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ポーランド国立放送交響楽団 Japan tour 2022(2022.10.18追記)

今回の全国ツアー、大阪と岡山に足を運んできた。(ヘッダーはそれぞれ公演で配られたフライヤー)

この知らせを見た時、飛び上がりたいぐらいうれしかった。ショパン国際ピアノコンクールで果たせなかったファイナル進出。聴けなかったコンチェルトを生で聴けるチャンス。これは是非ともホールに足を運ぶしかない。
東欧屈指の楽団の日本ツアー。指揮はマリン・オルソップ、バーンスタインの薫陶を受けた女性指揮者の先駆者。そのソリストに言わば抜擢された角野隼斗。
実績が(発表された時点でクラシックでは)豊富とは言えない若手の角野くんが選ばれた経緯を知りたい。日本のエージェント側からなのか、楽団からなのか、オルソップさんからなのか...
角野くんのソロツアーとは違い、それぞれの場所の主催が違うのでチケット情報が揃って出ないことにかなりやきもきした。私は大阪に住んでいるが、大阪がいちばん情報解禁・チケット販売日時が遅かったので、その前に岡山公演をおさえてから大阪公演のチケットを手に入れた。取れない方がいたら岡山は譲ろうと思っていたが、思いの外売れ行きが伸び悩み、最終的に両方行くことにした。(ソロツアーより価格が高いからなのかもしれない)
少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった春に発表された今回のツアー、海外オケの来日は久しぶりで無事に秋を迎えればよかったのだが、夏にまた猛威をふるい、今も下げ止まりの状態。こんな中来てくれたオケの皆さん、指揮のマリン・オルソップさんに感謝しかない。制限がかかる中少しでも日本を楽しんでほしい。

開催前の記者会見での角野くんの言葉は衝撃的だった。

「1年前にはとても辛い思いをしました。今回のツアーは自分の中でのショパンコンクールが完結する機会と考えています」

角野くんはコンクール後、クラシックだけじゃない縦横無尽の活動を繰り広げている。本人の中ではコンクールはコンクールで、と割り切っているものと思っていた。そうじゃなかったんだ、と。
引き合いに出すのはおこがましいのだが、私はいまだに本選のYoutubeを見ることができない。あの場にいてほしかったと思っているから。
そして川口から公演が始まる。その時見られていた方のTwitterで、その日の演奏で完結したんじゃないかというツイートが散見された。思わず安堵したのを覚えている。終わりであり始まりなのかもしれない。

そして大阪公演。こちらはこちらで驚きの情報が。

なんと、レコーディング!きっとCD化されるだろう。後世に残ることになる。その場に立ち会えるうれしさと緊張感。この時点でチケットがまだ残っていたが、この貴重な体験を逃したくないファンの方々がやって来ることになった。ソールドアウトまではいかなかったが。(BC席は完売でA席が若干残っていた。チケットの価格が高いのもあると思う。なんせ大阪なので...)

プログラム
前半 
バツェヴィチ 「オーケストラのための序曲」
ショパン「ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11」
後半
ブラームス「交響曲第1番ハ短調Op.68」(大阪)
ドヴォルザーク「交響曲第9番ホ短調《新世界より》Op.95 B.178」(岡山)

大阪公演は、1階F列右側エリア。オケを聴くには前過ぎて1曲目の冒頭の弦楽器がすごくこもって聴こえたが、途中から気にならなくなった。勇壮なオープニングとしてふさわしい曲。(序曲として作曲されているので当然なんだが)

そして、角野くんが登場。大きな拍手に迎えられいつもの深々な礼、着席した。アナウンスはなかったが、入場時レコーディングがあることが記載されたフライヤーが配られ、ステージには多数のマイク・カメラが配置されていたので、観客はほぼ全員レコーディングについて把握していたと思う。緊張感漂う中での演奏となった。
専門的なことはわからないので私の主観での感想になるが、第1楽章は至ってオーソドックスな演奏に感じた。角野くんは演奏に集中し、オルソップさんとオケは寄り添うように演奏していた。
第2楽章は歌い上げるメロディーに溶けそうになる。途中会場の静けさを感じさせる休符もすあり、一瞬どこかへ吸い込まれていくような感覚を覚えた。波紋が広がるような余韻が残る音、最後の再現部の前のチェレスタのような音、同じピアノで鳴らしているのかと思わせるぐらい多彩な音... 角野くんの真骨頂だと思う。
第3楽章はリズミカルなメロディーが繰り広げられる。グルーヴのある曲が好きな角野くん。こういう曲はすごく合ってるんだろう、1,2楽章を終えた安堵感からなのか、時折笑顔も見せていた。
レコーディングだったので、余計なお世話だがミスタッチしないだろうか、観客席から音が鳴らないだろうか、といらぬ心配を気にかけながら聴いていたのもあり、演奏が終わった時ほっとしたのを覚えている。もちろん万雷の拍手、スタンディングオベーション。
アンコールは子犬のワルツ。前半はスタンダードに弾いていたが、展開部に入る前に少し上を見上げた。すると、ジャジーバージョン!!!Priviaのプロモーションで演奏していたアレンジだが、速いし音も重厚でオケの方から少し笑い声が起きるほどだった。

