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幻のマリオゲーム『MARIO'S TIME MACHINE』は「歴史学習ゲーム」足り得る存在なのか?徹底調査(という名のやはり揚げ足取り)

※先に上の記事を読むことを推奨。

※著者の極端なこき下ろしがふんだんに盛られています。苦手な方はブラウザバック推奨。

※今回自分が買ったものには説明書は含まれてなかったので、このゲームの仕様を理解しきれてない部分があります。「ここは違う!」という本作既プレイの方がいたらよろしくお願いします。

※この記事で使われる「前作」という表現は『MARIO IS MISSING』の事を指します。

はじめに

『MARIO IS MISSING!』。

1992年に海外限定で発売された、マリオを題材とした「地理学習ゲーム」。

任天堂の元を離れたスーパーマリオのブランドは、狂気のグラフィックで、不快に満ちたゲームシステムで、誤植まみれの学習内容で、見るも無惨な姿となってしまった。

しかしご存じだろうか。このゲームは「Mario Discovery Series」の一部に過ぎない事を。このゲームに続編が存在する事を。

「地理」と対を成す「歴史」のゲーム。1993年、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコのソフトウェア会社、The Software Toolworksにより開発・発売されたそのソフトこそ『MARIO'S TIME MACHINE』だ。


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前作と打って変わってこちらの主人公はマリオ。前述通りこのゲームは「Mario Discovery Series」という学習ソフト群に属し、ジャンルは歴史学習ゲームである。

自分はこちらもMS-DOS版を購入。前作より国内の知名度はさらに低く、プレイ前の予備知識はほぼ0に近かった。果たして本作は「マリオシリーズ」「学習ゲーム」足り得る内容なのか…

ちなみに前作の出来のせいで現地の発売元から見切られたのかどうは知らないが、今作は欧州版が発売されていない。


ストーリー

オープニングのやり取りをそのまま翻訳して掲載。

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クッパ「It's time, my cunning koopas, to use the time machine and steal the most valuable artifacts that history has to offer…(時は満ちたぞ、狡猾なるノコノコ軍団よ。今こそタイムマシンを使って最も価値ある歴史上の産物を盗み出すのだ!)」

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クッパ「Mario, my collection is almost complete …and there's not a thing that you can do to stop me!(マリオよ、ワガハイのコレクションはもうすぐ完成する。どんな事をしてもワガハイを止める事はできないのだ!)」

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マリオ「Bowser's museum is inside his castle… I have to get in there and return all the stolen artifacts before history is changed forever…(クッパの博物館は城の中にある…歴史が永久に変わってしまう前に、そこに行って盗まれた遺物を全部返さないと!)」

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マリオ「At last, Bowser's castle! I'll show that no good reptile! He can't mess with history, as long as I'm around to set things right!(ついにクッパ城に着いたぞ!ボクが事態を解決しにいく限り歴史に干渉なんてできないこと、あの性悪爬虫類に見せつけてやる!)」

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クッパ「The greatest collection of ALL time is nearly complete, and it's all mine! No one can stop me now… …not even Mario!(史上最高のコレクションの完成は近い。全てがワガハイの物になるのだ!誰であろうと今のワガハイは止められん…マリオでさえも!)」


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フ ァ イ ナ ル 構 図



…とりあえず「クッパが人類史を変えようとしている」というぶっ飛んだストーリーはさておき、イントロムービー自体は前作から一転、複数の一枚絵とセリフのみと大分あっさりしている。しかしあの拍子抜けした前作のムービーよりかは遥かにワクワクするのは間違いないだろう。

それよりも自分が驚いたのはBGMだ。「地下BGM」「魔王クッパBGM」「お城クリア ファンファーレ」「コクッパBGM」「お城BGM」の豪華『マリオワールド』メドレーなのである。音楽の質自体も前作以上のものとなっており、より胸が高まる。

(↑ファンメイドのアレンジ版)

御膳立ては十分、果たしてゲーム内容はそれに見合ったものとなっているのか…


システム

攻略の大まかな流れは前作と同様。情報を集め、クイズを解き、遺物を返却する、の繰り返し。

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博物館には5つの遺物が展示された部屋が5つある。部屋にいるノコノコがそのうち1つをランダムに持っているので、右クリックで発動するジャンプで倒すとそれを手に入れることができる。

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下側のメニューからその遺物が元々存在した年代・場所を確認したら、「タイムレーター」に入力。これがいわばタイムマシンで、ボタンを押すと時間遡行が始まる。

