ラブライブ!大会には魔物が棲むか
この度、蓮ノ空公式よりnote企画の発表があった。テーマは「“蓮ノ空”と“ラブライブ!大会”」であり、正に104期ラブライブ北陸地方大会及び全国大会を控えたこの時期にふさわしい施策となっている。
締切自体は2025年の2月までなので、当然ながら大会の行く末を見届けているだろう1月以降に執筆するという判断もアリだ。
しかしながら、10月の活動記録第7話と11月の活動記録第8話を読了した私は、「“蓮ノ空”と“ラブライブ!大会”」というこの上ないテーマについて、いまの時点での感想や考察を乗せてひとつ記事を書いてみたいと思った次第である。
12月以降の活動記録と、ラブライブ!大会の顛末によっては、後から振り返って的外れだったり理解が甘いと思われるような内容となっている可能性は大いにあり得るが、どうか温かい目でお読みいただければ幸いだ。
なお、当該note自体はコンテスト企画のレギュレーションに背いている内容(他作品への言及、事実ではない想像による言及など)のため、企画へのエントリーはしていない。
コンテスト企画の最中に、企画に出すわけでもない与太記事を書くという、とんだ数寄者も居たものである。
1 蓮ノ空というプロジェクト内におけるラブライブ!大会のあらまし
最初に断っておくと、そもそもラブライブ!という大会は過去作を含むラブライブ!シリーズ作品内においても、常に明確なレギュレーションやスケジュールが固定されているわけではない。
例えば、無印『ラブライブ!』や『サンシャイン!』では年に2回、夏季と冬季に開催されていたが、以降の作品では基本的に冬季大会のみの開催となっている。
また、時々話題に上がる「大会予選では未披露の新規楽曲によるエントリーを課す」というレギュレーションは、無印の冬季大会から新設されたルールである。
他にも、『虹ヶ咲』2期において東京大会がオンライン開催に限定され、参加校の部員以外が会場に入場できないという開催形式になったことや、『スーパースター!』2期では予選ごとに特定の課題が出されたこともある。
このように、作中世界における大会はその時々に応じて柔軟にルールの追加や変更を行っており、参加するスクールアイドルたちは常にその時々のレギュに対応しながら臨んでいるのだ。
ただし、地区大会→地方大会→全国大会の計3回、パフォーマンス披露の機会があるという点は共通している(地区大会などを「予備予選」と呼称する場合もあるが、名称が異なるだけで内実は変わらない)。
我々が活動を追うことのできた103期蓮ノ空においては、10月の地区大会は参加校多数につきオンラインでのパフォーマンスが主流であり、続く地方大会(北陸大会)では会場での参加を原則としつつオンライン参加も認める形となった。
また、描写的に北陸大会と全国大会のいずれも「Link to the Future」を披露している様子だったが、104期の活動記録内で新曲縛りというルールが撤廃されていることも明言されている。
なお、新曲縛りというレギュ自体が、元々は参加者増に対する“予選”段階での足切り目的による追加ルールなので、”本選”に当たる全国大会ではそもそもこの縛りが無い可能性も考えられる。
このケースだとしても104期の地区大会では新曲縛りが適用され得るので、縛り自体が無くなったことを104期活動記録内でさやかが明言したことは不自然ではない。
特徴的な点としては、学校単位だけでなくユニット単位での出場が認められていることが挙げられる。103期地区大会では、蓮ノ空からスリーズブーケ、ドルケストラ、みらくらぱーく!の3ユニットが参加申請をしている。
このパターンのメリットは言うまでもなく、学校名を背負うユニットをより多く地方大会まで送り出せる可能性があることだ。蓮ノ空のように3ユニットの特徴や個性が明確に分かれている場合は、単純に見積もっても3タイプのファンそれぞれに”刺さる”楽曲・パフォーマンスを発揮できる。
