小寺の論壇:「テクノロジー科」の発足を目指す中学技術科
知財、IT産業、ネット、放送、買ったもの、ライフハックなど、コデラの気になるところを語ります。
日本の社会では圧倒的にIT系の人材が不足しており、特に昨年からのAIブームがさらにその傾向を顕著なものとしている。これは開発ベースだけでなく、ユーザーベースでもテクノロジーに対する理解がなければ、日常業務もままならないという状況になるまで、それほど時間はかからないだろう。
こうした状況に対して危機感を持っているのが、中学校の技術科で唯一の学会である、日本産業技術教育学会(JSTE)だ。次回の学習指導要領改訂へむけて、5月に要望書を公開した。
現在の小中学校では、一部の先進校に指定された学校でSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)教育が実践されている。lこれはそれぞれの学ぶという事ではなく、多彩な分野をすべて関連性を持たせた格好で学んでいこうという考え方だ。
技術科はその最先端に割り当てられている…わけだが、一般の中学校では技術科の授業は年間で70時間程度しかない。週に二時限程度だ。これは45年前に筆者が経験した授業数と、なんら変わっていない。
筆者の時代は、男子は技術科、女子は家庭科に別れていたが、現在は男女ともに技術科と家庭科を学ぶ。評定としては技術・家庭で一緒になっており、技術科だけでのスキルが評価されない。
■「要望」の具体的な中身
JSTEの要望書では、「その1」として、現在指定先進校のみで実践されているSTEAM教育を、小中高の全校で展開するよう求めている。具体的には、小中学校の「総合的な学習の時間」,高等学校の「総合的な探究の時間」にSTEAM教育を導入するという話だ。
ただ、これはかなり大きな話になる。STEAM教育を行なうには、3Dプリンタやプログラミングロボットといった教材も必要になることや、生徒同士のコミュニケーションスペースなどを含む専用の教室が必要になるからだ。
昨今は少子化で教室が余り気味であることは幸運だが、STEAMでの学びは教科書だけでは済まないので、授業運用にかなりの金額が必要となる。当然国だけでは賄いきれず、地方自治体への負担も増えるだろう。
また私立校は自力でそれらを調達しなければならず、公立校と私立校で差が出てくる可能性がある。実際GIGAスクールでも、未だ1人1台端末が用意できていない(学校のものを授業単位で使う)私立校も存在する。
要望の2つめは、小中高それぞれに対してのテクノロジー教育への見直しだ。小学校では、「プログラミング的思考」を教科横断的に教えることになっているが、これを独立した教科に昇格させるべき、としている。ある意味、教科の新設だ。週1回程度の授業を想定しているが、プログラミングの専門教育となれば、教員も専門となるだろう。
中学校においては、現在の技術・家庭科の在り方を再編し、あらたにテクノロジー科を新設するべき、としている。つまりは、家庭科と分離せよということだろう。これはそのまま、要望3へと繋がっている。
高校においては、現在の「情報I」の単位数の増加と、現在はコース選択となっている「情報II」の必修化を求めている。
確かに現在、「情報I」は必修化されたとはいえ、授業は1年生のうちで終わってしまう。これは本当に問題で、必修化されたことで今年度の大学入試からは受験科目にもなったわけだが、2年前の知識、つまり2022年時点での知識で挑む事になる。当然AIなども今のように当たり前になっていない時代の知識で、小論文などが戦えるだろうか。
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