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純ワイワイ談

ひどく蒸し暑い夏の日。

私は友人とお酒を飲んでいた。

学生の頃からの、久しぶりの再会。
思い出話に花を咲かせ、お酒も進んでいた。



いい具合に酔っ払った午前0時過ぎ。
私は終電を逃していたことに気づいた。


店を出ると、こんな夜中だと言うのに、じっとりとした嫌な暑さが肌を覆う。


「終電…なくなっちゃったね。」


友人がぽつりと呟いた。



「そうだね…。どうしようかな。」


私は困った顔をしながら答えた。

空を見上げても星は見えない。
月には雲がかかっている。


私の肌にまとまりつく湿度は、夏の湿気のせいなのか、汗のせいなのか、わからなくなっていた。



「うち近いけど、くる?」


友人の言葉に、胸が少しだけ鳴った。

「その言葉を待ってたの。」という台詞は唾液と一緒に飲み込んで、「いいの?」と問いかける。

「いいよ。おいで」

一人暮らしの友人の家。
ドキドキするななんて言う方が、野暮なんじゃないだろうか。



高まる鼓動を抑えたいのに、歩数と共に息が上がる。

途中でコンビニに寄って、少しのお酒とお菓子を買った。




「どうぞ、散らかってるけど」


友人の言葉の通り、家は少しだけ散らかっていた。
それが、隙を見せてくれたみたいで、私はなんだか嬉しかった。

「飲み直そう」

友人が言って、缶ビールとほろ酔いで乾杯する。



歩いているうちに少し酔いが覚めてしまったいた私は、ほろ酔いをゴクゴクと喉に流し込む。

学生時代からの友人と、朝まで一緒。

もう少し、酔いたい気持ちだった。
だけど、酔いすぎたくない気持ちでもあった。


「マリカーでもする?」

「…うん。」

私と友人は隣同士に座りながら、コントローラーを手にする。

私はピーチで、友人はキノピオ。

3.2.1 GO

勢いよくレースが始まる。



私は昔からマリカーをするとき、ハンドルと一緒に体が動いてしまうタイプだった。

右左に曲がる度に、動く体。

隣にいる友人に、ノースリーブから露出した肩がぶつかる。

私も友人も汗ばんでいた。
肩が触れる瞬間、まるでその部分だけが溶けて融合しているかのように錯覚してしまう。

テレビモニターの中で踊るカート。
ときおり触れる肩。
私の下手くそな運転。
それを見て笑う友達。


どのくらいの時間が経ったんだろう。

「運転、乱暴なんだね。」

息が切れる私。


金魚鉢の中でくるくると回る2匹の金魚。
赤や白の鱗が、照明を反射して眩しいほどに光る。

私と友人が放つ熱気で、開けっ放しで放置されていたポテトチップスが湿気ていく。

興奮で紅潮した頬に、冷房が冷たく触れる。
私はスキニージーンズの中まで汗をかいていた。


「そろそろ…寝よっか。」

「…うん。」


シャワーも浴びずに布団に潜りこむ。


きっとカーテンの向こうでは、今も月が雲に隠れているんだろう。





翌朝、一糸乱れぬ姿で目を覚ました。

「始発、動いてるね。」

「…うん。」

「楽しかったよ、また遊ぼう」

「うん、ありがとう」

そう言って友達の家を出る私。

玄関を出た瞬間、眩しい太陽が目を焦がした。

今日からまた、日常が始まるーーーー。


これが、私の純ワイワイ談。
ただ女友達と酔っ払ってマリカーしてワイワイしただけの、思い出話。

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