一方デメリットとしては、多人数でしか成しえないタイプのフォーメーションや、大々的なパフォーマンスといった手段を、取り辛くなることが考えられる。
また、不意の事故や体調不良などで各大会の開催日に出場人数が減った際、他のメンバーによるリカバリが利かずそのユニットが辞退となる危険性も拭えない。
最後に審査方法についてだが、これに関しては作中で詳細に触れられていないため、我々には未知の要素である。過去作ではライブの視聴者による投票により決定していた。
103期地方大会にて、蓮ノ空が3ユニット毎の出場から統合1ユニットでの出場に変更の打診をした際に、大会運営から念押しがあったというので、あるいは103期以降に関しては審査員方式である可能性もある。
この場合、参加ユニットが減るということは審査を受けられる機会が減るということに繋がるため、どれか1ユニットでも1位通過できれば蓮ノ空が北陸代表になれるパターンよりも、ハードルは高くなる。
なお、投票方式の場合でも、前述の通り各ユニット毎の色に”刺されて”支持してくれるようになったファン層が、統合後のユニットをそのままスライドして支持してくれるとは限らない点は留意する必要がある。
分散した票を1つに集約するつもりが、箱推しにならなかったファン層が離れたり、あるいは(当人たちにその意図が無くとも)票集約のための小細工を弄したと感じる浮動票が、見切りをつけて他校へ鞍替えしてしまう危険性は付きまとう。
ここまでで既に長くなってしまったが、以上の点を踏まえつつ、我々の知る蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの歩みを、振り返っていきたい。
2 102期蓮ノ空とラブライブ!大会
大賀美沙知、乙宗梢、夕霧綴理、藤島慈の4名が出場した102期大会については、断片的な情報しか公開されていない。そのため、以降の大会よりも憶測に基づく部分が多くなるが、何卒ご容赦いただきたい。
まず部員としては、前述の4人で総員である。101期生で当時2年生の沙知以外に、2年生以上の学年の部員は在籍していない。従って、普段のクラブ活動時には、沙知が3人の後輩とそれぞれコンビを組んで3ユニット兼任するという、とんでもない体制を組んでいたと言う。
振り入れや作詞作曲よりも、ライブの合間の早着替えの方が大変だったなどと宣うスーパー2年生には、驚きを禁じ得ない。
ただし、描写を見るに、ラブライブ!大会へはユニット単位でなく、4人合同の“蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ”として出場したようである。流石に公式大会まで沙知が
3ユニット兼任でパフォーマンスするのは負担が大きすぎるし、Fes×LIVEと違ってMCで場を繋ぐこともできないので妥当と言えよう。
103期地区大会では、同一校からの3ユニット出場の際、曲と曲の合間は入れ替わりと曲名発表くらいしかインターバルが無かった。あの入れ替え時間中に衣装替えや水分補給を行うのは無理がある。
(そもそも同一部員が複数名義のユニットとして出場すること自体ができない可能性もあるが)
結果として、地区大会については危なげ無く通過できたようであり、当時の102期生も手応えを感じられるようなパフォーマンスを披露できた様子だ。
各人のポテンシャルは高いものの方向性は全く異なる102期生たちが、1グループとしてまとまれたのは、全員とコンビを組んで特徴や強み・弱みを理解していた沙知の功績も大きいと思われる。
しかし、続く地方大会を目前に、慈の怪我と沙知の脱退という問題が、同時に発生してしまった。元々部員の少なかった102期のクラブにおいて、メンタル面のみならず物理的な人数の観点でも、深刻な影響を及ぼす出来事である。
4人のパフォーマンスと2人のパフォーマンスとは全くの別物であり、単に振付や歌詞割りを調整するだけで元グループの時と同等の成果を発揮できるわけではないのだ。
ましてや梢も綴理も沙知以外の相手と正式にコンビを組んだことは無く、ここにきて急拵えでパフォーマンスを作り上げる必要性に駆られた形となる。
