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声優はお金持ちになれますか?

なれないと思います。今後も出演料の相場は今後も下がり続けるので、従来の"声優"という働き方では厳しいです。既に成功している大御所の方と同じ才能に恵まれていたとしても、お金持ちになることは出来ないでしょう。

"声優"と呼ばれる皆さんの主な収入源は、出演料です。世の中はインフレ基調ですが、出演料の相場が上がる気配はありません。この記事では、この理由について様々な方面から考えてゆきたいと思います。

なぜ出演料の値上げ交渉が出来ないのか

人気声優へ依頼するケースを除いて、多くの声優プロダクションは出演料を交渉しません。多くの場合、依頼する側の言い値で出演してくれます。言うまでもなく、買い手市場だということが最大の理由です。もっと安い値段でもやりたいライバルが大勢いるので、値上げを迫ると「じゃあいいや」となりかねません。

被災地では家屋の修繕に携わる職人がまるで足りないし、介護や保育の現場は慢性的な人材不足です。でも、声優をやりたい人は相変わらずとても多く、足りないから困るということは絶対にありません。ただ、この需給の偏りだけでは説明できない、声優プロダクション固有の問題があります。

先ずは交渉に不慣れな点です。声優の出演料はこれまで、音声連やマネ協など業界団体が定める"ランク"や"料率"という制度で定められていました。映像の長さや配信される媒体、配信される地域などによって自動的に金額が決まるのです。交渉する必要が全くありませんでした。

時代は変わって、オンラインが当たり前の社会になりました。各種のサブスクサービスによって配信の様態は多様化し、新しい広告媒体での利用も増えます。例えば「日本国内だけで配信します」と言っても、インターネットサービスである以上は世界中からアクセス出来てしまうわけです。従来の制度では対応できなくなりました。

何より致命的だったのは"ゲーム"という媒体(家庭用ゲーム機やスマホアプリだけでなく、パチスロなど遊技機も含みます)について、全くルールが定められていなかったことです。声優プロダクションは、不慣れな価格交渉をする必要に迫られました。資金が豊富なゲームの音声収録で多くの声優が収益を得られるようになった一方、ランク制度の形骸化はどんどん進みました。

声優プロダクションのマネージャー自身も、出演料の交渉には中々熱心になれません。例えば一万五千円で新人への出演オファーが来ているとします。取り分が7:3であれば事務所の売り上げは4,500円。これを交渉で二万円に上げても、取り分は6,000円。この増加分、1,500円の為にどれほど情熱を割けるでしょうか。そもそも多くの声優プロダクションがそうであるように、一人で何十人も担当を抱えている場合は、忙しくて出演料の交渉などしている暇もありません。

事務所の売り上げの中心が出演料収入なのであれば、まだ真剣に価格を上げようと努力するでしょう。しかし、売り上げを付属養成所やワークショップのレッスン費に頼っていればどうでしょうか。出演料を上げようとするモチベーションはさらに失われます。わずか数千円のあがりよりも、毎月数万円を納入してくれるレッスン生を辞めさせないことの方が遥かに重要になります。

タダで出演しても儲かる

以上の内的な要因に加え、環境の変化も大きな理由です。新しいライバルが出現しました。芸能事務所とライバー事務所です。自らの専門領域に加えて、所属タレントに声優の仕事をさせることに熱心です。

例えば芸能事務所が専門としている舞台。長い期間のリハーサルを経て、ステージに立ちます。これに比べると、一時間で数万円のギャラが発生する声優の仕事は楽に稼げます。さらには、キャラクタービジネスの隆盛が著しい現代。CV(キャラクターボイス)の仕事をするのは、新しいファンを獲得するためです。

これらの事務所が擁するタレントたちは、出演料ではなくライブステージや配信で稼ぎます。CVを担当したキャラを通してファンになってくれた人が、ライブのチケットやグッズを買ってくれたり、配信で投げ銭をしてくれます。そう考えれば、出演料はタダでも採算は取れます。むしろお金を払ってでも、顔を売りたいと考えるでしょう。

ジャニーズ事務所のタレントは、周りの事務所のタレントに比べてCMなどの出演料が安かったそうです。だから、お客さんは広告塔として同じ価値があればジャニーズ以外のタレントではなく、ジャニーズのタレントを選んでいました。一方で、事務所の売り上げの大半がライブ関連。つまりCMで露出をしてファンを獲得し、ライブで収益化を計るというビジネスモデルが確立されていたのです。

このような状況から、出演料には下方圧力が掛かります。安くても役が欲しいのだから、どんどん安くなる。出演料収入に頼る事務所は何とか価格を吊り上げたいと考えますが、ライブや配信で稼げる事務所はその必要がありません。新人はもちろん、一定のキャリアを持つタレントでも出演料には拘らないのです。

従来の"声優"像に拘ると地獄

かつて大塚明夫さんが著書で「声優は自分で仕事をつくれない」と書かれました。自分で仕事を作れない人、依頼を受けて出演料で収入を得る人がつまりは声優である、と定義付けられています。確かに、自分で仕事を作れない。この声優像にこだわる以上は、どれだけ能力が高くてもお金持ちになることが出来ません。

実際に大塚さんのように成功されている方がいるのだから、自分も…と思われるかもしれません。これはあまりに楽観的です。例えば大塚さんと同じ能力を持った人が当時の大塚さんと同じ努力をされても、成功しないと思います。時代が違うので、環境が全然違います。憧れの人と同じようにはいきません。タイムマシンでも使わない限りは。

声優を志された皆さんの多くは、憧れの人がいるのだと思います。あの人みたいになりたい、と。でも、その人みたいにはなれません。繰り返しますが、時代が違うので環境が異なります。特に娯楽の世界は移り変わりが早い。医者や教師、大工さんは昔からあった職業ですが"声優"はそうではありません。十年後に消滅していても不思議はないと思います。

初志を貫徹するのは尊いことですが、"声優"という職業自体を志すのは、目標の設定を間違えています。これからの"声優"はライブや配信をやれ、というわけではありません。既に多くの人が取り組んでおり、今さら中途半端な情熱で参入しても何にもならないでしょう。

人のマネをしたり、この職業はこういうものだ、と決めつけること自体が危険です。「演技を極める」「人気者になる」「お金持ちになる」のような普遍的な志を持ちましょう。"声優"になってお金持ちになることは出来ませんが、声のお芝居をしながら幸せになる方法はたくさんあると思いますよ。


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