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TVS REGZA片岡秀夫さんに聴く、「テレビはこう見られている」(01)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。


今回からの対談は、TVS REGZA株式会社 クラウド事業センター センター長の片岡秀夫さんにお話しを伺うことにした。

本メルメガ読者にはREGZAと片岡さんという組み合わせでピンとくる方も多いと思うが、かつて東芝のレコーダ「RDシリーズ」を率いていた、あの片岡さんである。

現在はTVS REGZA株式会社にて、クラウド関係の事業をやられているが、その内容がめっちゃ面白い。REGZAには「みるコレ」というネットサービスが内蔵されており、ジャンルやタレントのみならず、AIによるおすすめ番組を詰め合わせパックにしてまるっとおまかせ録画できたりする。

こうしたユーザーへの情報投下だけでなく、ユーザーの視聴動向もデータとして収集・分析し、逆にコンテンツの上流、すなわちテレビ局や制作会社に提供するという、双方向の事業をやられている。

すでにテレビメーカー各社とも、ユーザーの視聴動向のデータは収集しているが、それを分析活用するまでに至ったところはほとんどなく、今のところ日本ではTVS REGZA、というか片岡さんのチームしかやれていないのが実情である。

今回からの連載は、普段我々視聴者側が見ることができない、視聴者動向の貴重なデータを拝見しながら、これまで視聴率ぐらいしかデータが存在なかったテレビ視聴の実態を、伺ってみたい。


小寺:久しぶりに片岡さんとお話ししますね。もう何年ぶりだか分からないぐらいですけど。片岡さんと言えば、東芝RDの人だったんですけど、RDの開発から離れてもう何年ぐらいになるんですかね。

片岡:たぶん2009年ぐらいから離れてますね。

小寺:あ、もうそんなになるんですか。

片岡:そうなんですよ。2009年ごろから「ネットプレイヤー」という、今の配信だとかのパッケージとか、ショッピングとかを横断してやる製品の企画をグローバルでやるので、アメリカとかヨーロッパを回ってたんですよ。いわゆるコンテンツ屋さんとか、放送局さんとか。

小寺:へえ。それは知らなかった。それが今は、なんか新しいことをやる部署のリーダー、ということになるんですよね。

片岡:そうですね。私の部署はクラウド事業センターという正式名称ですけれども、そこのセンター長をやっておりまして。簡単に言っちゃえば、RDから離れてちょっといろいろプロジェクトの立ち上げをやったあと、新しいアプリとかを作ったので、じゃあお前は新しいことをやる部長になれ、と言われて、新たな部が作られました。

何をやるの?と言ったら、とにかく新しい事業を起こせ、と。お前みたいなやつが新しいことをやらなきゃだめだ!って社長がご指名で、「部」だけできたんですよ。僕一人、部下ゼロ人で。

小寺:丸投げですね(笑)。

片岡:そうですね。そこからiPhoneとAndroidのアプリをやって。レコーダーのRDシリーズとかテレビのREGZAも、スマホアプリでシーンの時間とシーン名をクラウドでみんなが投稿して共有できるタグリストサービスと、それ用のアプリ「RZタグラー」というのをやって、それがいまのREGZAのシーン再生の元なんですね。

要するに録画した番組の先頭から何分めにどんな場面があってというのを、自分がタグつけて公開をすれば、みんながその場面を頭出ししたり、コメントもつけられる、というサービスを始めたんですね。

それの2年後ぐらいに、今度はREGZAの中でそれができるように、というので、今の「みるコレ」と呼んでいるクラウドサービスの一部がそれになり。あと放送と動画配信を横断したコンテンツレコメンド、横断検索、自動録画、みたいなのをセットにした、いわゆるコンテンツドリヴンのパックですね。「みるコレパック」という概念を稼働させてますね。

小寺:なるほど。実はうちね、テレビが全部REGZAなんですよ。なのでこれはよく使ってますね(笑)。

片岡:ありがとうございます。そんな中で部が作られて3年目ぐらい(2012年)かな、テレビの上にクラウドサービスをやるのである、と社長が宣言したんだけど、誰もやる人がいなくて。テレビの商品企画の部長が困ってて、技師長も困ってて、「いいからお前やれ、片岡よろしく!」っていきなり言われて(笑)。

