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話題になったカラスの飼育の何が問題なのか

 大まかに言うと、「鳥獣保護管理法に違反していること」が問題ですが、「たかがカラス1羽飼育したくらいで何がいけないの?」「今放鳥しても生きていける確率が低いなら、そのまま飼育した方がカラスにとってはいいんじゃないの?」と疑問に思う方もいると思い、noteを作りました。また、このnoteは批判することが目的ではなく、今回のケースを分析・解説することによる知識の普及を目的としているものですので、コメント欄での論争や誹謗中傷はご遠慮願います。何かあればDMを解放しているのでそちらでお願いいたします。

1. 鳥獣保護管理法について

 法律そのものは文章が堅苦しくて、文章量も多くて全て理解しようと思うととても大変です。しかし、ネット上の個人のブログ等の記事は信用度が低いため、鳥獣の捕獲や狩猟について比較的分かりやすくまとめてある神奈川県の公式HPのリンクを貼っておきます。

全てを詳しく説明することは難しいので、今回のケースの話をします。

今回のケースでは、

 ①ハシブトガラス(狩猟鳥獣)の捕獲・愛玩飼養

※実際に捕獲したかどうかは行政の判断によりますが、2. で後述する理由から、捕獲と見なされる確率が高いと考えます。

 ②猟期(11/15〜2/15)ではない ※北海道は期間の違いがある

 ③自由猟具(素手、パチンコ等)での捕獲

 ④捕獲した場所は猟区や自らが所有する私有地ではない 

※住宅街や公道での狩猟・捕獲は禁止されている。

 ⑤愛玩飼養目的での捕獲許可は取得していない(行政に確認済)

になります。

そして、"基本的に"狩猟・捕獲が許されているのは、

「猟区・猟期内」

「自由猟具(免許不要)もしくは法定猟具(免許必要)での狩猟」

「対象は狩猟鳥獣」

の全てを満たした場合になります(研究目的で許可を取得した場合や鳥類標識調査、猟銃の使用時間帯等他にも細かな規則がありますがここでは関係が無いので省きます)。

今回のケースでは、猟区ではなく、猟期内でもないため、違法になります。

しかし、猟期外でも、例えば人に危害を加える恐れのある人慣れしたクマが住宅街に降りてきたり、害獣が畑や家を荒らしたりする場合があります。そのような場合には、捕獲許可を取得する必要があります。捕獲許可は、目的を記載し許可を取る必要があり、例えばペットとして捕獲・飼養したい場合には、愛玩飼養目的での捕獲許可が必要になります。つまり、害獣として駆除するために捕獲しますと許可を取って、駆除せずこっそり飼育することは虚偽の申請となるわけです。また、原則として愛玩飼養目的での捕獲許可は降りません。(参考環境省HP:https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort3/index.html

今回の件が違法性があると考えられるのは、以上のことが理由になります。


2. 何故このような制限があるのか?たかがカラス1羽飼育したところで何か悪影響があるのか?

 今回の件で疑問に思った方もいると思います。カラスが生きてさえいれば別にいいんじゃないか?と。これに関してお答えします。これは、何故鳥獣保護管理法があるのか、といったことにも繋がってくると思います。

そのまま飼育した場合、あのカラスは(適切な飼育さえできれば)生きていられます。しかし、このケースを認めた場合、

「勝手についてきただけで、捕獲はしていない。」と言えば、捕獲が安易な野鳥の巣立ち雛や幼獣を猟期外に捕獲・飼育しても良いという前例ができてしまう

ことになります。しかも、ご本人が「行政に法律に抵触しないと言われた。」と発言している以上、行政のお墨付きということになります。この前例ができてしまうことで、カラス以外の鳥獣も同じ理由で捕獲・飼育されかねません。

 哺乳類はあまり知識がなく申し訳ないのですが、野鳥の密猟は現代日本でも起こっています。興味がある人は、「野鳥 密猟」でググってみてください。鳥獣保護法は、このような密猟や乱獲が起きないように、狩猟してよい期間と場所、種類を定め、制限しているのです。囀りが綺麗な夏鳥は需要がありますし、今日(こんにち)エキゾチックペットが増えていることからも分かるように、他の人が飼育していない珍しい生物や野生生物を飼育したいという需要は哺乳類や鳥類に留まらず、爬虫類や両生類、昆虫等も含め高まっています。捕獲が安易な巣立ち雛を言い訳一つで合法的に捕獲・飼育できるということは、これらの需要に対しての供給を合法的に、かつ安易に行うことができるということになります。このことから、もはやあのカラス1羽の問題では無く、未来の野生生物たちを脅かす事態になっている、ということです。

※鳥獣保護管理法が適用されるのは哺乳類と鳥類だけですが、爬虫類や両生類、昆虫等の生物は種の保存法や動物愛護管理法、文化財保護法、文化財保護条例等が適用されます(※これらの法律には哺乳類と鳥類も適用されます)。


3. 人に慣れてしまっても放鳥するべきなのか?

