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蔵書スキャンのために、ScanSnap iX1500はアップグレードすべきマシンであるか、どうか。

ScanSnapの新型、iX1500について、古書を中心としたスキャンをさっそく2000枚、4000ページほど行ってみたので、そのレビューを行ってみる。


このレビューは私のように、ビジネス文書だけではなく、書籍の保存を中心としてScanSnapを利用している方に向けて書いてみたものだ。なのでビジネス文書とか、クラウド連携とか、家庭の整理整頓とかの話はここでは触れない。UIの話も言いたいことはたくさんあるが、それもいったん省略する。ちなみに私はこれまで5000冊程度の書籍や雑誌をS500の時代から、歴代のScanSnapを乗り継いでデータ化してきた。なのでその実績を踏まえて、このレビューでは書籍や雑誌のデータ化のみの使い方に着目する。


さて書籍の大量読み取り用マシンとして据え置き型のScanSnapを使い続けてきたユーザーにとって、iX1500は買い換えるべきモデルなのかどうか。



まずその前提として「iX500というモデルは書籍のデータ化スキャナとして、あまりにも完成度が高すぎた」と言う実感が多くのユーザーにはあるだろう。もちろんその細部の使い勝手には問題点はあったにしても、歴代のScanSnapの中でもiX500は極めて完成度が高いマシンだった。読み取り性能の良さと高速化、加えて給紙ローラーの耐久性能、読み取り機構周囲の汚れづらさなどが、iX500の登場でこれらの性能が格段にバージョンアップを遂げた。長くiX500を使い続けているユーザーもこれらの点には満足しているのではないか。


なので「6年ぶりの新モデル!」と言われても、実際にところメーカーとしてはこれ以上、どう性能を向上させたらいいのか分からなかった、それじゃタッチパネルでも付けておくか、くらいにしか考えられてないバージョンアップなのではないか、と邪推してしまうほどだ。特にこのタッチパネルの新規搭載は「これまでボタンひとつでだけで操作が可能に」を実現していたのに、複雑な操作が増えてしまうのでは?と戸惑う既存ユーザーも多いだろう。



まず実際の読み取り性能について。iX500の最大の問題点は、カラー画像が暗く読み取れてしまう点だろう。同じソフトウェアを使ってもこれまでのScanSnapハイエンドマシン、そして非接触型のSV600は数段、カラー画像の読み取りが美しい。なので私は雑誌類はSV600を使い続けてきた(よって作業効率が悪くて困っていた)。


気になるこの点については、iX1500は「ほんの少しだけ」改善している。一般的なビジネス文書では気にならない程度、古い雑誌のグラビアの読み取りなら、やや気になる程度、美術書の読み取りなら「やっぱりSV600を使っておこう」という程度。iX500<iX1500<SV600、という順でカラーページの読み取り性能を比較することができるだろう。


読み取り速度について。これはiX500に比べて、速い。体感としては20%くらい速く、するする読んでくれて効率的だ。特にiX1500のハードウェアとしての良さを最も実感できるのは、給紙が極めて安定していること。重複送りが格段に減って、これまで問題が多かった古書の読み取り、特に紙厚の薄い新潮文庫の読み取りが格段に向上した(実際、2冊読み取ったが、重複送りは皆無だった)。古雑誌のグラビアページも重送が多かったが(グラビアの印刷面で紙同士がくっついてしまう)、皆無になったとは言えないまでも、大きく改善された。実際に比較するとiX500なら10回の重送が発生した雑誌が、iX1500では3回に減少した(1980年の雑誌「写楽」での比較)。


また、読み取り中にMacに読み取りデータを送っているとき、iX500はデータ転送が追いつかないのか読み取りが滞ってしまう問題があったが、iX1500では皆無になった(Wifiが5GHz帯に対応したからか、データ転送の仕組みが変わったのか)。また読み取り終了後も、アプリ側で保存のための「OK」クリックが2回ほどあってイライラさせられたが、新しいアプリ「ScanSnap Home」ではこの作業は必要ない。Macに送られた書籍のスキャンデータはアプリ側で処理されるので保存場所などの設定も不要。書籍の読み取りはある程度の冊数が溜まった状態で行うユーザーがほとんどだろうから、複数冊の読み取りを次々とできる。(読み取りを継続するかどうか、といった情報はScanSnap本体のディズプレイ側で確認・指示が行える。)重送なし、処理待ちなし、速度が速い。この3点の効率化は極めて理想的な製品向上と言えるだろう。



iX500からiX1500へアップグレードする理由となる点は他にもある。読み取り品質の点で最も嬉しいのはスキャナ部分の汚れの感知機能で、実際に4000ページのスキャンで1度だけ汚れを感知してくれたので、ページのスキャンで縦筋被害を未然に防ぐことができた。なおこの縦スジの除去についてはソフト側の画像処理で縦筋を軽減する機能を装備しているが、現在のバージョンでは書籍のようなページ数の多いものに関してはエラーが出てしまい動作しない。

iX500では読み取ったが画像に大きな余白面が出てしまうことがたまにあった(200ページに1枚くらい?)が、これが皆無となった。おそらく読み取り時のスキャンの幅検知の性能がアップしたのだろう。ところがこれはiPadなどのPDF表示アプリでの閲覧のしやすさ、見やすさを大きく左右してしまう問題で、場合によっては後からそのページだけの修正する必要もあったので、大きな前進。嬉しい改善点だ。汚れ防止で縦スジ撲滅、ページ幅が正確に認識される、この2点は書籍の「読み取り品質」の問題として明らかな向上があった点だろう。

排出されたページを受け止めてくれるスタッカーの性能もアップして、大量の書籍処理でもページがこぼれることもなくなり、排出ページがスキャン送りの邪魔をしてしまうこともない。またiX500の問題点だった読み取りのページガイドとカバーのロック部分が触れないところも嬉しいアップグレードである。



新ハードの売り物であるタッチパネルの機能性はどうだろう。必要なアラートや操作ガイドがMac側ではなくこのパネルで表示、指示を出せる点は、効率的である。ただ、読み取りの事前にモードを切り替えできる、という点はまだまだ使いやすさを見出せないでいるのが正直なところだ。


新しいソフトウェア「ScanSnap Home」の良さもまだ見えない。名刺管理の機能もこの中に統合されてしまったが、アプリ内での文字があまりに小さくて見づらく、Mac純正の「住所録」との連携も弱くなってしまった。しかしOCRの精度は格段に上達しているし、補正機能などのメリットも大きいので、今後の大幅なUIの改良に期待、である。



最後にハードウェアデザインについて。書籍のデータ化、スキャン用としてScanSnapを利用してきたユーザーはハードを書斎に置いている方がほとんどだろうから、それがいきなりオフホワイトの「家庭用プリンター」的なデザインに置き換わってしまうというのはショックだろう。私もそうだし、驚いたし、ハイエンドマシンでそういった路線変更は極めて疑問である。


しかしこの点にさえ目をつぶれば、iX1500はiX500に比べて、読み取りの効率化、快適性、読み取り画質の向上に大きく貢献してくれる。使えば使うほど元は取れる、満足度の大きいハードウェアであると思われる。蔵書スキャン用マシンとして、ぜひアップグレードを検討すべきマシンだろう。