ラブライブ!優勝という梢の夢には、志半ばで今大会を降りる羽目になった慈と沙知への餞という意味合いも含まれてしまった。
さらには綴理に対する他校のスカウトに対し、「夕霧綴理を擁するスクールアイドルクラブ」としての実績を打ち立てなければならないというプレッシャーも、ここに乗ってくることを忘れてはいけない。
様々な状況が折り重なった結果、梢が取った選択肢は、みなさんご存じの通りだ。綴理のパフォーマンスを際立たせるために、梢がサブに回るようなフォーメーションに、本番直前で変更する。
梢と隣り合ってステージに立つつもりでいたはずの綴理は、裏切られた形となった。
そして幸か不幸か、この2名によるパフォーマンスは見事地方大会を通過し、北陸代表校という実績を学校とクラブにもたらすこととなった。
突然の人数変更とそれに伴う再調整などの困難を乗り越え、この舞台に立てなかった慈たちの分まで持てる力を発揮した──という図式に、傍目には映る結果である。
恐らく大会運営も蓮ノ空学生たちも、敗退していった北陸エリアのスクールアイドルたちも、彼女たちが全国大会辞退を選択するとは思わなかったはずだ。
公式スピンオフコミカライズの『ラブライブ!flowers*』においても、応援していた学生たちが困惑する場面が少し描かれており、「学校には普通に登校しているので、怪我などの理由では無さそう」と言った会話が交わされている(好評発売中の単行本2巻を参照)。
綴理へのスカウトの件を隠している罪悪感。
綴理に匹敵するパフォーマンスに仕上げられなかった己の不甲斐なさ。
その上で、綴理を蓮ノ空に引き留めるべく取った独断専行への自責。
大好きな仲間の怪我。
大好きな先輩の脱退。
大好きな友達による、裏切り。
この状態の梢と綴理が、全国大会のステージに立つなど、土台無理な話である。どのみち、出場辞退は避けられなかっただろう。
当時の慈や沙知にとっても、「この事態を招いた責任の一端は自分にある」という気持ちを大なり小なり抱くことになったと思われる。地方大会突破という対外的なステータスを獲得できた一方で、クラブに残された禍根もまた大きい、そんな102期ラブライブ!大会であった。
余談だが、地区大会と地方大会で同じ学校枠での出場グループから人数だけが変更となっている点については、事情が事情のためか大会としては認可されている。
ただし前項で考察した通り、少人数での出場だと緊急事態で人数減となった際の影響が大きいというネックは、ここでも見受けられる。
3 103期蓮ノ空とラブライブ!大会
春季の時点では、乙宗梢、夕霧綴理、日野下花帆、村野さやかの4名が部員。夏季からは大沢瑠璃乃が加入し、藤島慈が復帰したことで、計6名が最終メンバーとなる。
我々が本格的に活動をリアルタイムで追えるようになるのは、この年度からだ。
みらくらぱーく!が入るまでは、昨年同様4人という少人数体制。また瑠璃乃を含めた新入部員は、ラブライブ!大会に関する知識は薄く、歌やダンスの経験も無い、まっさらな新人と言える。
基本はユニット単位で活動をしつつ、Fes×LIVEなどでは全体曲も披露する機会がある、というのがクラブとしての大まかな方針だろう。それに伴い、103期ラブライブ!地区大会においては、3ユニットがそれぞれエントリーするという形となった。
人数が増え、先輩1人が他ユニットを兼任していた昨年度と比べればユニット活動の制約が少なくなったことから、このような出場形式を選択する余地が生まれたものと思われる。
また、物理的な事情とは別に、春から夏にかけて地道に活動を続けてきた3ユニットが、各自の持ち味を発揮し切磋琢磨することの意義を、後に梢が花帆に説いている。
そうして迎えた10月の地区大会では、みらくらぱーく!が『ノンフィクションヒーローショー』、ドルケストラが『KNOT』、スリーズブーケが『千変万華』を順番に披露し、見事3ユニットとも通過を勝ち取る結果となった。
