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電話すると目の前の相手の存在がゼロになる

週刊台本 #46  コント

(社員の仕事中に社長が通りがかる。社員は電話中だったため社長が電話を促すと……)

(社員、同僚に電話をかけている)
社員:うん、それとそれ持ってもらって、一回下まで降りてきてもらえる?うん。もう車、玄関までつけちゃってるから……
(社長が通りがかる)
社長:お疲れ
社員:あ、お疲れ様です
社長:どんな感じ?
社員:今、生産ラインに導入する新しい異物センサーを見に受注先の方まで向かおうと思ってて
社長:聞いてるよ〜、君の提案のおかげで生産工程のロスが過去最低になったんだって?すごいよねえ
社員:あ、いや、学生時代にそういうのをちょろっと勉強してたので
社長:いやすごいね〜、それだけじゃなくてちゃんとアイデアで上司を納得させたっていうのがすごいよ〜。君みたいな気骨のある若手は最近めっきり見なくなったからさあ、…くれぐれもお手柔らかに頼むよ
社員:いえいえ、全然そんな……
社長:なに?全然って、「まだ全然アイデアがある」って、そういうこと?
社員:いやほんと、勘弁してくださいよ〜
社長:電話の途中だったよね?
社員:あ、はい!
社長:いいよ、続きして
社員:すいません、ありがとうございます……もしもし?あ、ごめん、今社長に捕まってて。うん。いや、急に来て急に話しかけられて。降りてきてって言ってたけど社長いるからまだ降りて来なくて大丈夫だよ。うん今降りてきてもまた捕まって話長いから〜。降りて来なくて大丈夫。うん、話長いし、うん、話つまんないしさ、うんうん、今日も偉そう。高圧的なだけ
(電話を切る)
社員:…すいません。ありがとうございます
社長:う…うんうん。
社員:どうしたんですか?
社長:え〜すごい、なんだろ…君はあれだね、一つのことに集中すると周りが見えなくなるタイプの、最上級だね
社員:え?何がですか?
社長:まあ、いいんだ。うんうん。これぐらいの方が、仕事に一生懸命取り組んでくれるのかな?
社長:どうしたんですか?
社員:あの、メールで宛先間違えてっていうのはやられたことあるけど。電話で誤爆する人っているんだ〜っていう
(社員、携帯電話を見る)
社員:あ、すいません。また電話だ
社長:……うん、出ていいよ
社員:お世話になっております。麻生でございます。はい、予定通り13時ごろエスアイ精機さんの方に到着できると思います。あ、ちょうど会社から出ようと思っていたところで。はい、うちの社長の方にばったり会いましてですね。うちの社長、めちゃくちゃ話が長くてめちゃくちゃつまんないんですよ
社長:外部に言う!?外部にも言うそれ!?
社員:いやほんとに、典型的な偉そうなだけで話がつまらない人でして……
社長:すごい、もう電話とったらすごい言ってくれるじゃん
社員:いや〜なんでああ言う人って自分が言ってることを面白いって思ってるんでしょうかね〜。気い使われてるってわかんないんでしょうね〜……
(社員、電話口で話し続ける)
社長:いや、まあ、まあね。それくらいのことは思われてるんだろうな〜ってことは全然思ってたから、全然思ってたから内容に関しては全然傷ついてないんだけどね。にしてもだよね、にしてもこんな風にこの距離でなんの隔たりもなく本音が聞けるって言うのは、生々しすぎて心臓がギュってなるよね。さすがにね。うーん、この部門にすごい優秀な子がいるからって見にきたんだけど、まさかこんなとんだシングルタスク電話誤爆人間とは思わなんだ
(社員、電話しながら社長と目を合わせる)
社員:……いやほんとにね〜、でも無神経じゃないと社長なんてやってられないんでしょうね〜。ほんとつまんなすぎてびっくりしますもん……
社長:すごい、すーごい目を見て喋ってくる!もう電話で話してる間は視覚情報が完全にシャットアウトされてるのか?
社員:……はい、また何かありましたら連絡させていただきます。今日はよろしくお願いします〜
(社員、電話を切り,社長に向かって申し訳なさそうに)
社員:すいません。途中で電話なんかしちゃって
社長:…すごいねえ。君は本当に
社員:いえいえ……、自分みたいな若輩者の意見もきちんと吸い上げてもらえたのは、社長の築いた社風のおかげです
社長:…うん、…まあ、そっちもすごいんだけどね
社員:まあ、そうですね、でも、上司の前で電話すると、何故かみんなそれ以降言うこと聞いてくれるんですよね〜
社長:え?これやられてんの?もしかして、これやられてるからみんな従わざるを得なくなるの?
社員:どうしたんですか?
社長:いや、でも、うーん、流石に君は素直すぎると言うか、いつかもし得意先の前で電話されたらとんでもないことになりかねないからなあ……
社員:どういうことですか?
社長:いや、今日工場まできたのは、君のことを昇進させたくてきたんだけど、これだとちょっと考え直さないとな〜
社員:ええ〜、なんですかその話、ちょっと、なんで考え直すんですか?
社長:いや、正直この感じだと取り消しもあるかもしれない
社員:いや、お願いします。もう、至らない点があったら直しますんで
社長:うーん…じゃあ、電話してみる?
社員:はい?
社長:君の本心がわからないから、ちょっと今電話してみてよ
社員:え?電話ですか?
社長:さっきの同僚でいいから、ちょっと、昇進について話してみて
社員:もしもし?いや、さっき社長に会ったって言ったじゃん?そこで急に言われたんだけどさ、ほら、あの人っていっつも急に言ってくるじゃ…くっ……
(社員、社長の方をチラチラ気にする)
社員:くっ……
社長:お、昇進ともなると流石に苦しんでる
社員:いや、能力を買われてさ……それで……くっ……
社長:直そうとして直せるってことはポリシーでやってんの?それとも本当に本能でやっててそれを別人格が止めようとしてるの?ねえ、どっち?ねえ
社員:……くっ!うわああ!
社長:どっちだとしてもお前はダメだよ!

祈りましょう