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時間遡行を開始すると突如サーフィンがスタート。ウニをかわしつつサーフィンで一定個数キノコを回収すれば、入力した年代へワープすることができる。必要な個数は難易度(オプションで変更可能)によって変化する。

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無事到着したら、この時代にいる持ち主に遺物を返還しないといけないのだが、そのためにはメニューから開ける歴史ノートの空欄を全て埋める必要がある。持ち主というのは要は偉人であり、歴史ノートにはその偉人の生涯や功績がまとめられている。空欄を埋めないと返還する選択肢自体が現れない。

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答えを知っているならすぐに埋めてしまえばいいのだが、恐らく大抵のプレイヤーはそうではないだろう。街には偉人以外にも住人がいて、何かアイテムを欲しているのでそれを渡せば偉人の情報を教えてくれる。アイテムはノコノコを倒すか、別のアイテムを渡した住人からお礼にもらうことで手に入る。

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返還が終わればそのステージはクリアで、メニューから現代へと戻れる。

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ワープする年代・場所を間違えてしまった場合、あるいは穴埋めを一定回数以上間違えてしまった場合、マリオは白亜紀に飛ばされる。ここではプレイヤーはプテラノドンの卵拾いを行い、クッパ城への帰り方を知っている(と思われる)ヨッシーを召喚しないといけない。


「ゲーム」としてのレビュー

まずグラフィックだが、全体で見れば大分進歩している。住人を見れば一目瞭然だろう。アニメ的な描画をマリオキャラに限定して実写的な描画に切り替えており、街では歪んだヘンテコ線画はほぼ見られない。この画風がマリオらしいかどうかはともかく、このパートの見栄えはそこそこ良くなったと言えるだろう。

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しかし肝心のマリオのドットが使い回されているため、ゲーム全体の印象は台無しである。オープニングではトレスとはいえ生き生きした表情を見せてくれていたのに………クッパは描き直されているが出来は察しの通り。

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ゲームシステムにも改善点が見られる。情報を集めてクイズに解答するという流れは前作とあまり変わりないが、探索するマップが1つだけに減り、密度が大きく上がっているのだ。偉人や情報をくれる住人は全員この1つのマップのどこかにいる。前作のゲームシステムの不満の大半は「無駄に街を徘徊させられる」という点に終着していたので、とりあえずそこが改善されたのは喜ばしい。

ただし肝心の偉人・住人がいる場所が非常に分かりづらいのはマイナスポイント。ドアっぽい所をクリックすれば基本はその中にいるが、遠方に見える小さな建物の中にいることも多々ある。住人の居場所かただの背景か見分けるためには、カーソルの形の変化を観察し続けるしかない。

マリオの動きはもっさり緩慢なのは前作から改善無しなのも、移動量が減ったとはいえ相変わらず腹立たしい。これはタイムレーターの部屋と遺物の部屋を何度も往復しないといけないクッパ城で特に顕著となる。


このゲームの「教育」としての本命といえる穴埋めクイズパートはより退屈だ。その最大の問題点は、

「穴埋めの選択肢リストがゲーム全編を通して7つしか用意されておらず、単語を入れる度に毎回100語近い一覧から正解を探す必要がある

という面倒なシステムである。歴史ノート一つにつき穴埋めの数は平均10個ほど。流石にアルファベット順に並んでいるとはいえ、正解を「選ぶ」のではなく「探す」ことにじわじわと精神が削られていく。しかも選択肢リストは手帳型になってるのだが、片方のページには意味不明なイラストが描かれており無駄にページめくりの手間が増える。

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正解の選択肢を選んでも、それを表す正解の効果音どころか表示すら全く出てこないので達成感は皆無。「(名前)」と「(名前)'s」が別の単語として登録されており、間違えると容赦なく残機マイナス1、などという卑劣な罠も仕込まれている。

このゲームは総じて、どうして「教育ゲーム」は「ゲーム」として存在するのかという存在意義の根幹を理解していないと思わしき箇所にまみれているのだが、特にこのパートは酷い。紙の穴埋め問題集を解いて自分で丸つけした方がよっぽど効率的で達成感がある。

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歴史学習とは関係のない謎のサーフィンパートも手抜きの極みだ。その実態は、「キノコとウニ以外にギミックはおろか夕空以外の背景すら存在せず、ゲームを進めても全く難易度が変わらない」という代物である。これをクリアまでに25回以上もやらされるというのだから、終盤には完全に無の境地でプレイしていること間違いなし。サーフィンしなくてはいけない理由はゲーム内でも語られる事は無く、仮に語られていたとしても完全な蛇足と化している。