 2. で述べた理由がある以上、行政は「慣れてしまって自然に返したら死んでしまうからそのまま飼育します」という理由で飼養の許可はまず出さないと考えられます。行政の中の人全員が2. で述べた理由を考えられているかどうかは分からないので、断言はしませんが、ここまで話題になった以上公的に許可を出す確率は低いと推測できます。これを行政が認めてしまったら、慣れるまで行政にバレなければ飼育を続行できる、ということになるからです。以前タレントのモト冬樹さんがスズメを違法飼育していた際も、8ヶ月以上飼育していましたが行政が放鳥を指導し、最終的に放鳥しました。しかし、2.でも述べたように、普遍的に法律を適用するのには、野生生物を守るためという理由があります。決して、ただ法律で定められているから、と非情に放鳥を促したわけではないのです。また、単に可哀想だから放鳥する・しないという問題でもないわけです。


4. では最善手は何か?

 あのカラスも、未来の野生生物たちも、全てを救いたいと思うなら、まだ親鳥が雛を探しているうちに、できるだけ早めに放鳥するのが良いでしょう。親鳥が既に諦めてしまっている場合、野生復帰のリハビリを望める(比較的広い場所で飛行訓練等ができる)保護施設があれば、そこに預けることも手段の一つです。しかし、都道府県によっては保護施設が無かったり、空きが無かったり、カラスの受け入れをしていなかったりする場合もあるため、やはり行政へ相談し、指示を仰ぐことが最も良いでしょう。また、山階鳥類研究所のQ&Aのページ(http://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/QandA/suzume_hocho.html)では、室内で窓を開けっ放しにしたり、自由に飛べるようにして、野外に慣らす方法に関しても言及しているため、保護施設自体が無い、もしくは保護施設の空きが無い場合はこの方法を提案してみるのも一つの手段かもしれません。あくまでも個人的な意見ですが、私の考えとしては、親元への放鳥が困難な場合、やはり専門家のいる保護施設へ預け、飛行等の野生復帰の訓練をすることが最も良いのではないかと思います(が、当該個体は傷病鳥獣ではないですし、そこは行政の判断と保護施設の状況によります)。


最後に

 ついでに少し知っておいてほしいな、と思うことを書いていきます。

①今回保護されたのは巣立ち雛でした。毎年繁殖期には、既に巣立っており、まだ親鳥が近くにいるはずの雛を間違えて保護してしまう事例が多発しています。雛は、まだ上手く飛べない状態で巣立つので、地面に落ちてたからと安易に保護せず、遠くから見守りましょう(人間が近くにいると、親が警戒して近づけない場合があります)。車に轢かれたり、猫に襲われたりする危険がある場合は、近くの茂みなど安全な場所に避難させる程度にしてください。

(巣立ち雛について野鳥の会HP:https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/hina-can/

 また、今年、幼いノウサギの保護も見かけました。ノウサギの幼獣は、巣立ち後は親と一緒にいない時間が長いです。また、草を食べるので、親から狩りを学ぶ必要のある肉食生物と違って自立も早いです。親は、見つからないように、かなり少ない頻度で授乳に戻ります。それまで、ノウサギの幼獣は草むらでじっとしていることが多く、決して1羽でいたからといって迷子というわけではありません。そっとしておくようにしましょう。

②傷病鳥獣の一時保護の場合、保護したら即違法!触ったら即違法!とはならず、一時保護として認められる場合が多いです(例:釣り糸が絡みついて上手く飛べなかったり、怪我をしたりしているカモメを捕獲して糸を切ってあげ、保護すること)。正直、行政の全てが全て真摯に対応してくれるかは微妙なところですが、もし傷病鳥獣を保護した、もしくは保護していいのか分からない、傷病鳥獣がいるがどうしたらいいのか分からない等のことがあったら、まず行政の鳥獣保護担当へ連絡しましょう。