楽曲やパフォーマンスの良さを語り出すと際限が無くなるためここでは割愛するが、いずれもユニットの個性が全面に押し出された楽曲だったことは間違いない。
みらぱ推しに刺さる曲、ドルケ推しに刺さる曲、スリブ推しに刺さる曲で勝負に臨むという、ユニット単位出場の強みが功を奏したと言えよう。
その次に控える地方大会では、またしてもクラブに難関が立ち塞がることとなる。元々、内部で対立を続けていたという蓮ノ空理事会において、保守派に属する派閥が生徒の不要不急による外出を制限したり、インターネット回線の使用を規制したりという強硬策を進めたのだ。
ユーザーの間では主に“規制派”と呼び親しまれて(?)いるが、本質的には「自然豊かな山奥で勉学や自己研鑽に励める環境に居るのだから、まずはそれらを充実させるべきでありネットや外出にばかり傾倒するのは考え物では」という主張の派閥らしい。
梢もそれ自体には一定の理解を示しているが、今回は沙知も言う通り性急に過ぎるやり方が問題視された次第である。
スクコネによるWith×MeetsやFes×LIVEの配信を中心に活動していたクラブにとって、ネット規制は現在だけではなく、後々まで影響の及びかねない問題である。
地方大会への出場自体は、直接会場へ赴いてパフォーマンスする形でも支障はないのだが、クラブとしては「ネット配信によって様々な人と繋がることの意義」を規制派に示すというミッションを立てるに至った。
そして、ネット規制という目に見える壁とは別に、精神的な部分に関わる壁も実際には発生していた。地方大会を通過し北陸代表の看板を背負えるのは良くて1ユニットであり、敗退した2ユニットはここで103期ラブライブ!大会の表舞台から姿を消すことになる、という事実に、花帆や瑠璃乃は向き合い切れていなかった。
論理的に考えれば自明の理なのだが、いかんせん両名ともラブライブ!大会については素人であり予備知識があまり無かったのに加え、このことを地区大会エントリー以前の段階で梢たち2年生がきちんと説明していなかったため、ここに来て尾を引く形となったのだ。
ユニットで出場する意義は前述の通りここで梢が花帆に諭しているものの、元々クラブみんなで花咲きたいという想いを抱く花帆には、同じクラブ内で遊びではない本気の対決をすることに、どうしても積極的にはなれない。
瑠璃乃については活動記録中では取り上げられていないが、「[Link to the FUTURE]藤島慈」の特訓ボイスで慈が瑠璃乃を案じる形で言及している。さやかだけは特段このことについての葛藤が描かれなかったが、元々競技者の世界に身を置いていたことから「一緒に励む仲間同士がライバルとなり勝敗や優劣を競い合うこと」に慣れているものと思われる。
取り巻く状況は全く異なるものの、奇しくも102期と同様に「物理的な課題(怪我、部員減/ネット規制)」と「メンタル的な課題(綴理を蓮ノ空に引き留めたい/部員同士で勝敗を決めたくない)」という2つのネックを抱えた図式となった。
前者については、クラブを応援してくれるファンたちからデータ通信量をカンパしてもらうというウルトラC的な手段で、ぎりぎり配信ライブを行えるだけの通信料を確保。
後者については、出場枠を3ユニット毎から1ユニット(名義は「スリーズブーケ&ドルケストラ&みらくらぱーく!」)に変更し、一丸となって大会に臨むというスタンスへ、切り替える決断に至る。
ユニット統合にメリットだけでなく、デメリットもあることは、前述した通りだ。パフォーマンスを披露できるのは全体曲1曲のみになるため、そこでファンを惹きつける、または審査員を唸らせるだけの実力を見せつけなければならない。
蓮ノ空の全体曲には、『永遠のEuphoria』のように王道の楽曲、『On your mark』のようにカッコいい楽曲、『Yup! Yup! Yup!』のようにポップで楽しげな楽曲も揃っているが、スリブ・ドルケ・みらぱの3ユニット分の個性と魅力を同時に伝えようとすると、途端にハードルは上がる。
