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"食”の売り場の未来

都市空間と売り場の関係

食について考えるときに作る場所、食べる場所の他にも『売る場所』という視点から考える事ができる。これまで、「食を売る」という行為は、都市空間と大きな関係を持ってきた。

東京は鉄道によって発展したが、戦後、池袋、渋谷、新橋、神田、上野など、都心近くの主要駅周辺に闇市は開かれ、やがて郊外の駅前、道路沿いにも出現した。現在も闇市の名残は商店街などへ姿を変えて残っている。チェーン店の駅前への出店は、同じような風景を作り出した。

経済成長に合わせて24時間営業のコンビニがどこにいっても目に入るようになり、オフィスが乱立する都市の足元ではフードトラックが出店するようになった。そして現代ではIT技術を活用し、家からスマホのボタンひとつで食べ物が届くことを知らない人はいないだろう。都市空間や技術の発達によって「食を売る」という行為に新しい形が加わってきた。


今回のCOVID-19によって新たな形が加わるのではないだろうか。COVID-19を踏まえて今後の食の売り場の未来を考えてみようと思う。


現代の都市と売り場の関係

①オフィス周辺の公開空地

現代社会と“売る”の関係はどのような場所に見られるだろうか。その1つとしてオフィス街の公開空地を取り上げたいと思う。東京都福祉保健局の「食品衛生関係事業報告」の調査報告によると、東京都で営業許可を取得したフードトラック(キッチンカー・移動販売車)の数は毎年右肩上がりに増加しており、ランチタイムにオフィス周辺にはフードトラックが集まる。

出前市場推移規模

なぜ急増?ビジネス街ランチ難民の救世主「フードトラック」 —— 私たちはコンビニ飯に飽きている


オフィスビルは容積率(敷地面積に対する高さの割合)を確保するためにビルの前に公開空地と呼ばれる空き地を確保する。アスファルト地面の寂しい公開空地は、今まで全く利用されてこなかった。

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またオフィス街は地価が高く飲食店が出店するにはハードルが高いため、オフィスワーカーたちは昼食をコンビニ弁当しか買えないという状況も生まれている。移動可能なフードトラックが、公開空地に集合しサラリーマンのランチの選択肢を増やしているのだ。これは都市化する空間に対して“売る”という行為が柔軟に対応した例ではないだろうか。(※2)

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②移動する売り場

飲食店といえば、人通りの多いところに出店しその地域の根付いて愛されていくようなイメージがある。しかし、移動販売車は自由に移動し食を売るような形態である。筆者の地元では、自転車でパンを売るおじさんが子どもから高齢者まですごく人気があった。また出前をとる文化は昔からあったが、UberEatsや出前館などの宅配プラットフォームができたことによって家で出前をとる人が増加している。

今までは、飲食店の売る場所=作る場所でもあったのだが、出前プラットフォームの出現によって必ずしもイコールの関係ではなくなった。ゴーストキッチンと呼ばれる飲食席を持たずに、作る事に特化した店舗や、飲食店の使わない時間を利用した間借り、シェアキッチンなどが生まれた。(※3)ここで注目したいのは売る場所≠作る場所の関係が増加している事である。

東京都で営業許可を取得した調理可能移動販売車の数


<外食・中食 調査レポート>成長する出前市場、2018年は4,084億円で5.9%増



③道路占用使用許可の緩和

以前から議論されていた道路占用使用許可について,COVID-19の影響によって緊急緩和された。(詳しくは都市戦術家の泉山さんがまとめているのでこちらが分かりやすいと思います)簡単にいうと、これによって道路などの公共空間を飲食店側がより利用しやすいようになった。個人は食べる場所を自由に選べる可能性がある。個人の3密(密閉、密集、密接)を避ける意識が、海外のような公共空間を積極的に利用することにつながっていくのではないだろうか。

また前述の売る場所≠作る場所となったことと、公共空間を利用した飲食可能範囲が広がったことで、“売る”場所にも変化が起こる可能性は十分にある。


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現状の整理

1)都市化の余白にできた売り場(フードトラック)
2)宅配プラットフォームによって広がる売る場所≠作る場所の関係
3)売る場所≠作る場所を加速させる道路占用使用許可


考察

“売る”場所に着目すると、多様性や市場の拡大により競争率が激化し、マスを狙った駅周辺からより小さなマスを狙った販売戦略へと変化している。売る場所≠作る場所となった事や飲食市場の拡大とテレワークの普及などによって、今後さらにニッチな領域を狙ったものが考えられる。

職住分離型で住居から職場まで公共交通を利用して通勤するのが当たり前であったが、COVID-19の拡大からわかったように緊急時には職住近接の状態がリスクを減らす事がわかった。今までのランチはオフィス周辺で週末の夜は住宅周辺などと言った分かりやすいターゲットの設定が難しくなる可能性があるだろう。昼でも住宅周辺や公園などで気持ちよく食べたいと言った人も出てくる可能性は大いにあり、駅周辺や繁華街など人が集まるところ以外にも売り場の可能性は広がった。

今まではOOで食べなければならないだったが、これからはOOで食べたいという、欲求を満足させる条件が整ってきた。今後はさらに住宅街や公共空間周辺の隙間にに売り場が進出するのかもしれない。


参考記事
闇市の面影を残す街~終戦直後に誕生し数年で消えた東京の闇市の今
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(文責:西)


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