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社内の切迫

週刊台本 #50  コント

(SE、ラジオのタイトルコールとオープニング曲が流れる)

(作家が椅子に深く腰掛け天を仰いで寝ている)
ディレクタ:おい、起きろ。おい、おーい
(ディレクター、肩をバインダーで叩く)
作家   :ああっ!
(作家、飛び起きる)
作家   :あ〜、びっくりした…。やめてくださいよ
ディレクタ:やばい、やばいやばいやばいよ
作家   :なに?なんすか
ディレクタ:いや、デイドリーム大船のチェシャラジオのこの後のコーナー、なんもできてないんだよ
作家   :えっ、ええ?今何時ですか?
ディレクタ:13時1分
作家   :もう始まってるじゃないですか
ディレクタ:……うん
作家   :「うん」じゃないですよ。始まってるのに内容決まってないラジオなんてありえないじゃないですか
ディレクタ:……うん
作家   :なんでちょっと甘えた感じ出してるんですか
ディレクタ:お願いお願い。なんか、なんかはあるでしょ?なんかちょうだい?
作家   :なんかちょうだいって…僕も忙しいんですよ、先月から夜の帯番組の作家も入ってるんですから…
ディレクタ:…聞いたよ。飛びかけたんでしょ?
作家   :ちょっと。誰に聞いたんですか…
ディレクタ:作家辞めようとして、すんでのところで戻ってきたって聞いたよ?
作家   :はあ…ちょっとだけですよ
ディレクタ:まあ、これまでの会議でボツになってきたやつが一応あるんだけど
作家   :わかりました、それで大急ぎでできる形にして行きましょう
ディレクタ:今までラジオでやったことのない斬新な企画
作家   :なんですか?
ディレクタ:…紙芝居
作家   :はあ…
ディレクタ:やったことないだろ?
作家   :やるわけないでしょ。紙芝居の絵が見えないんですから
ディレクタ:ダメか
作家   :ラジオで紙芝居やったら、紙芝居じゃなくて芝居ですよ
ディレクタ:あー、じゃあ、もう一個。腹話術っていうのもあるんだけど
作家   :はあ…
ディレクタ:ラジオで聞いたことないだろ?
作家   :いいですか?あれも映像があって初めて腹話術なんですよ。音だけだったら腹話術は、もうただの話術ですから
ディレクタ:なるほど〜、紙芝居が芝居で腹話術は話術で…、そういう頭の文字が取れる法則性があるんだな
作家   :法則性とかではないですよ
ディレクタ:最後最後
作家   :なんですか?
ディレクタ:パントマイム
作家   :おやすみなさい
ディレクタ:ちょっと〜。寝ないでよ。入眠しないでよ
作家   :なんですか?
ディレクタ:ダメかな
作家   :言わずもがなですよ
ディレクタ:パントマイムはラジオだとなんなの?
作家   :パントマイムは「無」です
ディレクタ:ああ、虚無の無。パントマイムからパントマイが取れてム。確かに……
作家   :噛み締めてる時間ないでしょ?
ディレクタ:いいよじゃあ、紙芝居やろう
作家   :紙芝居やろうって、紙芝居そのものの用意がないんですよ?
ディレクタ:お前馬鹿か?ラジオなんだから白紙でいいんだよ白紙で。映像がないんだから白紙をめくれば紙芝居、まあ、お前のいうところの芝居ってやつになるだろ?
作家   :そんなん紙芝居でも芝居でもないですよ
ディレクタ:じゃあなんだよ
作家   :白紙めくりですよ
ディレクタ:なんだよ白紙めくりって、白線流しみたいに言いやがって
作家   :白線流しみたいに言ってないですよ。なんですか、誰も知りませんよそんな古いの
ディレクタ:そんなこと言ったら紙芝居だって夢芝居に似てるんだからな
作家   :なんでいろんな昔の似てるやつ言うんですか。昔の似てるやつ言ってる時間なんかないんですよ。そんなコーナーコーナーって、お昼のラジオなんだからフリートークでなんとかできないんですか?
ディレクタ:だめだよ、デイドリーム大船はフリートークできないんだから
作家   :ラジオパーソナリティーなのに?
ディレクタ:もうやめてよ〜、そんな責めないでよ〜、死んじゃうよ〜
作家   :どうしたんですか急に
ディレクタ:責め立てないでよ〜、死んじゃうよ〜
作家   :そんなに責めてないです。別に、パーソナリティーのこと言ってるんで
ディレクタ:いろんな人とのリレーションシップの中でやってるんだよ〜
作家   :すいません。色々ありますよね、大人の社会は。気を取り直してください
ディレクタ:…うん
作家   :あの、そもそもなんでこの時間まで準備できてないんですか?
ディレクタ:いや…遅刻で…
作家   :信じられない…
ディレクタ:いや、それはほんとに違くて…
作家   :自分も遅刻してるのにそうやって…
ディレクタ:わかった。わかったわかった
作家   :人のこと言えないじゃないですか
ディレクタ:わかった、わかった
作家   :なんですかその逃げ方
ディレクタ:わかったわかった
作家   :自分が負けそうになったときの逃げ方にないですよそれ
ディレクタ:わかった。わかってる
作家   :なにがわかったんですか。ダサすぎますってその戦法
ディレクタ:わかった。全部やればいいんだな
作家   :なにもわかってないじゃないですか
ディレクタ:最後もう一個お願いしていい?
作家   :もう…なんですか?
ディレクタ:時報、あるじゃん
作家   :ああ、あの企業スポンサーが入ってる、「何時をお知らせします、ピ・ピ・ピ・プーン」ってやつ
ディレクタ:その時報の音がなくてさ
作家   :嘘でしょ?あれ、もっと大元のところで事前に決められてるんじゃないんですか?1番組が用意するものでもないでしょ
ディレクタ:いや、遅刻とか色々あったからさ
作家   :関係ないでしょ。今からスポンサー集めるわけにもいかないし…
ディレクタ:お願い、お願いね
作家   :えー
ディレクタ:よーし、これで必要なものは全部揃って完璧だし絶対怒られないな!
作家   :すごい自己暗示の掛け方

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