本番直前まで波乱に満ちた状態で迎えた103期地方大会で、「スリーズブーケ&ドルケストラ&みらくらぱーく!」が披露したのが『Link to the Future』である。
ユニットごとに歌唱パートが分かれる形で進行するこの曲は、単なるパート分けではなく曲調や歌詞まで各ユニットの色を強く押し出しており、さながら1曲の中でメドレーをしているかのような印象を与える。
1曲ずつ完成しているユニット曲を3つメドレーするならまだしも、同じ曲の中で曲調を次々変えながら歌い継ぐというのは至難の業と言える。さらにはその上で、サビなど全員歌唱部分においては特定ユニットの色が目立つことなく混じり合い、“蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ”としての色合いが伝わる曲調に仕立て上げているのだ。
そして、歌詞に込められた想いも、スクリーン上に過去のライブ映像を映し出しつつ幕が下りると同時に新衣装をお披露目する演出も、“繋がり”というテーマをしっかり伝えている。
蓮ノ空に数多の楽曲はあれど、神業的なバランスの完成度という意味では『Link to the Future』に比肩する曲は無いのではないかと、個人的には思う。
「あくまでユニット対決も観てみたかった」という意見は時々目にするし気持ちも分かるのだが、それはそれとしてこの楽曲自体はほぼ満場一致で評価されているのではなかろうか。
そしてこの曲は、この103期のシナリオ展開だからこそ生まれた産物であることも、疑いようがない。
さておき、蓮ノ空は見事地方大会を通過し、北陸代表校として全国大会へのチケットを掴むことに成功した。ネット配信を通じた繋がりをフル活用して獲得した北陸代表という栄誉は、規制派を黙らせるのに十分な実績になったことと推察される。
そして間断空くことなく、年明けの2024年1月初旬には、ラブライブ!全国大会が開催された。我々がこの大会の詳細を観ることは叶わず、ただ「敗退」という結果だけが示されることとなる。
慈の発言を鑑みるに、何かミスやトラブルがあったわけではないとのことなので、ただ単純に全国大会のステージで、蓮ノ空を上回るスクールアイドルが存在した、ということであろう。
慈はスクールアイドル活動に関してはストイックなので、パフォーマンスの完成度に課題が残っていたならばきちんと言及するに違いない。
地方大会に続き『Link to the Future』を披露したものと思われるが、この楽曲のパワーを以てしても優勝には至らなかったというのが、全国大会のレベルの高さを物語っている。
同じ曲を歌ったから初回ほどの新鮮さが無かった、という推測もできるが、一方でいわゆる「何度でも聴きたい名曲」「この曲を聴きに来た!」という需要も存在することは、我々オタクならば重々理解できることだろう。
結果は102期同様、地方大会突破止まりとなったが、103期の1年を通してクラブの活動は学校内だけでなく金沢市内にまで広く浸透していた。花帆は途中敗退となったことを憂いていたが、金沢の人々はクラブの活躍を祝い、努力を労い、喜びをくれたことに感謝の言葉を返してくれた。
またクラブ内においても、お互いの気持ちを確かめ合ったり、意見が衝突しながらも理解を深め合ったりと、着実に次年度へ向けての機運醸成に繋がった大会と言える。
4 104期蓮ノ空とラブライブ!大会
新たに1年生の百生吟子、徒町小鈴、安養寺姫芽の3名が入部し、9人体制となったスクールアイドルクラブ。奇しくも、梢がかつて憧れを抱いたスクールアイドルグループと同じ人数編成である。
ユニット編成としては既存ユニットに1名ずつが加入する形となり、吟子がスリーズブーケに、小鈴がドルケストラに、姫芽がみらくらぱーく!に所属する。
Fes×LIVEなどでは新曲のみならず、既存曲の歌割を再編成したバージョンや、曲調そのものを新規にアレンジしたバージョンの楽曲も披露されるようになり、「形を変えながら受け継がれていく伝統と想い」というテーマが今期のクラブの柱にあると窺える。