前作なら致命的すぎる問題に埋もれ見えなかったであろう細かい不満点が、次々と露わになりプレイヤーに牙を剥く。つまるところ、全体的に見ればある程度レベルは上がっているが、結局どのパートでも細かい問題が大量にまとわりつくので、前作同様終始イラつく事となり面白くないのである。


「歴史学習」としてのレビュー

やる前から察してはいたが、今作も描写ミス・誤植のオンパレードだ。数えてみたところざっと100はある。一応500以上という破格の数を誇った前作と比較すると総数は大分減ってはいるが、それは所詮どんぐりの背比べ。どのみちエラーだらけな事に変わりはなく教育ゲーム失格である。その例をいくつか挙げると、

・紀元前369年でアリストテレスと出会うが、既に科学者として名を馳せた老人となっている。本来この時アリストテレスはまだ15歳

・フビライ・ハン(モンゴル帝国5代皇帝)の父がオゴタイ・ハン(モンゴル帝国2代皇帝)とされている

・微生物を始めて観測したのはパスツールとされているが、それはアントニ・ファン・レーウェンフックの功績である

・1455年にアイテムとして取引されるティーバッグ(発明されたのは1900年代)

・「自分の名前を付けよう」というマリオの提案で、見つけた海峡を「マゼラン海峡」と名付けるマゼラン。マゼラン海峡という呼称はマゼラン没後の時代になって言われるようになったものだし、そもそも架空のキャラクターを介入させて意図的に誤った知識を生み出すのは誤植以前の問題


また、相変わらず盗まれた物のチョイスもおかしい。

・クレオパトラへ返還するアイテムが杖(先祖代々受け継いできた、民をまとめるための最重要アイテムと扱われているが、そんなものは特に証拠も伝承も無い

・ニュートンへ返還するアイテムがリンゴ(「重力について本を出版したいのに発見したきっかけを思い出せない」と困っている。ツッコミどころが多すぎる)

・ミケランジェロへ返還するアイテムが紫の絵の具の金属缶(時代錯誤)

などなど。

誤植数に関しては、単純にマップ数に伴って学習量が少なくなった結果、必然的に数が減っただけなのではないか。これを改善と呼ぶには、その数はあまりにも許容範囲とかけ離れている。マリオと教育ゲームの親和性が薄かっただけでなく、この会社と教育ゲームの親和性も薄かったと言わざるを得ない。


衝撃の最終ステージ、そしてエンディングへ

ともあれ、ようやく25の歴史上の遺産を全て返還し終えた。これで最後の扉が開かれ、クッパを追いかけることができるはずだ。

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予想通り、というか思ったよりすぐクッパに会えたが、どこか様子がおかしい。慌てて何かを取り落とし逃走してしまった。

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落としていったこれはフロッピーディスクだろうか。年代は1993年のノヴァト……どこの地名だろうか。とりあえずこれの持ち主は誰なのか、確かめに行こう。

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着いた先にあったのは無骨で近代風のコンクリ建築。青い空に広がるのは白い…マリオ型の雲??


ふと年代を思い出す。1993年。このゲームが発売された年からするとつい最近、いや丁度このゲームが発売された年だ。また、検索するとノヴァトが位置するのはサンフランシスコであるらしい。そして空には現実では有り得もしない、綺麗なマリオ型の雲。


まさか………いや、そんなはずは無い。そんな事があって良いはずが…





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デヴィッド・グレネウェツキ(当時のCTO)「What? You're in Novato, CA. I'm sorry, but I don't have time to chat just now. I've lost a VERY important floppy disk. It had the final version our latest "edutainment" product.(何だい?ここはカリフォルニアのノヴァトだよ。すまないが、今おしゃべりしてる時間は無いんだ。とーっても大事なフロッピーディスクを失くしてしまったんだよ。中には我が社の最新の「教育エンターテインメント」製品の完成版が入ってるんだ。)



……………



開いた口が塞がらない。


この「偉人」は、自分が学習されるに相応しい程の歴史に名を遺す功績を果たしたとでも思っているのか?ましてや他社のキャラクターを借りておいて、こんな子供騙しにすらならない子供騙しを生み出した会社が、だ。もしそのつもりが無いのなら、この男はコンピュータゲーム全体でも類を見ないレベルの作者による自慰行為に走った事になる。

何が最悪かって、子供に教育することが目的のゲームで、「学習内容として」自身の名を誇示しているのである。しかも「身内でのニックネーム」など心底どうでもいい情報付きで。