小寺:ずいぶんまた投げつけましたね(笑)。

片岡:そうなんですよ。それがちょうど4月の終わりぐらいで、ゴールデンウィーク明けには社長にプレゼンするからデモを用意しろ、とか。

小寺:ははははは(笑)。もうむちゃくちゃだ。

片岡:10月のCEATECにはもう稼働させる、とか。

小寺:勝手にスケジュールだけは決まるんだ(笑)。

片岡:それ先に決まってたのに、ずっと進んでなかったので。それでメンバーとか、研究所の人間とか、開発の人たちを集めて、プロジェクトを仕切ることになって。さらにグローバル展開で、欧州もアメリカもやるんである、と。

それでできあがったのが、当時、レグザクラウドサービス「TimeOn」という名前で立ち上がって。途中で、名前をもうちょっと分かりやすくしようと「みるコレ」という名前に変えたんですけど。

サービスの本質は、パックも最初からのコンセプトに入ってるし、シーン再生も入って、おまかせ録画も途中で入って。なので、コンセプト的にはずっと同じものを2012年から提供して、ちょうど10年なので、10周年なんですよ。

■春のアニメをデータで見ると…

小寺:さて今片岡さんというと、シーズンごとにアニメのおすすめを紹介してくれる、というのをブログでずっとやっていただいていて。あれを楽しみにしてる、という人もけっこう多いと思うんですけれども。

片岡:ありがとうございます。

小寺:アニメって、今ビジネスモデルがけっこう複雑になっている部分がありますよね。テレビ放送だけで終わらなくなっている、という。

片岡:そうですよね。

小寺:ただその中でもテレビって、ネットサービスとは違ってなかなかデータが取りにくい。僕もテレビ業界長いんですけど、これまでは勘というか、視聴率を頼りにエイヤッとやるような、わりと乱暴なやり方が多かったんですけど。

REGZAユーザーの視聴動向もデータとして取っていらっしゃると思うんですけど、やっぱりちゃんとデータから見えてくるものって、予想と全然違っていたりすると思うんですよね。

片岡:あのブログですけど、毎期だいたい60~70作品の中からおすすめを12個選んで書く、と。視聴が多そうなものを必ずしも選んでいるわけじゃなくて、なかなか自ら進んで情報を調べたりしてくれない人たちでも楽しめる作品を選んでいる感じです。

我々のサービスのコンセプトとしては、いわゆる濃いアニメのファンの方にも、「なるほど、そういえばマークしてなかった」みたいな出会いもあれば、そうじゃない一般のアニメがメインじゃない人も、「こういうのがあるんだね、面白いんだねアニメって」というような出会いを演出する、そういう仕掛けなんです。

小寺:うん。もちろんそういったことをやるには、いろんなデータを見る必要がある、ということで、データ分析もやっていると。

片岡:大きく2つの部門を手がけていますが、1つは先の話の「みるコレ」サービスの部門。もう1つがこの「みるコレ」サービスで利用許諾をいただいて集めた視聴データをベースにしたデータ分析などの部門です。前者は「AIレコメンド」と呼んでいる一人ひとり、正確には一台一台のテレビで、どんな番組を観てるかのデータを活用したおすすめをしつつ利用を促進し、レグザの魅力をあげたり、いろいろやってます。

後者は、いただいた許諾のデータを統計的に処理して、今現在、約240万台の全国のテレビのデータを毎日、秒単位で集計を回してます。そして放送局さん向けであったり、一部代理店さん、広告主さんなど数十社に対して、レギュラーでデータを提供をするサービスをやっています。

小寺:なるほど。うちも許諾してるんで、うちの視聴データも行ってるはずです。

片岡:そうですね。で、それとは別に、カスタムでいろいろな切り口、たとえばドラマとアニメですね。これはやっぱり一話からの推移みたいなものを見たいというニーズもある。いわゆる視聴率とは違った、同じ人が観てる・観てないみたいな、ユニーク接触率というやつを計算する必要があるんですね。そういう、ユニークな分析をするためのパッケージを整備した、というのがこれになります。


2022年春スタートのアニメ作品総合ランキング

これは「シリーズ分析」という名前なんですけれども、今日は最新の、先期クールのやつを、出せるだけ出してみました。

小寺:ありがとうございます。これは、今年の春から始まったやつなんですね。

片岡:そうですね。今年の春、4月から6月〜7月にちょっとこぼれたものも、拾える日付の範囲で拾ってきて。

小寺:これで見ると、やっぱり『SPY×FAMILY』は評判通りダントツで強いというデータになってますね。これは録画もライブ視聴も一緒にしてる感じですか。

片岡:そこはバラバラに見ることができまして、番組別にするとわかります。

小寺:あ、これは『カッコウの〜』。

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