また、今年はあらかじめ梢が出場に際して意向確認を部員に配っており、昨年とは違ってどういう形態で出場するかの合意を取っていた。結果、今回はユニットではなく蓮ノ空として1枠での出場を最初から決め打ちし、改めて優勝に向けて邁進していくことを選んだのである
さて、102期・103期は比較的危なげなく突破できた地区大会だが、104期ではこの時点で課題に直面することとなる。今年は予選における新曲縛りが撤廃されたことが明示されており、クラブは前年の地方大会突破曲である『Link to the Future』を、9人バージョンとして披露することを決定した。
前回、一番先まで到達できた楽曲を、今年最初の予選に持ってくる。これは、続く地方大会、全国大会においては、去年の自分たちを超えてみせるという、ある種背水の陣に近い覚悟と言えるだろう。
しかしながら、104期生にとってこの楽曲は、習得難易度の高いものであった。全体曲自体は『Dream Believers』などで経験があるものの、前述の通りこの曲はユニットパートの切り替わりが持ち味の一つとなっており、そこを違和感なく繋ぐのに見た目以上のハードルがあると言う。
また、103期の6名はユニット統合出場を決定してから、「急ピッチで楽曲制作に取り組んだ。失敗すればラブライブ!どころか今後のクラブの進退にすら響きかねないというプレッシャーもある中で、正に死に物狂いでレッスンを重ねて、ステップやフォーメーションを体に叩き込んだものと推察される。
当事者として『Link to the Future』の誕生経緯に携わった先輩たちと、それを情報としてしか知らない104期生では、習熟度合に差が出るのは仕方ないことでもあった。
ユニットパート自体は各自そつなくこなせていることから、問題は3者の息が上手く揃わないことだろうと睨んだ104期生は、通常のユニットレッスンや全体レッスンとは別に自主練を行うことを選ぶ。
また練習だけでなく、102期・103期生に勝負(?)を挑むことで、先輩たちの強みや魅力を再認識しつつ自身に足りないものを探るという、別方向からのアプローチも行っていった。
こういった方面のトレーニング描写は103期ではあまり描かれなかったが、実際には特筆するようなことではなく、どこのスクールアイドルも多かれ少なかれ抱えている課題なのかもしれない。
むしろ、根本的な体力不足が当初の課題だった花帆や、長時間元気を振りまいてステージに立つのが苦手な瑠璃乃ですら、技術的な側面で壁にぶつかる描写は目立たなかったのだから、103期生のポテンシャルの高さが窺えるというものだ。
(花帆などは「梢センパイに全然追いつけない」という旨の発言を度々しているが、技術不足が活動記録内で取り沙汰されたのはせいぜい103期最初期の1週間ライブくらいである)
先輩だけでなく外部の人間からのアドバイスも受けて自主練を積む内に、衝突やすれ違いがありながらも、お互い強みだけでなく弱さも認め合おう、という根幹のポイントに行き着いた104期生。
3人ともが、優しく他人を慮れる気質の持ち主だったが故に、良い所探しは得意でもダメな所の指摘はできなかった点。また、自分の弱さを自覚しつつも、表に出すのが怖かった点。
いずれも人として普遍的な悩みであり、それ自体は決して悪いことではないとはいえ、ここにメスを入れなければ次のステップへ進めなかったことだろう。元々、年度の当初から仲良しではあったが、さらにそこから気の置けない仲になれたことと思う。
1年生たちがひとつの試練を乗り越えた先に行われた、104期地区大会。蓮ノ空はかねてから宣言していた通り、『Link to the Future』を9人で披露した。
繋がりをテーマにした楽曲であり、伝統と想いを次へと受け継いでいく104期の方針にもマッチするこの曲を、新たな繋がりである1年生たちを加えて歌唱する。
当人たちはもちろん、ライブを見守る我々ですら、もはや結果を疑わなかったことだろう。蓮ノ空は無事に地区大会を通過し、12月の地方大会へと歩を進める結果となった。
