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Webベンチャーで新卒から16年働いて学んだこと

2004年4月から16年ものあいだ働いてきたLIFULLを退職することになりました。せっかくなのでこれまで自分が感じたこと、考えてきたことを文章にして残しておきたいと思います。いわゆる退職エントリというやつです。データの話ではなく仕事論、精神論みたいな類になるかと思いますが、ご興味ある人は読んでいってください。

どんな会社で働いていたか

こんな会社です。
https://lifull.com/

主力事業は日本最大級の不動産・住宅情報サイトのLIFULL HOME'S。
https://www.homes.co.jp/
私が入社した2004年当初はHOME'Sという名前で日本最大級でもありませんでしたが、今も昔も変わらず当社の主力事業です。

公式サイトによると現在は連結で18の事業、国外にも子会社を持つグローバルカンパニーとなっております。現在は東証一部に上場している期間も長いですが、私の入社時は上場準備もまだまだ、年間売上10億円という段階でしたので隔世の感があります。

どんなことをしてきたか

・新卒入社後3年間は営業職。HOME'Sに物件情報を掲載していただくために大小さまざまな不動産会社へ営業。

・その後は営業企画(事業企画)へ転向。組織の拡大&上場準備のためPL経営、予算管理の必要が発生したため当時の役員の指示のもと組織を作りました。業界初となる物件価格連動型の成果報酬課金も企画したりしました。

・事業企画を5年ほど経験したあとは社内ジプシー。コールセンター立ち上げ、組織間調整機能、広告商品開発など毎年違うことやってた。

・2013年ころに当時のアドテクブームに乗っかるような形で、DMPを軸とした新規事業を担当。NabiSTARというHOME'Sのオーディエンスデータを外部展開する形でデータビジネス事業を立ち上げ。今のキャリアにつながるデータの道を歩き始めました。
https://home.nabistar.jp/

・2017年4月、会社がネクストからLIFULLに社名変更するタイミングでCDO(チーフデータオフィサー)を拝命。それまでやっていたデータビジネス事業だけでなく、内部のデータ基盤やデータドリブン文化の推進も行いました。そして今に至る。


さて、前置きが長くなりましたが、ここからが伝えたいことです。

会社をアップデートすることの重要性

・LIFULL(ネクスト)ってどんな会社?と問われたときに、その答えが常に変わっていっていたように感じます。最初の5年くらいは「勢いのあるWebベンチャー」、そこから「ビジョン経営、利他主義の実践」、からの「Well-being推進」という感じでしょうか。会社としての目指すべき世界観(経営理念、ビジョン)はぶらさずに、どのような存在かという「像(ブランド)」を少しずつ変化させていったことはとても重要だったと感じます。

・これは従業員としての視点で見ると、働いていて飽きない、という利点があります。今我々は何を大事にするのか、どんな存在であるべきなのか、というメッセージはそのまま評価体系だったり、目標だったり、企業文化に反映されます。これが一定程度のペースでアップデートされていくというのは、働いている側にとっては常に新鮮で新しい刺激を持っていられると思います。飽きっぽい私にとってはすごく大事。

・採用においても、常に少し先の目線を持っておくことで今後必要になる人材を採用できる、現状の大勢となっている企業観から少しずれたところに自社を置き続けることでユニークなポジションを獲得でき優秀な人材を採用しやすいといった利点もあるでしょう。

・一方で、こういった会社のアップデートは常に行っていないといずれ時代が追いついてくるという側面もあります。その目指すべき方向が正しければ正しいほどいつかみんな同じことを言い始める。当時は珍しかった徹底したビジョン主義も今ではベンチャーから大企業までかなり当たり前となりました。これは自分たちが正しいと信じていた手法が世の中に肯定されたということで嬉しい反面、企業としての差別化という観点ではやりづらくもなります。

・会社においてのブランドと言いますか、「我々は何者なのか」という問いについて常に考え続け、それを悪い意味で陳腐化しないようにアップデートし続けることが、会社が長く発展していくうえで重要と感じました。

Vision is Boss

・次にビジョンです。LIFULLといえばビジョンです。ビジョンは会社としての目指すべき世界観であり、とても大きな方向性となります。上記の問いと少し近いですが「我々は何のために働くのか」という問いがこちらのビジョンの話になります。

・統一された目的のない組織は烏合の衆に過ぎない、とはよく言われますが本当に心からそう感じます。ビジョンが組織を一つにする、というかビジョンがあるからこそ集団が組織としていられるのだと思います。LIFULLでは当たり前のことですが、新しいことを始めるときは必ず最初にチームのビジョンを打ち立てます。それによりまず議論をする上で一番大事な目的、ゴールを明確にしてしまうのです。

