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声優プロダクションは儲ってるの?

答:いいえ。これまでずっと赤字です。しかしながら、五年間で少しずつ収益は伸びています。ようやくマネージャー一人分のお給料を払えるかな、という額に近付いてきました。今回は会社側の視点から、声優プロダクションという事業を掘り下げてみたいと思います。

声優とプロダクションはタッグを組み、"声"を必要としているお客さんにサービスを提供し対価を得ます。なので、お客さんから受け取った報酬は声優とプロダクションの間で分配します。声優はそのお金を生活費や、その他のプライベートなことに充てます。プロダクションはそのお金でマネージャーのお給料を払い、事務や経理、法務の仕事をするスタッフも雇用します。事務所の家賃や水光熱費、文房具からエアコンの清掃代金まで賄います。こうして、会社はプロダクション事業を営むことが出来るのです。

この分配の割合は"5:5"から"8:2"の間が標準でしょうか。マネジメント契約における一番大切な数字です。新人声優はマネージャーが仕事を獲得してくるのも大変な上、報酬が安いのでマネジメントコストが高くなります。例えば、新人の標準的な報酬とされる1万5千円。その50%では僅か7,500円にしかなりません。

一方で、人気の声優には黙っていても仕事のオファーがどんどん来ます。売り込む必要がないし、出演料の交渉でも優位に立てます。プロダクションは例えば20%を貰うだけでも十分な利益を得られます。アプリゲームへの出演を50万円で契約した場合は、プロダクションの取り分は10万円です。新人は出演料も安く自身の取り分も少ないのですが、売れっ子になれば出演料も上がり、また取り分も増えるはずです。取り分が低いまま据え置かれると、他の事務所へ移籍した方が得になってしまうからです。

つまり、高額なオファーがどんどん舞い込むようなスターを擁していない限り、声優プロダクション事業の収支は楽ではありません。新人の仕事を十本獲ってきても、スターの仕事一本の収益に及ばないのです。収益が少なければ、人件費を抑えなくてはなりません。一人のマネージャーが数十人の声優をマネジメントするような状況になってしまいます。また(前々回の記事で書いたように)養成所の運営など他の事業で補填する必要も生じます。

弊社は私ともう一人の女性スタッフ、二名で(執筆時点)十二名のマネジメントをしています。「最近どうよ」とそれぞれに声を掛けられる、悪くはないバランスだと思います。それでも手は足りていないと、日々痛感しています。出演条件を交渉したり、収録スケジュールを調整したり、実績をまとめて資料を作ったりはしていますが、もう少し売り込みにも注力したいのです。所属声優の魅力、セールスポイントを訴える仕事がしたい。二人ともマネジメント事業以外の仕事を抱えているので、中々時間を割けないのは歯痒いところ。一緒に仕事をしてくれる方が、もう一人欲しいです。

余談ですが、どのくらいの金額を稼げば専属のマネージャーを付けられるのでしょうか?マネージャーの年棒を400万円とすれば、社会保険や諸経費を含め会社が支払うコストは600万円。本人とプロダクションの分け前が"7:3"だとすれば、その声優には最低でも2,000万円の出演料を稼いで貰う必要があります。2,000万円の70%は1,400万円の売上になるので、経費で額面を押さえ表面上の手取り額は700~800万円でしょうか。マネージャーにご飯を奢る余裕はありそうですが、意外と慎ましやかですね。

さて、この通り声優プロダクションはとても難しい事業です。赤字でも続ける理由は、三つあります。一つ目は、他の事業に貢献している点です。自分たちでオリジナルのコンテンツを作って発信するのに、便利なのです。これは後の記事で詳しく説明します。

二つ目の理由は、声優の世界に言いたいことがあるからです。業界を変えたい!とまで大きなことは言いません。「それはおかしくないですか」「こういう考え方はどうですか」というアイディアがいくつかあって、それを表現するために自らマネジメント業を実践することが必要です。幸い、私の考えに少なからず共感してくれる人たちが現れて、ここまで一緒に来て貰えました。最後の理由は、もちろん黒字化する希望があるからです。まだまだこれからです。頑張ります。

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