不用品回収業者がやってきた

よく晴れた平日の午前、仕事場の目の前にある本宅に一人のオバサンがピンポンを鳴らしていた。窓越しにその様子を眺めていたら、家から出てきた母と何やら話を始め、やがて母が「いらんもの〜、いらんもの〜」とか言いながら先日廃棄を決めて屋外に置いておいた古い扇風機を担ぎ出してきた。

よくある不用品の回収業者か? と思ってしばらくその様子を眺めていたのだけど、そういえば無許可の業者には注意をしよう、みたいなお知らせをどっかで見たような気がして、それでなくとも自治体の粗大ゴミ回収は有償なのにそいつを無償で引き取るなんて、なにかカラクリがあるはずだよなぁ、こいつァちょいと臭うぜ、と思ってオバサンに声をかけてみた。

聞けば、滋賀県からやってきたASKという会社らしい(ここは岐阜県の東側、結構遠い)。首から社員証のようなものを下げていて、そこには社名、オバサンの顔写真と名前、それに何らかの許可番号のようなものが書かれていた。名刺かチラシは持ってないの?と聞くと、そんなものは持ち歩いていないらしい。ふーむ。

その後、また後で別の社員が車で来るといって、オバサンは立ち去って行った。

さっそく滋賀県、ASK、で検索をかけてみると、それっぽい会社のwebサイトが見つかった。

これ本当にさっきのオバサンが所属している会社なのだろうか。電話番号が書いてあったので、そちらにかけてみた。

私:滋賀県のASKと名乗る女性が不用品回収の営業に来ましたが、そちらの方ですか?
相手:はい、そうです。

なるほど、会社は実在するらしい。ということはこちらに記載してある古物商許可証番号は本物なのかね。滋賀県警のwebサイトにはURLを登録してある許可業者の一覧リストがあるのだけど、なぜかそこには記載がなかった。滋賀県では古物商業者のURLの登録は必須じゃないのかな? 別の県ではwebサイトのある業者は必ず登録するように、との記載があったのだけど。

古物商ができること

古物商(こぶつしょう)は、古物営業法に規定される古物を業として売買または交換する業者・個人のことである。(略)盗品の売買または交換を捜査・検査するために、営業所を管轄する都道府県公安委員会(窓口は警察署。生活安全部が担当する)の許可が必要になる。

Wikipedia より

要するに盗品が簡単に換金されないように、その買い手となる業者を予め縛っておくのが目的ね。このため、不用品を無料で引き取るということについては、こちらでは規定されていない。無料で引き取った(もらった)ものを有価で販売する、ということについても、同様に規定がないっぽい。

ということで、先のASKという業者が、家にあった不用品を買い取ってくれるならば問題は無い。もしくは、無料で持って行ってくれてもOK。ただし、不要な品を処分のために引き取っていくのは、違法になるそうな。有償でも、無償でも。これを行うために必要な別の許可があるのだと。それが、一般廃棄物収集運搬業というもの。

一般廃棄物収集運搬業

業として不用品を回収し、これにかかる費用を徴収するためには、これの許可を得る必要がある。ただしこれ、取得が相当難しいらしい。

一般家庭から出る廃棄物を回収して適切に処理を行うための業というのは、基本的に自治体に依頼を受けて行う種類のものであって、私企業が独自に行うものではないとのこと。増え続けるゴミを行政で管理するためには、必要な措置ということは。当然ながら、全国津々浦々、すでにこうした認可業者が自治体の依頼を受けて日々業務として行っているため、新たに新参者を入れる理由は極めて薄い。なんらかの理由で既存の業者が廃業でもしない限りは、パイは増えないということ。つまり実質無理だね。

一般廃棄物収集運搬業であれば、不用品を引き取ってそれに関する費用を徴収することが可能になる。つまり、不用品を処分するために費用を取るのは、この資格を持っていないと違法だということ。しかもこれ「処分のために無償で持っていく」というのもダメと解説している記事もある。

この「処分」というのがポイントで、古物商が再販のために引き取るという名目であれば、一応はOKのようだ。ただし、一見してゴミとわかるものを再販するというのは相当に無理がありそうなケースもあると思うのだけど、まあそのあたりはどうにかなっているんだろう。

こちらは古物商を営む業者向けのQ&Aサイト。お客から尋ねられた時にはどう回答すべきか、という想定問答集となっていて、この中に「処分」という言葉は絶対に使うな、と何度も触れている。「処分」と表現した途端、それは一般廃棄物収集運搬業の範疇に入ってしまい、違法になるよ、ということだ。にしても、こちらの問答集はなかなかに参考になる。客商売のコツを抑えているというのもあるし、古物商の突かれたくないポイントについても理解が深まる。

で、我が家ではどうなったか

オバサンが去って数十分もすると、滋賀ナンバーのハイエースバンがやってきた。これが別働隊の社員だね。母は不用品となった扇風機を引き取ってもらう気マンマンで、玄関先に持ってけとばかりに置いていた。業者の男性は一人でやってきており、母に納屋に案内されると、いろいろと見定め始めた。

随分昔に父が知人から買わされたという、木製の大きな水鉄砲のようなもの、多分昔の消火器具なのかもしれない、をしばらく見定めた後、他の社員と合流して改めてやってきます、と早々に立ち去ってしまった。玄関先には扇風機が残ったままだ。

母には、

「もし回収費用を請求してきたら、そいつは違法だから気をつけなアカンよ。」

と伝えたところ、

「わかっとる。ちょっと相手の様子を見てみたかっただけや。」

だそうで。長いこと会社の金庫番をしてきた人なので、トラブルの臭いには敏感か。心配はいらんかったかな。さて、彼らはどう出るか。

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