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人に話を聞こうとすれば、誰もが皆マリオの良き支援者のように振る舞う。歴史ノートを開けば、この「教育エンターテインメント」は当然かの如く歴史上の遺産と同列に並べられ、ただのスタッフの名前の穴埋めを要求される。マリオもまたこの会社が我が家であるかのように発言させられ、本当の故郷である「Nintendo」の単語が登場することは一度も無かった。

…改めて言うが、ここは一番最後のステージでありゲーム進行上避ける事はできない。開発者をモデルにしたキャラが端役で登場するゲームはしばしば見かけるが、文字通りの本人が登場した上でストーリー攻略に関与する例は同人ゲームでもそう無いだろう。

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歴史ノートを埋め終わり、フロッピーディスクを返還する。このゲームが発売される世界線をプレイヤー自身の手で正史とするように強いられているのである。その時、この「俺くん」は今まで出会ったどの偉人よりも姿が大きく繊細に描かれている事に気づき、乾いた笑いが出た。


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クッパ城に帰還するとエンディングに突入。クッパはタイムレーターでパラダイスに逃亡しようとするが、ここまでの誤答の回数と残り時間によってエンディングが分岐する。成績が悪いとクッパの逃亡を許してしまい、再び挑戦してより良い成果を出すように言われる。

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成績が良ければエンディングが分岐。タイムレーターは故障し、クッパは白亜紀に飛ばされる。

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ノーマルエンディングだとここまでだが、グッドエンディングの場合はさらに展開が進み頭上に超巨大なティラノサウルスの足が出現。クッパは傘を差すが、そんなもので防げる訳なく…

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最後にはヴェロキラプトルに遠くへと放り投げられ、ゲームは幕を閉じる。クッパファンは怒っていい。



まとめ

前作の出来の悪さは当時から社内・社外で噂されていたのだろう。実際にプレイしてみると、意外にも改善点がそれなりに見られた。

しかしはっきり言うが、このゲームはまだ教育ゲームとしての最低限のラインに到達できていない。空虚な穴埋め問題はマリオのブランドを全く生かせておらず、仕様やUIは非常に面倒で不親切、そしてあらゆるタイプの誤植が全ステージ中に蔓延る。結局前作の問題は僅かに「緩和」はすれど、ほとんど「解決」に至ってないのだ。それどころかステージ開始前に挟まる無意味なサーフィンなど、改悪点さえも見られる。これを使って学習するよう親に言い渡された当時の子供達に同情せざるを得ない。

そして自己顕示欲の渦から生み出された最終ステージ。普通のゲームなら「見苦しいがゲームの評価には直結しない」で済んでいたかもしれないが、教育ゲームでクリアに必須の学習内容として扱われると話は別である。純粋無垢な子供たちをターゲットにどうでもいい情報を刷り込み、売名を行う姿には怒りを禁じ得ない。なんなら成績によるマルチエンディングの存在からこのゲームは周回を前提に作られているはずであり、つまりその度にこの最終ステージを遊ばないといけないという事である。そんな物を入れて承認欲求を満たすリソースとメモリの余裕があったなら、もっと多くの他の偉人について紹介できたはずだ。

もしこの場にタイムマシンがあったのなら、自分はフロッピーディスクを返そうとするマリオを全力で止めたい。そんな気にさせる、ある意味『MARIO IS MISSING!』の対となって相応しいゲームだった。








……さて、そういえばこのゲームにもDELUXE版、つまりリマスターバージョンが存在するらしい。どうやら事典・復習機能が追加されたとの事だ。前作の事を考えるとどうせ問題点の改善は行われていないだろうが、一応どんなものか調べてみよう。


キャプチ

…「Library」。なるほどこれが例の追加機能か。『ミッシング』では名物を返還してしまうと、一度訪れた名所の情報は二度と見れなかった。誤植うんぬんはさておき評価に値するポイントである。


キャプ

え、クッパ??

クッパがライブラリーの司書をやっている。前回みたいに変装してる(と思い込んでる)のだろうか。にしてはわざわざマリオに知識を与えて助けるメリットはないはずだが…

まさか、誤った情報を教えて妨害工作でもするつもりなのか。


キャ

司書クッパ「Hello, I'm Bowser's mother. I'm the librarian of this magnificent library. Who are you?(こんにちは、私はクッパのママです。この壮大な図書館の司書をやっているの。あなたは誰かしら?)」








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おしまい。

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