映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」

物事が上手くいかなかった時や、何か物憂げな気分が胸の中に溜まっていくような感覚の日は決まって走っていた。ペース配分なんて気にもせず、玄関を飛び出すように全力疾走をした。

中・高と毎日部活に打ち込むことが出来ていた体力はどこに行ったのかという気持ちと今にも吐いてしまうのではないかというような息切れと共に、それまで抱えていた憂鬱はどこかに置いていったような感覚を得られた。

自分を全力疾走させた要因は全く解決せず、むしろ思考放棄したヤケクソとも捉えられる行動は、決まって荒んだ心を晴れやかにした。

ガチャガチャメーカーに勤めるサラリーマン田西は、仕事では営業成績を全く上げられず、プライベートでも29年間で異性との交際経験がなく、公私共に冴えない生活を送っていた。

そんな田西は、社内で密かに憧れ続けていたちはると、とある飲み会がきっかけで急激に距離を縮める。

そんな人生の中でのビッグチャンスも、男さながらの一瞬の欲望に負けたことでちはるに振られ、ちはるは競合会社のイケメン社員青山と付き合った後で振られてしまう。

ずっと思い続けた女性をぞんざいに扱われて、黙っている男なんて居るか。今までうだつの上がらない生き方をしていた田西もちゃんと男だった。激昂した田西は、青山に決闘を申し込んだ。

作中で田西への幸せなんて何一つ存在しなかった。物事が思ったように進むことなんてことは一切なかった。映画の世界だったとしても。

けど田西は走った。ずっと想い続けた女性のために。一心不乱に走っても何も変わらない事なんて田西自身が一番分かっていたと思う。けど走った。走る以外に選択肢は無かった。銀杏BOYZと共に。

世の中にはどう見てもダサい人間とは存在すると思う。主観ではなく客観的に見ても。

目下の人間には高圧的な態度を取るくせに、上の人間には媚び諂うように接する人間。飲食店で店員に高圧的な態度を取る人間。周りの事を全く考えずに、自分だけが楽しめれば良いという人間。

上の具体例には自分の主観で書いてしまったが、田西の様な世間的にダサいと見られやすい人間が、自分の絶対に譲れない部分の為に負け戦に臨む姿にダサさなんて微塵も思わなかった。

只々格好良かった。だからこそ現実そのままを描いたような結果には悔しくなったし、自分事のように腹が立った。

だけど田西の笑顔を見たらどうでも良くなった。憧れの気持ちの方が強くなった。

今までどんなにダサくて、惨めで、情けない生き方をしてきたとしても、変わろうとする人間には尊敬をすることしか出来なかった。




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