
Ａ：ギリ夕方だから
Ｂ：バッチリ夜だよ
Ａ：まだ夕方だよ
Ｂ：認めたくないのはわかるけど、グラデーションでなるから気付いてねえんだよ、夜になってくのを
Ａ：あれだろ？例えるなら……、密室で練炭を焚いたときに、ガスが目に見えないから、一酸化炭素中毒になってるのに気づかないのと一緒だろ？
Ｂ：……なんちゅうもんで例えてんだよ！真っ暗で無防備な山の中でする例えじゃねえだろ
Ａ：もうー
Ｂ：なんでちょっと怒ってんだよ
Ａ：お前が集合時間に遅れるからこうなるんだろ
Ｂ：そんな急に呼び出されたんだから遅れたってしょうがないだろ。お前の作業が遅いんだよ。どう考えても間に合わないだろうなと思ったんだよ
Ａ：思ったんだったらその時言えよ
Ｂ：お前の時間配分がおかしいんだよ
Ａ：わっ！
Ｂ：何？
Ａ：なんかある
Ｂ：どうした？
Ａ：なんか触ってる。…え？なにこれ
Ｂ：どうした？
Ａ：え？なにこれ？
Ｂ：「なにこれ」って言われてもわかんないよ
Ａ：なんかこの辺にあるんだよ
Ｂ：自分の置いた道具じゃなくて？
Ａ：違う違う、え？なにこれ、すごい気持ち悪い
Ｂ：え？「自然の中はなんでしょう？」やってる？
Ａ：なんか手が濡れてる気がするよ
Ｂ：なんだよ、そんな変なもんあるわけないだろ
Ａ：なんか手が濡れてる気がするよ！？
Ｂ：深追いするな！
Ａ：血かも！血みたいなにおいするかも！
Ｂ：深追いするな！気にするな気にするな
Ａ：ああ〜…、もう…、料理もやんなきゃいけないし…、テントも完成させなきゃいけないし…
Ｂ：いいからとりあえず早く火をつけろよ
Ａ：…もおーっ。マルチタスクダメなんだよ
Ｂ：わかるけどあんまり慌てんな
Ａ：えー？どうしよどうしよ
Ｂ：とりあえず火に集中しろって
Ａ：料理も結構進んできたから料理の準備の続きしようかな
Ｂ：慌てるな、絶対先に火だけをやれ
Ａ：ああ、憔悴してきた
Ｂ：あんまり自分で言わないよ。「憔悴してきた」って。すごい客観的に見れてることになっちゃうから
Ａ：え？どうしよ、……先トランプやる？
Ｂ：やんねえよ、火なかったらなんのカードか見えねえだろ。これ以上タスク増やすなよ
Ａ：手伝ってよ〜
Ｂ：「手伝ってよ」って、俺はお前に言われた通りお前がテント建ててる途中で持っててって言われた地面に埋めた鉄の棒2本を必死で持ってんだから
Ａ：そうだ、その最後の部品もないんだ。最後の部品が見つからないとお前にずっとそこを持っててもらわないといけないから…えーっと…
Ｂ：とりあえず、俺の目の前にはテントができてるのね？
Ａ：テントはほぼできてる。ほぼできてると思って
Ｂ：見えないけどね
Ａ：見えないけどね
Ｂ：テントはいいから、早く火つけてよ
Ａ：ちょっと、もうちょっとだから
Ｂ：もういいよ、火はつけるとして、とりあえずライトつけようよ
Ａ：ダメ！
Ｂ：なんでだよ
Ａ：ライトつけたら夜になっちゃうから！
Ｂ：は？
Ａ：ライトつけたら夜になっちゃうから！
Ｂ：だからもう夜だよ
Ａ：ライトつけたら夜になっちゃうからあ〜！
Ｂ：どこでプライド発揮してんだよ
Ａ：えー、つける？
Ｂ：つけるよ。もうこの状況はどちらかというとキャンプって言うより遭難に近いからな
Ａ：えーっ……荷物どこ？
Ｂ：おいー。荷物だけは見失うなよ
Ａ：……
Ｂ：どうした？
Ａ：……
Ｂ：おい、黙るな。どうした？
Ａ：……
Ｂ：黙るなって！めちゃくちゃ怖いよ！
Ａ：……無理ー！無理ー！
Ｂ：かんしゃくおこすな！暗いのに！
Ａ：もう無理だよ！
（A、舞台袖から）
Ａ：無理ー！
Ｂ：…すごい遠く行ってる！？
（A、さらに遠くから）
Ａ：…無理ー！
Ｂ：あんま遠く行くな！二度とこっち来れなくなるぞ！
Ａ：…無理ー！
Ｂ：行くなー！
Ａ：…あ！
Ｂ：大丈夫か！？
Ａ：荷物あった！
Ｂ：荷物？
Ａ：荷物ここにあったよ〜！
Ｂ：そんな遠くに？
Ａ：つけるねー
（舞台袖からうすぼんやりと光が舞台を照らす）
（B、棒を持っているだけ）
Ｂ：全然テントできてないよ！棒持ってるだけじゃん！飯も全然できてない！
Ａ：消すねー！
Ｂ：なんでだよ！
（光が消える）
Ｂ：なんで消すんだよ！
Ａ：現実見たくないからー！
Ｂ：逃げるな！もっかいつけろ
（光をつける）
Ａ：消すね〜
Ｂ：なんでだよ！
Ａ：もう眠いからー
Ｂ：だから夜だからだよ！