休憩後は、ブラームスの交響曲第1番。Youtubeで少し予習したが途中で聴くのをやめてしまっていた。なんだか退屈で... でも生で聴くと楽しくて長い時間を感じさせない演奏だった。いわゆるクラシックの王道。オケ単独公演だと足を運んでいないので、巡り合わせてくれた角野くんに感謝しかない。
オケのアンコールはポーランドの作曲家モニュシュコ 歌劇『ハルカ』第一幕「マズルカ」第三幕「高地の踊り」。ノリのいい曲で踊りたくなる感じ(まさに舞曲)。

5日連続公演の最終日だった岡山。公演を重ねるにつれ成熟度を増していくのをTwitterで感じていた。日替わりのソリストアンコールについても盛り上がる。

ファンだけでなくオケの皆さんも楽しみにしているとか、エンターテイナーだなあ... 思わずよかったねとリプをしてしまった。ピアニスト冥利に尽きると思う。

岡山公演は13列中央ゾーンの右端。大阪公演より後ろでオケ全体が見渡せて(それでも管楽器の方の顔は確認できる方とできない方といた)、音もよく聞こえた。ピアノの音も大阪ではダイレクトに聴こえてきたが、いい感じにオケに混ざったり際立ったり。オーケストラをより堪能できた公演だった。
角野くんの演奏は、第1楽章から攻めの姿勢。緩急をつけた箇所が大阪より多く、一層楽しめた。録音を乗り越えた余裕なのか、公演を重ねたからこその成長なのかわからないが、第1楽章は岡山の方がよかった。もちろん第2,3楽章もすばらしかった。でもあの大阪の緊張感、静寂さの中での演奏は唯一無二だった。きっとその場の雰囲気、会場・ピアノの違いで演奏も変えているんだろう。休符の取り方も異なっているように感じた。そして、座席によっても感じ方が変わってくる。Twitterのフォロワーさんが「一期一会」と呟いていて、まさにその通りだなと。他公演でも評価が違っていたりするが当然なんだと思う。
アンコールはカプースチンのトッカティーナ。Youtubeにアップしてくれているが、生で聴くとテンポアップしてて迫力があるし、その指さばきは見事だった。(演奏している指は見えなかったけども) 速くなっても粒立ちのする音に圧倒された。

後半はドヴォルザークの新世界より。有名な曲で生で聴いて高揚感がすごい。第4楽章に入るともう終わっちゃうんだと感慨深いものがあった。アンコールも楽しくて踊り出したくなる。踊れないけど... 最後はスタンディングオベーション、角野くんの演奏後よりも立つ方が増えていた。やはり終わるとなると名残惜しいわけで、立って送り出したくなったのかもしれない。客層は地元の方が多かったように思う。ドレスアップして来られている方もいたし、招待で来ていた学生もいたり。もちろん私のような遠征組もいたが、2000人入るホールで満員になるなんて、すごいことだ。


長々と角野くん中心で書き連ねてきた。贅沢な時間を過ごすことができた。角野くん、そしてオルソップさん、オケの皆さん、ありがとうございました。あと4公演、ソリストアンコールの曲目の予想も楽しみながら、みなさんのレポを楽しみに待ちたい。無事最終公演を迎えられますように... 
Twitterにも書ききれなかった感想をつぶやいてるので興味のある方は見てください。(@noko88955258)
ここまで読んでいただきありがとうございました!

(2022.10.18追記)
昨日はショパンの命日
そんな日に...

大阪で収録されたショパンコンチェルトが配信リリース。CDも発売決定。また粋なことをするんだよなあ...
そしてさらに

なんと、映像をYoutubeで公開。カメラが入っていたので、TV放送やBlu-rayリリースを期待していたのだが... 大盤振る舞いでしょ、これ。もちろんプレミア公開を見届けた。先に書いたように当日は緊張感半端なく、岡山の演奏で上書きされ、記憶がだいぶ薄れていた。この日は忙しく、配信で聴くことができずプレミア公開で初めて聴いたのもあり、終始感極まり涙が止まらなかった。

そして今日。角野くんのそばで見守っているスタッフさんがレポートを。その中で...

「1楽章と2楽章の間の沈黙……コンサート中にこんなに会場が静かになることがあるのか……」

角野がその日の終わりに漏らした言葉が、演奏者だけでなく聴衆も含めて極めて高い集中度で行われたライブを物語っていた。

あの日は特別だったんだ。楽章間によく起こる咳払いが全くなく、観客が息を潜めるように演奏に集中していた。何度かクラシックの演奏会に足を運んでいるが、きっと最初で最後なんだろう。

まだ1ヶ月余りしか経ってないのに、もっと前のような気がするNOSPRツアー。あまりに角野くんの活動が多彩かつ活発な証拠。ツアー後、アデスのコンチェルト、シンガポールの公演を終え、台湾3公演ツアーへ。これからも国内外問わず、請われたらどこへでも飛んでいくはずだ。
聴ける時には聴きに行って、そうじゃない時は行った方のレポで楽しんで、そして彼自身の発信を楽しみに待つとしよう。

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