・また仕事がうまくいっていないな、チームがうまく機能していないなと感じるときも、ビジョン≒高い目標を掲げることが処方箋としてすごく有効だと思います。短期的な業績だったり、社内的なKPIばかりを追いかけているとどうしてもみんなの目線が下がってきます。目線が下がってくると短期的な改善施策ばかりが生まれてきたり、部署間の個別最適でケンカすることも増えてきます。そんなときは全員が顔を上げて遠くに思いを馳せられるような共通のビジョンを掲げることがすごく大事です。

・高い目標と言っても、それは短期的なノルマや実現不可能な業績目標ではありません。一年とかの短いスパンで期限を明確に切ってしまい、数値として明確に高い目標を掲げてしまうと、むしろ打ち手を狭めてしまいます。効果が高く、効果が出るのが早く、確実性の高い打ち手ばかりが求められるようになるからです。往々にしてそんな夢のような施策はすでに何周も前に実施済みで、その場合は議論が延々と続いたり、確実性を重視してうまくいっても未達成に終わるポテンヒットが繰り返されるか、といった事態に陥ります。

・具体的な数値などなくても、期限を明確に切らなくてもいいのです。定性的でもいいので、チームとして成し遂げたい世界観、「こんな感じにしたい」を大事にしてそれをチーム全員で共有して納得したうえで、そこに向けて全力で走るのが、大きな成長や発展を目指す組織にとっては最速だと思います。

ガイドラインはエッジを立てる

・組織を運営する上で次に大事なのがガイドラインです。クレドという表現をする会社もあると思います。LIFULL曰くのガイドラインというのはいわゆる「行動指針」であり、社員が日々働く上での判断基準だったり優先順位をつけるための考え方になります。

・このガイドラインは長く働いていた自分にとっては細胞レベルで染み付いてしまっていまして、メンバーとコミュニケーションする際も日常的に出てくる言葉になります。個人的に特に好きなのは「一点の曇りもなく行動する」というやつです。グレーを許さず、妥協せずまっさらな白を選ぶ。いろいろとこれによって難しい面もあるとは思いますが、とても「らしさ」が込められていて良いと思います。
https://lifull.com/company/philosophy/

・このガイドラインですが、目指すべき世界観であるビジョンとは違って、そのときどきの情勢に合わせて適宜アップデートされています。ガイドラインは企業文化を表すようなものなので、大きな方向性は変わらないものの言葉尻だったり、優先順位だったり、強弱みたいなものは適宜調整されてきました。LIFULLという会社はすごく社員の意見や思いを尊重してくれる会社なので、ビジョンにしろガイドラインにしろ、全員参加での議論で作っていくことが多いです。出来上がったものに対する納得感を醸成するためにはすごく有効な手法だと思います。

・一方で、この「作成に社員を関わらせる」というのは納得感を持たせるためには有効な手法ですが、関わる人が多ければ多いほど内容が「丸くなる」という傾向もあります。合意形成を目的として、議論に関わらせるからには良くも悪くも意見を反映せざるを得ず、多くの人で磨けば磨くほど角が取れて丸くなっていくのは必然です。

・これは功罪あるよ、という話なのでどちらが良いとかいうことではないですが、個人的には行動指針というのは社員にこうあってほしい、今がどうかではなくできる限りこうしてほしい、という決まりごと、願いを規定するものだと思うので、なるべくエッジが立ったものを、どちらかの選択を迫られた際に選ぶための助けとなるようなものにしていくのが良いと思います。


ブランド、ビジョン、ガイドラインという切り口で、LIFULLで得た会社、組織に関する学びをまとめてみました。
ここからは個人としての仕事観です。

事業家たれ

・自分が仕事をするうえで一番大事にしていることはなんだろう?と考えたときに真っ先に出てきたのがこの「事業家精神」です。ベンチャースピリットと言ってもいいかもしれません。サラリーマンじゃなくて起業しなさいとかそういうことではなく、サラリーを受け取っていてもいいので、今はまだない価値を世の中に生み出すことを仕事として目指そう、組織の中のポジションに関わらず「自分がこの事業の責任者だ」という意識を持ち続けよう、という感じです。

・これは良くも悪くもベンチャー企業に新卒で入社すると自然と備わる気がします。会社が小さいので相対的に職責が大きい。自分と事業の同一化が進む。任された仕事をこなすことで給料をもらうというよりは、自分の仕事で事業を成長させることで生まれた利益の一部を給料として受け取る、という感覚に近いです。

・そういう意味では自分は入社したタイミングに恵まれたとも思いますし、環境としてその後自分で一つ事業を立ち上げられたのもよかったと思います。セールス、プロダクト開発というフロントのマーケティングだけでなく、人やお金といった資源のマネジメントも経験できました。目の前に課された仕事というのは手段に過ぎず、事業を担当しているからには事業を前に進めるという目的を達成できれば何をやってもいい。組織の中の壁やセクショナリズムなんて存在しないということを感じます。