ちなみに地区大会エントリーライブを行った10月度Fes×LIVEでは、『Link to the Future』とは別に新規の全体曲である『Now or Never』も披露された。こちらも視聴者から好評を博しており、「既にラブライブ!でも通用しそうな楽曲を2曲も切っている今年の蓮はヤバい」と言った感想が見受けられる次第だ。
11月23日現在、ラブライブ!大会に関する活動記録上での情報は、ここまでとなる。
5 敵は内に有りや、外に有りや
……地区大会の顛末自体は以上となるが、10月の活動記録ではそれに加えて、重要な人物たちが登場していることを見過ごせない。
104期生にアドバイスを与えた”外部の人間“こと、桂城泉。
花帆の入院時代の友達”せっちゃん“こと、セラス・柳田・リリエンフェルト。
活動記録のエピローグで、この両名には繋がりがあり、なおかつこの先ラブライブ!全国大会で蓮ノ空と覇を競うことになるだろう、という事実が示唆され、騒然となったのは記憶に新しい。
泉は1年生ながら大人びた雰囲気を醸しており、スラリとした体躯と抜群のダンスパフォーマンスを備えた逸材である。観察眼に秀で、指導役の適性があるのも強みだ。
1年次の時点で目を引くような風格を漂わせているという点では、1年生当時の綴理を髣髴とさせる。
セラスは名前とルックスから見て取る限り、外国の血を継ぐと思しき少女。花帆の言によると「来年から高校生」となる中学3年生で、実際制服に“瑞中”という校章が確認できる。
パッと見は近寄りがたい印象だが、花帆の妹たちと仲良さげに接したり学祭の出店を満喫したりと、意外に気さくなようにも見える。
初登場時から3Dモデルのあった泉と違って、セラスはエピローグまで姿も本名もぼかされており、公式サイドからして意図的にミスリードを狙ったものと推察される。ユーザーの大多数は、“せっちゃん”をれいかさんやABCトリオのようなサブキャラ枠だと思っていたことだろう。
この2名、103期以前には大きくスポットの当たらなかった、いわゆるライバルポジションに当たるスクールアイドルとなる。
103期では縁日で梢にスカウトの手紙を寄越した他校生が登場したが、その後活動記録の表舞台に立つことはなかった。
102期についてはゲーム本編ではなく、『ラブライブ!flowers*』において、やはり梢の幼馴染である片城澄奈という他校生が描かれたものの、あくまで脇役に留まっている。
103期の蓮ノ空にとっては、自分自身の内面であったり、部活動を脅かす理事会派閥であったりと、蓮ノ空の内部に属する物事こそが目下克服すべき対象であった。
ここに来て、今度は同じ夢の舞台を目指して競い合う、他校のスクールアイドルの存在を、否応なく意識せざるを得なくなったのである。
行うこと自体は、今年も去年も一昨年も変わらない。持てる力を存分に発揮し、最高と思うパフォーマンスをステージ上で披露するだけだ。
懸念となるのは、“せっちゃん”が出場するなどとは夢にも思っていないだろう花帆が、彼女とどう対峙するのかという点である。
普通に考えると、中学生のセラスは大会の出場要件を満たしていないが、過去にも『スーパースター!』のウィーン・マルガレーテが海外の入学時期の関係で高校生として出場を認可されたケースがある。
また、仮にセラス本人は出場せずとも、何かしらの形で泉や彼女の属する学校のスクールアイドル部に関わっているという可能性もあるため、予断は許されない状況だ。
103期において、仲間同士で勝敗を競うことを憂いた花帆が、よりにもよって今でも家族ぐるみの付き合いがある幼馴染を相手に、大会へ臨まなければならない。
しかも、神の視点で活動記録を読んでいる我々にすら詳細不明ではあるものの、泉とのやり取りから察するにセラスは何かしら事情を抱えている風でもある。
その一方で、今回の大会は梢たち102期生にとっては最後のラブライブ!であることも事実だ。103期1月、全国大会敗退後の活動記録において、花帆は梢の真意を知り、彼女を隣で、部のみんなと共に支えながら優勝を目指すと決意した。