(各自治体の鳥獣保護担当の連絡先はこちら:https://www.birdfan.net/about/faq/kega.html


このnoteに関して、もし鳥獣保護管理法の間違い等ありましたらご指摘いただけると幸いです。また、誹謗中傷等のコメントがあっても対応はいたしません。


7/8追記

「野生生物全体のために、ひとつの命を見捨てるのは全体主義で、賛同しかねる」とのご意見を頂きました。この部分に関しては、様々な意見があって然るべきと思います。あくまでも私の考えですが、述べさせて頂きます。現状、野生復帰のリハビリができる保護施設・団体が多くなく、傷病鳥獣優先ということもあり、間違って保護された(健康上の問題は特に無い)野鳥のアフターフォローが行き届かず、保護主が保護しなければよかった、もしくは早く放鳥・放獣すればよかった話とはいえ、結果的に見捨てることにならざるを得ない(野生復帰のリハビリ等は行わず放鳥をする)ことが多いのも事実です。理想を言えば、違法は違法として区別し、かつ間違って保護された個体や保護の必要が無かった個体のアフターフォローを行なった上で放鳥・放獣することができればベストだと思います。しかし、現状全てのケースでそれができるとは限らない以上、行政の"ただ放鳥を促すだけ"という対応への批判もあって然るべきと思いますし、1つの命がかかっているのに、「法律だから」「自然の摂理だから」「野生生物全体のためだから」と言われて、はいそうですかと素直に放鳥・放獣できる人は多くないと思います。私としても、保護施設がもっと充実したり、個人宅でも野生復帰のリハビリができるような指導があったりしたらより良いのではないかとも思います(この部分に関しては完全に私見と願望です)。ただ、今回のような間違った保護や、巣立ち雛の誤認救護等、必要のない保護が減れば、保護施設・団体のキャパシティにも少し余裕が生まれると思います。また、現状保護施設・団体が足りておらず、アフターフォローが難しいことは事実ですが、「(傷病鳥獣の野生復帰のリハビリだけでなく、間違った保護のケースに関しても)ただ放鳥・放獣指導だけでなく、その個体のアフターフォローをした上で野生に返してほしい」と思うのであれば、行政指導の方針に対する意見を、環境省に"環境政策に関するご意見・ご提案(https://www.env.go.jp/moemail/)"として送る価値はあると思います(もっと適切な問い合わせ先をご存知の方は教えていただけると幸いです🙇‍♀️)。一人一人の声は小さいかもしれませんが、その意見が無かったことにはされません。実際効果があるかは分かりませんが、ただ意見を述べるだけで行動しないのであれば何も変わらないので、国や行政に対してはたらきかけることも一つの手段だと考えています。長々と失礼いたしました。


7/8追記②

 「話題になった件、という抽象的な書き方だと、話題が収まった際に分からなくなってしまうので、概要も載せた方が良いのではないか」というご意見を頂きました。私が概要や経過を載せていないのは故意です。それは、現在捕獲主様への誹謗中傷があり、それが増えるのを防ぐためにも詳しい事情は伏せておき、今までの経過を知っている人には深く考えてほしいということ、また、最終的に行政が下した判断が未だ不明であることが理由です。前者に関しまして、指摘やアドバイスに留まらず、捕獲主様の人格や生活歴、性別に対する誹謗中傷まで散見します。他人に関してどのような印象を持つのか、それは勿論個人の自由であって、私が口出しをすべきことはありませんが、"悪い印象をもつこと"と"悪口を本人へ直接言うこと、もしくは不特定多数が見られる場所で発言すること"は全く別のことですので、よく考慮していただければと思います。また、最初にも述べたように、このnoteは知識の普及啓発が目的であり、批判が目的ではありませんので、このnoteを読んで捕獲主様へ突撃することは控えていただけると幸いです。後者に関しまして、行政の人間であっても、2. で述べたようなことを理解し動ける人がどの程度いるのか分かりませんし、彼らも感情や思考を持った人間ですので、最終的にどのような判断を下すかは私にも分かりません(note中では行政は許可を出さない可能性が高いのではないか、という"可能性"として記載しています)。つまり、あのカラスの命を優先して、例外的に飼育を認めよう、となる可能性もゼロではないということです。そうなった場合、行政の判断のみ見た人が「このnoteは虚偽だ!名誉毀損だ!」となりかねず、そのため、個人アカウント名や詳しい経過に関しては予防的措置として述べておりません。また、重ねて申し上げますが、このnoteはケーススタディによる知識の普及啓発が目的であり、捕獲主様への誹謗中傷や名誉の毀損は全く望んでおりません。ご理解いただけると幸いです。