白神山地

10年前の夏

ZONE『secret base~君がくれたもの~』に「10年後の8月にまた会えると信じて~」との一節がある。十年ひと昔とはよく言ったもので、今にして思えばその時の行動一つひとつが今につながっているんだろう。そして今から10年後も……その10年前の夏の旅のお話。

初めて友人と旅に出たのがそのZONEファンだった高校の同級生が旅好き(鉄オタ)ということから端を発し「北海道&東日本パス」(北東パス)を使って夏休みに旅行に行くことに。全く縁のないところを泊りがけで親(親族)に頼らず行くというのは初めての経験。旅程の組み方からすべて手探りで楽しみ半分、不安半分といったところだが、何より未知の土地へのドキドキ感が半端なかった。

さて、北東パスの最大の特徴は札幌~青森間を走る夜行急行「はまなす」に乗車できること。札幌在住の我々としてはせっかくなら内地に行ってみたいし、5日間で行ける範囲ということで、行先は白神山地になんとなく決まった。別にそんな思い入れあるわけではないが、自然も豊かそうだし世界遺産のネームバリューがあったからだろう。あれやこれや思案し、以下の通り行程が固まった。(親に提出する必要もあったし、いま以上に固定された予定を出す必要もあったから、割ときっちり決まってる)

【1日目】札幌~(急行はまなす)(車中泊)

【2日目】~青森~弘前~(バス)~白神山地(西目屋村)~(バス)~弘前~秋田(泊)

【3日目】秋田~(リゾートしらかみ・ウェスパ椿山、千畳敷)~川部~青森(泊)

【4日目】青森~陸奥横浜~大湊~青森~三内丸山遺跡~浅虫温泉~青森~(急行はまなす)(車中泊)

【5日目】~苫小牧~追分~夕張~新夕張~新得~富良野~(ふらの・びえいノロッコ号)・ファーム富田~旭川~札幌

そして夏休みに入ってほどなくしたある日、夜の札幌駅に集合したのであった。はまなすは北東パスでは当時自由席しか乗れなかったので、並んで確保し運良く座れ、目が覚めたら青々とした水田地帯だった。津軽線の車窓である。あぁ日本だと思える夏の光景が見えたのだった。そして弘前駅前のミニストップで腹ごしらえしてバス。観光客は自分たち以外いない中、山道を延々と走る。コンビニすらないような山村の、映画のセットかと思うような古びた役場前でバスが小休止しているとおじさんが話しかけてくる。どこからきた?サッポロか?一度行ったがいい街だった、雪まつりは良いけど雪像はつくりもの的すぎるよな(そりゃ青森だったら今更雪に感動しないでしょうに…)

これまでほとんど北海道と首都圏しかしらなかった自分にとって、夏らしすぎるほどの青空の下で、初めて出会った日本の「田舎」であった。

バスは役場前からさらに山奥に進んだ。ようやく目的地、白神山地の青森側の玄関口に到着。運転手さん の東北弁のリスニングに難儀しながら、延々山道を歩いて暗門の滝にたどりつく。あそこまでの緑深い森に圧倒された。ネットでの写真はあったが、現物を目の 当たりにすると違う。世界遺産というものがどれほど凄いのか、今でも分かっているかどうか怪しいが、それでも世界遺産たるべくその神々しさが、圧倒的な存在感を持っていたことだけは感じられた。

翌日以降も、観光列車「リゾートしらかみ」での五能線の旅や、大湊線での何もない田舎駅でぽつんと2時間降りたり。暑い暑い夏の青森を存分に堪能した。観光地を巡るのもそうだし、全く知らない土地へのあこがれ、探究心というものをいたく刺激させられた。(あげく帰りは新得・富良野・旭川を経由しているし、3週間後には北東パスを使い単独で札幌~東京往復という暴挙に出ている)

なにか具体的なモノやコトをそこまで深く覚えているわけではないが、大げさに言えば、そうした刺激を受けた印象は大変強く残っているし、土地土地の風土を理解するための感性はそうして養われていったのだと信じている。感受性を豊かにする鮮烈な印象や感動は10年後にお金で買えるものではないのである。

高2の夏から始まった旅する楽しみは、その後大学に入るにつれ大きく人生の根幹を形作るほどに昇華するとは、そのころはまだ、露ほどに思っていなかった。




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