その決意そのものが揺らぐことは無いだろうが、とはいえ一心不乱に優勝目指して邁進するだけでよかった大会から、これより先は性質が変わってくるのは間違いない。
外なる敵のみならず、内なる敵とも向き合う必要があるのは、今年もまた変わらないであろう。この先の活動記録が、今から楽しみでならない。
6 ラブライブ!大会には魔物が棲むか
ラブライブ!とスクールアイドルは、しばしば高校野球に例えられる。高校3年間だけ打ち込める青春のきらめきであり、社会人のプロと比べて未熟であっても、努力と情熱が観る者を魅了する。
卒業後に同じ道を進む者も居れば、すっぱりと離れて違う分野へ進む者も居る──こういった点が、共通しているとされる。
そんな高校野球の定型文句として、「甲子園には魔物が棲む」という類のフレーズを耳にしたことがあるのではなかろうか。
序盤戦は悠々と勝ち進んできたチームが突然エラーを連発するようになり大敗を喫したり、怪我や体調不良を抱えたわけでもないのにエースピッチャーが実力を出せなくなるなど、予期せぬ悪い状況が起こることを魔物の仕業と称したものだ。
魔物が嗤う原因は、知らず知らずのうちに当事者の内面に蓄積されていたプレッシャーやストレスが閾値を超えたケースや、対戦相手校のベストコンディションと自校のバッドコンディションが本当に奇跡的にかち合うタイミングだったケースなど、様々である。
では、ラブライブ!というスクールアイドルの大会においても、魔物は潜んでいるだろうか。個人的には、人の運営する大会であり、感受性豊かな高校生たちが己を磨いて出場する競技である以上、いつ魔物が嗤ってもおかしくはないものと考えている。
これは穿った見方になるが、102期蓮ノ空が地方大会を突破できたことこそが、ある種魔物の仕業と言えるのではないかと、当記事を書くにつれてうっすら感じ始めた次第だ。
102期の項で述べた通り、慈と沙知が舞台を降り、梢と綴理だけが残されたスクールアイドルクラブ。
その綴理に他校からのスカウトの話が持ち掛けられ、廃部の危機を乗り切るためには2人で大会を勝ち上がらなければならなくなった梢。
しかし隣に並ぶだけの力がなかった梢によって、独りのステージに立たされることになった綴理。
普通に考えて、メンタル面のコンディションは最悪に近く、とても平静にパフォーマンスできるような状況ではないだろう。
綴理に至っては本番当日、いきなりステージ上で梢がフォーメーションを変えてきたのだから、動揺しないはずがない。またしてもコミカライズの描写になるが、102期地方大会のステージ上で明らかに衝撃を受けている様子の綴理の表情が、描かれてもいた。
ところが、この稀に見るバッドコンディションで臨んだ地方大会を、なんと蓮ノ空は突破してしまったのである。
ひとえに夕霧綴理がステージ上で放つカリスマ的な存在感と、それを最大限引き立たせるフォーメーションを短期間で組み上げ実践した乙宗梢の、高い実力あってのことだろうとは推察できる。
しかしこの勝利は、栄光の喜びをクラブにもたらすことなく、綴理と梢の間に致命的な断裂を残す結果には変わりなかった。
審査員方式・投票方式のいずれにせよ、綴理が(事実上)独りで立ったステージが高く評価され、他のスクールアイドルたちよりも優れていたと証明された形だ。これが綴理にとってどんな意味を持つのか、今の我々には察するに余りある。
「甲子園の魔物」は通例、強豪が予期せぬ敗北をした際に使うべき表現であり、困難を乗り越えて勝利したチームにこの表現を持ち出すのは失礼にあたることは重々承知している。
ただ、102期地方大会の顛末に限っては、ラブライブ!の魔物が嗤ったと言って然るべき結果だったのではないかと思い、今回記事のタイトルにも据えた次第だ。
この先に待つ104期地方大会、並びに全国大会において、魔物が再び動き出すことなく、蓮ノ空の誰にとっても悔いのない舞台となること、心より願っている。