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小寺の論壇:注目度が上がる「音声」を技術的に見る

知財、IT産業、ネット、放送、買ったもの、ライフハックなど、コデラの気になるところを語ります。

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先週の西田さんのコラム『改めて考える「音声」の重要性』は、音声コンテンツの歴史と可能性をうまくまとめたものだった。それに触発される形で、僕は映像音声技術者の視点で音声というものの特性を語ってみたいと思う。

2週間ほど前だったか、Clubhouse内で「イケボで語れるBluetoothイヤホンはどれか」という企画に協力したことがある。Bluetoothイヤホンは遅延が大きく、音声通話には向いてないように思われがちだが、遅延が大きいのは高音質の音楽伝送プロファイルとコーデックを使用したときの話だ。

音声通話にはHSP(Headset Profile)やHFP(Hands-Free Profile)上で音声通話用のコーデックが動いており、遅延はそれほど大きくはない。そうでなければ、そもそも電話用のBluetoothヘッドセットなどはとうの昔に滅んでいるはずだ。

Bluetoothイヤホンの音質評価としては、これまで聴く方の評価ばかりだったわけだが、通話能力のテストはかなり珍しい。およそ15種類のイヤホンをテストしたが、それぞれ個性が全然違っており、値段が高ければ通話音声がいいとも限らないという事実が明らかになった。

Bluetoothの通話機能は、基本的には内蔵されているSoCに搭載されており、マイクがあれば実装できる。ただマイクの配置位置や集音性能、ノイズリダクションの実装方法、音声通話に割くデータ量といった違いから、通話品質に違いが出るようだ。

つまりオーディオメーカーは高音質伝送のA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)上のコーデック処理には熱心だが、通話プロファイル上の音声品質に関してはあまり注意を払っていないということである。それは利用頻度の低い機能に対してコストを割かないという点において、現時点では正しい。しかし今後音声コンテンツやコミュニケーションが伸びるのであれば、メーカーはまたやることが増えることになる。

Clubhouseで一つわかったのは、QualcommのSoCに内蔵の音声通話向けノイズリダクションとはあまり相性が良くないということである。おそらくClubhouse自体にもノイズリダクション機能があるのではないかと推測するのだが、双方が同じような効き方をすることで、しゃべるとノイズが乗り、しゃべりだしの子音が若干切れるという減少があった。

設定の悪いノイズゲートみたいな感じを想像していただければいいかと思う。あいにくSoC内蔵の通話向けノイズリダクションは設定で切れないので、その手のイヤホンはClubhouseで使うのは避けたほうが良さそうだ。

■Hi-Fiが最適解ではない世界

明瞭感のある音声を最低限の情報量で実現するために、音声、とくに人間の肉声に関する研究は古くから行われており、その多くは録音技術や放送、電話による通話に生かされている。

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