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交通事故で入院

週刊台本 #39  コント

(交通事故で入院した患者の元へ親友が駆けつける)

(ベッドを模したイス、そこに患者がもたれている)
(親友が病室の扉をゆっくりと開け、神妙な面持ちで入ってくる)

親友:……おーい
患者:おう!
(患者、元気そうに片手をあげる)
親友:ああ、よかったー
患者:何深刻な顔して入ってきてんだよ〜
親友:いや、そりゃびっくりするだろ
患者:なんだよ〜ちょっと,ちょーっとトラックに跳ねられただけよ
親友:いやあ、ただ事じゃないだろそれは
患者:そうそう、それでよお、原付が大破しちゃってよ
親友:ああ、そうなの?まあでも、それだけで済んだんならなあ
患者:ま、あとは、右足だけポキっといっちゃったけどな
親友:うわー、大丈夫?
患者:でも大丈夫だってよ。元通り歩けるように治るってさ
親友:ああ、じゃあよかったなあ
患者:もう治ったら爆走よ
親友:なんだよ爆走って
患者:爆走爆走、爆走に次ぐ爆走、激走
親友:どっちだよ
患者:……激走
親友:激走なのかよ
患者:右足治すとき、医者呼んで前よりスピード出るようにしてもらおうかと思って
親友:どういうことだよ。どうすんだよ、医者は
患者:いや、ぶっ壊れた原付から使えそうなパーツ集めて付けてもらおうかと思って
親友:できるわけねえだろ
患者:えー?だめか?
親友:まあ、それだけってことなんだな
患者:おお、そんくらい。後はまあ、ちょっとな、記憶が完全になくなってっけど
親友:え?
患者:……それ何持ってきてくれたの?
親友:ちょっと、ちょっと、ちょっと待て
患者:ねえそれ何?その紙袋?無線?中身無線?
親友:違う、ちょっと待て
患者:…無線?
親友:無線な訳ねえだろ、病院で一番使っちゃダメだろ無線。……え?記憶ないのか?
患者:うん、全部ないよ
(両手を頭の後ろに回す)
患者:……へい
親友:「へい」ってなんだよ
患者:へいはへいだよ「Hey」って言うだろ.「H」,「E」,「Y」
親友:なんかの勢いがあっての「Hey」だろ
患者:ごめんごめん、俺、記憶ねえから
親友:……それ言われるとなんも言えねえんだよなあ。え?本当に記憶ねえの?
患者:うん、事故の前もそうだし、普通に,知り合いとか,思い出とか
親友:へえ〜……
患者:……
(患者、ゆっくり親友を指差し)
患者:どちら様?
親友:だよなあ?
患者:うん
親友:まずそれだよなあ。お前なんでそれがねえんだよ
患者:いやまあ、入ってきた時の感じで大体わかるからさ
親友:そうなの?
患者:え?だってお前はあれだろ?学生時代からの付き合いになる結構な親友だろ?
親友:え?すげえな。お前それさっきから一か八かでやってたのか
患者:うん、まあ記憶なんて、どっちかが持ってれば大丈夫っしょ
親友:そんなスマホの充電器みたいな感覚で言わねえよ普通
患者:そうかあ?
親友:えっ、記憶喪失ってもっとこう。……ボーッっとなるんじゃないのか?
患者:はあ?どういうこと?
親友:いや、記憶喪失ってさ、こう、ファー、みたいな、こうボーッっとさ
患者:「ファー」とか「ボー」とかわかんねえよ。いやそれはそんときそいつがそういう奴だったってだけだろ?
親友:そんなもんか?
患者:全員が全員おんなじじゃなきゃいけないわけじゃあないだろ。俺の記憶喪失はこうなんだから。な?「記憶がない」ってことでなんも間違ってないだろ?
親友:まあ、そうか。そうだな。記憶喪失の条件は「記憶がない」ってだけだから、別にこうなってもいいってことか……
患者:な?……にしてもお前全然知らねえけど服ダセえな
親友:……う〜ん。ちょ〜っと違うと思うんだよなあ〜。どう考えても心が、こう、開きすぎなんだよなあ。
患者:何言ってんだよ〜
親友:うーん、いや、こう、「ここはどこ?私は誰?」みたいなさ、なんねえの?
患者:いやそんなこと言ってもさ、目覚めたときに医者から全部聞いたし、そこ悩んでもどうしようもねえじゃん。悩んだって治るわけじゃねえしさ
親友:ポジティブだな〜すげえポジティブだなあ
患者:せっかくいろんな人、見舞いに来てくれるのに、他人みたいに振る舞われたら相手も悲しいだろ?
親友:記憶ないお前、めちゃくちゃいい奴だな
患者:そう?……まあな
親友:一個気になること言っていいか?
患者:どうした?なんでも言え、長い付き合いだろ?
親友:お前記憶ねえだろ
患者:いいじゃねえかよ〜
親友:まあ、その、こういうやりとりも含めのことなんだけど。まあ、さっき、入ってきた時、俺はお前が元気そうだったから安心したんだけど、お前ちょっと、事故る前よりだいぶ明るくなっちゃってるんだよな
患者:あ〜まじで?
親友:うん.お前もっとさ,おとなしーいやつだったんだよ.もっとこういっつも下向いてさ,声もちっちゃくて,ずっと1人で携帯電話見てるみたいなさ
患者:やっぱりそうかあ〜、来るやつ来るやつ,見舞いに来たやつとは思えない白々しさで帰ってくんだよな〜
親友:まあな,違和感がすごいから……
患者:なんていうか、俺は、俺の、元がわかんねえから。ごめんな
親友:まあ,いいよ別に
患者:そう落ち込むなよお。まあ、ゆっくりのんびりさ、時間かけて、なんとかしてこうよ
親友:……それこっちのセリフだよなあ
患者:はっはっはー
親友:そんな高笑いするやつでもなかったんだよなあ、お前は
患者:そっか、これも違うのか
親友:うん、まあ、なんか違和感がすごいのもあるし、俺も帰るわ
患者:そう?
親友:うん、大丈夫そうなのはわかったし
患者:あ,そうだ,それ何?
(患者,親友の手に持っている紙袋を指さす)
親友:ん?あ,これちょうどいいわ!
患者:何?
親友:先月旅行行ったんだよ,俺とお前とみんなで.それで写真現像してよ.ついでに暇だろうからって,昔行った旅行とかのもまとめて持ってきたんだよ
(親友、手に持っていた紙袋を差し出す)
親友:後で適当に見といて
患者:ありがと、オッケー
(患者、紙袋を見る)
(親友、ゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋をさろうとする)
(部屋から出るギリギリで、紙袋の中を覗いていた患者が親友に声をかける)
患者:お前、神宮寺……
親友:……伊藤だよ
患者:伊藤か……

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