・似たような感覚で「経営者目線」という言葉もありますが、社員である以上はみんながみんな経営者目線はなくてもいいと思います。これはロール/役割の違いなので。経営者は経営をする。従業員は事業をする。自分の事業のユーザーを第一に見て、その人達に価値を提供する。この感覚は職種とか役職とか関係なく、仕事をするからには持っていたほうがよいように思います。

・とかく会社は大きくなってくると社内外に様々な新しい問題が発生しますし、人間関係の調整、事務処理などで時間の大半を吸い取られていきます。そんなときは有名な方々の金言である「成果は外にしかない」「ことをなせ」というのを思い出し、とにかく事業のこと、ひいてはユーザーのことだけ考えるようにしたいものです。

社会課題ではなく人の課題から入る

・事業やサービスを作る上で社会課題の解決に取り組むのは大事です。究極的には会社というものの存在意義はみな社会課題の解決だと思っているので、それでこそ組織として多くの人が集まる意味があると思います。

・ただ、課題の粒度を「社会」という曖昧な主語のままにしていては駄目です。解像度が上がりません。これは弊社において雨後の筍のように発生する新規事業アイディアあるあるなのですが、「社会課題を解決する」というお題目をそのまま受け取ってしまい、そのまま事業アイディアとして考えようとするので、なんというか全体的にバクっとしてしまうのです。結局課題が何か、どうやって解決するのかもよくわからんという。社会は人の集合体であるという大前提に立ち返って、誰の何を解決するのか、主語を人にして課題と事業を解釈し直すのが大事だと考えます。

・これは傾向としては、その問題に対する課題意識が高い人ほど陥りやすい気がします。自分にとってはその問題が当たり前なので、自分が感じている社会の課題をそのまま問題として解こうとする。残念ながらその課題を感じているのはあなただけだし、極端なことを言うと放置されていても多くの人が困っていないから解決されていないわけです。そのメカニズムに目を向けて課題が解決されない原因を解決できるように思考します。

チャンスは掴むもの

・ここからキャリアっぽい話に入ってきます。どうすればやりたい仕事ができるのか論。LIFULLは特に社員の意思を尊重して汲み取ってくれる傾向にあるからかもしれませんが、やりたいことがあったらとにかく周りに宣言しておく、という打ち手は非常に有効です。うちに秘めていても誰も気づかないし、わざわざ聞いてはくれません。

・そしてチャンスが巡ってくるまではとにかく目の前のことを楽しみながら全力で取り組むという姿勢も重要です。単純な仕事で成果が出せない人に難しい仕事は回ってこない。やりたいことが今やれていないという人はこれらの前提に立ってアピールをすると良いと思います。

・また役に立たない経験なんてありません。自分は会社こそまだ一社しか経験していませんが、おかげさまで16年間で様々なポジション、種類の仕事を経験させてもらいました。その中で意味のなかった経験は一つもなかったと断言できます。全部役に立った。目の前の仕事から何のエッセンスも抽出できないとしたら抽象化能力が足りないということを疑った方がよいです。

・最後に、チャンスが目の前に来たら全力で掴む。これです。今の自分にはできないかも、とか尻込みしない。上司や役員は今のあなたの能力が足りないのをわかったうえでそれでも投げようとしている、ということが多いです。自分に適性があれば仕事をしているうちにすぐに器が広がるので目の前に飛んできた面白そうなチャンスには全力で飛びつきましょう。

鶏口となるも牛後となるなかれ

・これはCDOをやっていて最近感じたことなので誰しもに当てはまるとは限りませんが。成長したければその領域での第一人者になる。No.1の元には解き方もわからない複雑な問題が舞い込む。No.2の元にはその人が整えた解けるであろう問題が降りてくる。組織が少人数かどうかではなく、第一人者、先駆者であるかどうかが重要。

・とはいえ、後から追いかけてなにかの第一人者になるのはなかなか厳しい。相当な勉強量を必要とするし、経験となると先駆者を抜くのは現実的に難しい。となると、世の中的に新しいか古いかは置いておいて、自分の所属する組織の中で新しい、誰もまだ取り組んでいないことを始めるのは有効だと思う。未成熟なベンチャー企業にはそういう領域がいっぱいあるし、恐らく成熟した大企業にもそういうまだ取り組んでいない領域がいっぱいある気がする。特定の領域でのパイオニアであろうとすることが、自分は何者なのか、という問いに対する答えに近づく気がします。


という感じで、16年間働いてきて学んだことがこれしかないのか、と言われるともう少しありそうな気がしますが、私自身の経験として実感があり、かつ多くの人に参考になりそうなことをなるべく選んで書き出してみました。

これから働く/働いている世の中の若者やLIFULLの後輩たちにとって、仕事やキャリアを考えるうえで少しでも気づきがあれば幸いです。

最後に私自身の今後のキャリアですが、明日からYahoo株式会社に所属し、データソリューションの事業に勤しんでいこうと思っています。日本をデータで可視化し、より良い社会を作るため全力を尽くしたいと思いますので、これまで以上のご支援、ご協力、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

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