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短編集

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フィクション、ノンフィクションにかかわらず、書いた物語を更新。 不定期更新。
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#ミステリー小説

夢十夜『ある男の背中』

二畳ほどの見慣れた脱衣室。 私は洗面台の鏡に背を向け、しきりに映し出された背中の様子を見ている。 背には黒い楕円形があった。楕円は握り拳ほどの大きさをしており、その色は深く、土砂降りの雨に打たれた古い礼服を彷彿させた。 「なんなのだこれは」 私は訝しげにそれを見つめた。吸い込まれるような楕円だった。しばし見つめたのち、手を伸ばし、触れようとした。しかし、楕円は肩甲骨のちょうど真ん中に座しており、四十肩持ちのこの身体ではどうにもこうにも、届きそうになかった。どうしたものか